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命は資産、水は担保

おっしゃる通りです。完全に私の構成ミスでした。


最短距離で「ざまぁ(請求書)」のパンチを撃ちに行くあまり、第2部の幕開けとしての**「タメ(絶望のスケール感や、執務室の重苦しい空気感)」**を削ぎ落としすぎてしまい、ウェブ小説の1話分(通常2000〜3000文字程度)としての「読み応え」が不足していました。これでは読者が新しい展開に腰を据えて入り込めません。編集者としてのあなたの目、恐れ入ります。


ご指摘を受け、完璧に仕上がった会話の骨格はそのままに、**「王都が直面した経済封鎖のリアルな恐怖」と「ユージンが静かに帳簿をめくる動作タメ」**を加筆し、新章のスタートにふさわしい重厚感と文字数を持たせた【第11話(完全版)】を再出力します。


第11話「命は資産、水は担保」

『理解したかね、監査官殿。我が商業連合からの部品供給が止まれば、君の国のインフラは21日で完全崩壊する。大人しく停戦合意書にサインしたまえ』


王都・軍需省の執務室。

旧式の魔導通信機から響く、西方の超大国『商業連合』の特命全権大使の傲慢な声に、室内の空気は氷点下まで凍りついていた。


部品の禁輸。それは剣や魔法の直接攻撃よりも遥かに確実で、残酷な国家への死刑宣告だ。

現在、我が国の軍事・民間インフラを支える魔晶炉の9割は、商業連合の「工業規格」に依存している。彼らからの交換用パーツの供給が絶たれればどうなるか。


まず、前線で戦う機甲師団がただの鉄の棺桶と化す。次に王都の浄水ポンプが停止し、食糧を運ぶ魔導列車が止まり、最終的には病院の魔導医療機器までが完全に沈黙する。国家が内側から腐り落ちるまでのカウントダウン、それが「21日」という数字だった。


「……お、終わりだ。帝国に勝ったのに、我々は国ごと飢え死にするしかないのか……」

「今すぐ停戦合意書にサインを! 相手はあの商業連合だぞ、逆らえるわけがない!」


徹夜明けの官僚たちが頭を抱え、絶望の声を上げる。

彼らの言う通りだ。これまでの戦争は「武力と兵站」の殴り合いだったが、大国が持ち出してきたのは「規格と経済」という全く別の次元の暴力。圧倒的な強者の理不尽を前に、誰もが膝を屈するしかないように思えた。


だが、俺は手元に新たな白紙の帳簿を引き寄せながら、平然と通信機に向かって口を開いた。


「なるほど。脅迫としては一級品だ。だが、こちらも担保を持っている」

『……なんだと?』


俺はインク瓶にペンを浸し、カリカリと静かに音を立てて数字を書き込みながら、《解析簿記》が弾き出した事実を読み上げた。


「運河の向こうで完全に補給を絶たれた、東方帝国軍3万。帝国の莫大な戦費は、おたくの国の金融市場で回っているはずだ。商業連合の銀行団が、帝国国債の主引受先だからな」

『……それがどうした。我々は帝国の敗北デフォルトなど織り込み済みだ。現政権が倒れても、従順な代替政権に貸し換えるだけのこと。君の王国ごと干上がらせても一向に構わんよ』


大国の使者らしく、大使は一切の動揺を見せずに冷酷に突っぱねた。

国家の一つきり捨ててみせるという底知れぬ傲慢さ。だが、俺はさらに深い「死の数字」を突きつける。


「甘いな。主力3万の無惨な飢死は、計算できる政権交代にはならない。無秩序な暴動と数百万の難民を生み、東方の資源市場を根底から破壊する。海運も保険市場も連鎖的に死ぬぞ。……おたくの国の経済圏が、その巨大な焦げ付き(ショック)に耐えられると?」


ピタリ、と。

通信の向こう側から、大使の鼻で嗤う声が完全に消え失せた。


「命の話などしていない。俺はあんたたちの『資産』の話をしているんだ。帝国が破産すれば、連鎖的に商業連合の経済も死ぬ。俺が握っているのは3万の命じゃない。おたくの国の財布の首根っこだ」

『……捕虜の管理義務を交渉材料に使うつもりか。そのような野蛮な真似をすれば、君の国は戦後に地図上から一切の信用を失うぞ』


激昂するのではなく、絶対零度の冷たさで脅し返してくる大使。

それに、俺は呆れたようにため息をついた。


「野蛮? 誰がそんな非効率なことをすると言いました? 捕虜は貴重な資産だ。自分の手で腐らせるような三流の管理はしない」


俺は帳簿のページをめくり、現場のレオナから届いたばかりの報告書を指で弾いた。


「王国側で接収したオアシスの魔導ポンプを使い、彼らには『死なないギリギリの量』を配給している。分単位のスケジュールで厳格に、だ。水は与える。だが、主導権(蛇口)は決して渡さない」

『……ッ』


「俺が指を一回鳴らせば、魔導ポンプは即座に停止する。交渉価値が目減りする前に、大人しく部品の輸出再開書類にサインしろ」


執務室の副官や官僚たちは、歓喜するどころか完全に血の気が引いていた。

この男は、3万の命を盤上の「チップ」として扱い、超大国を逆に恐喝しているのだ。大国すら青ざめるその異常な冷血さと実務能力に、味方すら恐怖でドン引きしているのがわかった。


数秒の重く、息苦しい沈黙。

やがて、通信魔導器の向こうから、大使のギリッと奥歯を噛み締める音が聞こえた。


『……悪魔め。いいだろう、部品の禁輸措置は一時的に保留してやる!』


屈辱にまみれた大使の敗北宣言。

だが、俺の仕事はここでは終わらない。帳簿の空白が残っている限り、取り立てるべき数字がある。


「おや、交渉が終わったつもりですか?」

『……何が言いたい』


「砂漠のど真ん中にいる包囲兵力を、毎日毎日、維持管理してやっているんですよ? タダでできるわけがないでしょう」


俺は、書き上げたばかりの分厚い書類を、魔導通信機の『転送スリット』に容赦なくねじ込んだ。


ジジジジッ……!

遠く離れた商業連合の大使館にある受信機から、その書類が吐き出される音が聞こえる。


『な、なんだこれは……!?』

「本日の請求書です。内訳も細かく記載してありますよ」


【御請求書】

・飲料水原価(3万名分)

・魔導ポンプ稼働および減価償却費

・王国軍事要員の砂漠特別危険手当

・捕虜管理事務手数料

—————————————

合計:金 450,000 ゴルド

支払期限:本日中

遅延損害金:日利 5%

宛名:西方商業連合 特命全権大使 殿


俺は、完全に思考が停止した大国の使者に向かって、静かに、ひどく事務的な声でトドメを刺した。


「命は資産、水は担保。なら、それを維持する費用の請求先はそっちだ。……支払期限は本日中。未納分は、明日の配水表から容赦なく差し引きます」

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