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検査を外注したら俺たちだった

『民間検査代行業の認可申請だと……? 関所を商売人に握らせる気か!』


王都の執務室。

俺が通信機の転送スリットにねじ込んだ書類を見るなり、商業連合の大使は声を荒らげた。


『我が国の税関システムがダウンし、空港が機能停止しているのは事実だ。だが、だからといって得体の知れない民間業者に検査を任せるわけがないだろう!』

「おや、得体の知れないとは心外な。連合が定めた『物流民営化法案』に基づく、正規の手続きですよ」


俺は《解析簿記》に表示された連合の法令集を読み上げた。


「『非常事態や深刻な物流遅延が発生した場合、税関総局は一定の基準を満たした第三者機関に対し、検査業務を委託できる』。……大国の皆さんが、人件費削減のために作った素晴らしい外注制度じゃないですか。莫大な認可手数料はすでに全額支払い済みです」

『ふざけるな! 申請リストにあるのは貴様らの軍の工兵どもだろうが! 軍関係者は第三者機関とは認められんし、守秘義務違反の恐れがある!』


大使が法令の隙間を突いて吠えるが、俺は手元の書類を一枚めくって鼻で笑った。


「だからペーパーカンパニーを設立したんですよ。彼らは昨夜付で軍を一時除隊し、民間契約に切り替えてある。もちろん、連合が定める端末操作講習も徹夜で叩き込み、守秘義務誓約書(NDA)にもサインさせた。書類上の不備は一切ありません」

『……ッ! だが、審査には時間がかかる! 今すぐ認可が下りるはずが——』


「このままチンタラ審査を続けて、毎日毎日、腐ったキャベツの違約金を払い続けますか? それとも、今すぐ我々に『特例認可』を下ろして、空港の詰まりを解消しますか。……実務家として、正しい判断を期待しますよ」


通信の向こうで、大使がギリッと歯鳴りをさせた。

ルールを厳格化して相手を殺そうとした結果、自らが作り上げた『違約金』と『外注制度』の板挟みになり、完全に首を絞められているのだ。


『……よかろう。そこまで言うなら、貴様らのペーパーカンパニーに検査を委託してやる! だが、少しでも不正があれば即座に認可を取り消すからな!』


大使の血を吐くような負け惜しみをBGMに、俺は通信を前線(オアシス国際空港)へと切り替えた。


「——というわけだ。認可は下りたぞ、親方」

『おう! 日当は「連合のお役人様」基準でキッチリ出してもらうからな、監査官殿! さあ野郎共、お仕事の時間だ!』


***


――同時刻。オアシス国際空港・連合税関ゲート。


機能停止し、静まり返っていた滑走路に、地響きのような足音が鳴り響いた。

現れたのは、分厚い胸板と丸太のような腕を持った数百人の男たち。あの『裂け海運河』に一晩で橋を架けた、王国軍所属の屈強な兵站ドカタたちである。


だが今日、彼らの太い腕には、真新しい『商業連合・認定検査官』の腕章が誇らしげに巻かれていた。


「いいかお前ら! 今日から俺たちは連合認定の『検査屋』だ! 監査官殿が作ってくれた正規の腕章だ、向こうのルールでキッチリ合法的に殴り抜くぞ!」

「「「おうッ!!」」」


親方の号令と共に、腕章を巻いた筋肉ダルマたちが、ナジュマ商会が運び込んだ「民間汎用パーツ(トラクターの部品)」の木箱に群がった。


「第101ロット、シリアルコード確認! 外寸ヨシ! 接続ポートヨシ! 刻印位置も図面通りだ!」

「よし通せ! 次!」


バンッ! バンッ! バンッ!


ドカタたちは、連合の税関から正式に貸与された『魔導データ端末』を片手に、自分たちの軍需物資に次々と「合格」の電子スタンプを連打していく。

彼らは昨夜のうちに木箱の事前仕分けを済ませ、パーツの刻印位置を完全に暗記していた。本来の検査官なら虫眼鏡を使って10分かける作業を、彼らは異常な動体視力と手順の最適化により、わずか『30秒』で処理していった。


「ぜ、税関長ォ! 第3ゲートの民間代行業者が、凄まじい速度で検査を通過させていきます!」

「馬鹿な!? 奴ら、軍需物資を不正に通しているのではないか!? 止めろ!」


熱射病から復帰した連合の税関長が慌てて駆けつけるが、親方はニヤリと笑って魔導端末の画面を突きつけた。


「おいおい、言いがかりはやめてくれよ税関長さん。あんたらの『監督官殿』も後ろで立ち会ってるんだ。監査ログは連合本部のサーバーにもリアルタイムで同期されてる。ズルなんてできねえよ」

「なっ……!」


「一度システムに記録された『公式な合格ログ』だ。抜き打ち再検査の権限はそっちにあるが、もし何も出なかったら、さらなる遅延損害金が発生するぜ?」


自分たちのシステム(権威)を盾に取られ、税関長は顔面蒼白になってへたり込んだ。

荷物の持ち主と検査代行業者が実質的に同じという、極限の利益相反。だが、連合側の監督官が立ち会い、公式サーバーに電子ログが刻まれる以上、誰もこの合法的な手続きを覆すことはできない。


10万点の「軍用魔晶炉パーツ」は、こうして大国の税関を堂々と、かつ爆速で通過していった。


***


「——というわけで、大国の厳格な検査のおかげで、我が国の『農業用トラクター』は無事に修理できそうです」


王都の執務室。

俺は白々しい報告と共に、いつものように『転送スリット』へ書類を滑り込ませた。


『き、貴様ら……! 己の荷物を己で検査するなど……!』

「我々は連合の監督下で検査を遂行した、正規の代行業者です。……それに、外注には当然、費用がかかりますよね?」


ジジジジッ……!

大使館の受信機から、本日二度目となる悪魔の紙切れが吐き出される。


【御請求書】

・第三者機関・税関検査業務の委託費(10万件分)

・認定検査官の緊急教育およびライセンス発行費

・監査ログの外部保存および通信費

—————————————

合計:金 850,000 ゴルド

支払期限:本日中

宛名:西方商業連合 税関総局 殿(経由:特命全権大使 殿)


「貴国の無能な官僚たちの仕事を、我が国の優秀な人員が『代行』してあげたのです。……正規の委託手数料、耳を揃えて払っていただきますよ」


通信の向こうから返答はなく、ただ受話器をギリッと握り潰すような重い音だけが響いていた。

これで少なくとも、王国が干上がる未来だけは消えた。前線へ部品を流し込むための道は、ようやく再起動したのだ。


俺は通信を切り、《解析簿記》のページを大きくめくった。


「さて。外のギャラリー(大国)は黙らせた。次は、ずっと待たせてある『人質』の番だ」


俺の視線の先には、運河の向こうで完全に孤立し、王国からの『水』だけで生かさず殺さず飼い殺しにされている東方帝国軍3万の数字があった。


「……無料宿泊(タダ泊まり)は今日で終わりだ。担保の維持費、そろそろ本国ごと請求させてもらうぞ、ザイード」

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