人馬と蠍(5)
セントールが恐ろしいのは、高い機動力を持った電磁投射砲の砲台である、という点だ。
電磁投射砲は一撃で戦況をひっくり返す可能性がある兵器だ。それが戦場の任意の位置から好き勝手に砲撃してくるとなると、対応が難しい。
したがって、まずはどうにかして移動手段を封じる必要がある。移動できなくなれば、そこに集中砲火を浴びせるなり、至近距離から振動ブレードでメインフレームをかっさばくなり、料理する方法はいくらでもある。
「さぁて! 行くぜっ! まず足を止めねえとな!」
トマスは煙幕が晴れる前に、煙の中から飛び出すことを決断する。ニックの戦闘ログを見る限り、ザンサスよりもセントールのセンサーの方が感度が高い。煙幕が晴れるまで待っていると先手を取られる。
ザンサスの最大速度で煙幕の外に躍り出ると、すぐさまセントールの位置を確認する。
———すでに工場の外に出ている。射線を自由に取れる屋外の方が有利と判断したのだろう。
しかし、まだ彼我の距離は百メートル以上あった。
セントールが優雅に弓矢を構えるポーズを取って、二発目をチャージしている様子が見える。
近づくために走りながら、牽制を仕掛ける。
右手のアサルトライフルを連射しながら、右肩のグレネードランチャーを発射する。しかし、それぞれ直撃コースから左右に少しずつずらしている。
セントールはその場から動かなければ被弾しない。実際、回避運動は取らなかった。
「本命はこっちだ!」
直後、左肩のロケット砲をセントールの『頭上』に向けて発射する。
立ち往生しているセントールの頭上で、時間差で発射したロケット弾が炸裂した。
その中から飛び出してきたのは、ネットだ。カーボンワイヤーで編まれたジャケット捕縛用のネットが空中でバサッと大きく広がって、セントールを包み込むように落ちていく。
予測していなかったのか、セントールはそのまま為す術もなくネットに絡め取られた。
あれだけ手こずった割りに、ずいぶんと拍子抜けの決着だ。
「古典的な方法すぎて考慮してませんでした、ってかぁ?」
———そう思ったところで、セントールが大きく身じろぎした。
ネットの中でシールドを掲げたかと思いきや、シールドの周囲にあったワイヤーが一気に切断される。
「シールドの外縁部に、回転のこぎり?!」
しかも、セントールはシールドを掲げたまま腰から上を三百六十度回転させて、全身に絡みついていたネットを切り刻んだ。決して腰をひねったわけではない。上半身がまるごとぐるんと一周まわって、何事もなかったように元の位置に戻っていた。
「その動きは、人馬がやったらロマンがねえだろぉー!?」
見た目がいくら人馬であっても、中身は機械だ。機体を支えるフレームが許す限り、上半身や下半身をどの方向にどれだけ回転させようが問題は無い。問題はないが、許しがたい冒涜ではあった。機能美というものを無視している。
「……ちっ。ともかく近づく隙ができたのは助かったぜ!」
セントールがネットを刻んでいる間に、トマスは至近距離に跳び込んでいた。電磁投射砲を撃つには、もはや近すぎる。
セントールが迎撃のためにレールガンの連結を解いてガンランスを構えようとする。そう来るのはわかっていた。
「シールドを構えてる左側は、狙いづらいよなぁ?」
ザンサスをセントールの左斜め前に跳躍させる。
同時に、左手に持っているシールドを捨てて、左腕に懸架しているショットガンをセントールの足元に向けて発射していた。
足を潰すことができれば、移動砲台としてのセントールの脅威は激減する。
しかし、ショットガンの散弾は、残念ながらセントールの脚には届かなかった。
「って、下半身のサイドにシールドをマウントしてんのか?!」
セントールは下半身の両脇に新たにシールドを貼り付けるように搭載しており、散弾のほとんどはそこで止められていた。ハンツにサイドを撃たれたことへの対策かもしれない。
事前の観測が甘かった。舌打ちしながらトマスは体勢を整えようとする。
セントールは後ろに飛び退きながら、ガンランスを連射して牽制してくる。
「あだだだだだっ?! あっぶねえ! 一撃でも直撃したら即死だっつーの!」
ガンランスの推定された口径は二十五ミリ。要するに、イオリが使っているセパード用の狙撃ライフルと同程度の威力の弾丸が連射されている。この近距離でまともに食らえば、ザンサスの装甲はまさしく紙のように貫かれる。
回避に専念しているザンサスを見てチャンスと判断したのか、セントールはさらに追い打ちを掛けてくる。
ボシュウウウウッ!
その下半身から白煙が上がったかと思うと、小型の誘導ミサイルが一発打ち上がる。
ミサイルにしては威力が低いことがわかっているが、直撃すれば大破は免れない。至近距離で爆発しても戦闘不能に追い込まれる。
「くっそ、警察の機体にミサイルへの備えなんて———今度はあるんだよなあ」
コンソールを操作して、大慌てでザンサスの背中にマウントした兵装を起動する。
途端、複数の発光体が煙を吐きながらザンサスの背中から飛び出した。
ミサイル回避用の疑似熱源だ。
セントールが発射したミサイルは、フレアの光を追いかけて迷走したあと、その一つを捉えて空中で炸裂した。
腹に響く爆発音が響く。ノーダメージ。もはやミサイルを恐れる必要はない。
しかし、そうこうしているうちにセントールは全速力で離脱しつつ、二発目の電磁投射砲のチャージを再開している。
追いかけようにも、一度スピードに乗ってしまった四足歩行に二足歩行が追いつくのは難しい。
その上、セントールは上半身を自由に回転させられる。すなわち、走って逃げながらでも、背後に電磁投射砲を発射できるということだ。
引き撃ちに徹されると、厳しい戦いになる。
「あっ! この! 逃げるなって! ヤロウ、遠距離から電磁投射砲を当たるまで撃つつもりか!」
チャージ完了。
セントールの二射目。ザンサスに照準。
「やべっ、間に合わな———」
ボッ!
トマスとザンサスは、セントールが放った光条に飲み込まれる。
戦車でさえも貫かれる大威力の砲撃。
ヒィィィィィン……。
極超音速で飛翔する弾体が大気を裂いた残響が耳に残る。
その直撃を受けたはずのトマスとザンサスは、しかし健在だった。
「あっぶねー! イオリの『お守り』がなかったら死んでたぜ!」
イオリが投げ捨てていった巨大なシールド。撃たれる寸前にその影に隠れたため、ザンサス本体はダメージを受けていなかった。
だが、巨大だったはずのシールドは半分以上が消失していた。
耐衝撃光熱変換シールド。衝撃を熱や光に変換して逃がすことで、運動エネルギー兵器に高い効果を発揮するナノマシン製のシールドだ。ところが、相手が電磁投射砲となると一度で燃え尽きてしまう。
セントールはすでに三射目を構えようとしている。
次が来ればひとたまりもない。
「イオリ! まだかぁ!?」
トマスは、後ろに控えているイオリに呼びかけた。




