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開演(5)

 ニックが作戦を提案する。

≪いくら規格外の威力でも、単発式なら近距離でジャケットにそうそう当てられるものではない。建物の影から近寄って倒すべきだろう≫

≪それなら、役割分担は簡単だ≫

≪ああ。セパードで引きつける。攻撃は身軽なザンサスが適任だ≫

≪任せろ。奇襲して蜂の巣にしてやる≫

 トマスはザンサスを転身させると、近くにある背の低い建物を踏み台にして四階建ての屋上に一気に躍り出る。そのまま屋上伝いにセントールの方へ走り始めた。

 同時に、ニックはセパードのバックパックから丸い球体を取り出して、中央通りに投げ込む。

(煙幕とは古典的だが、こういう場合は頼りになる)

 あっという間に煙幕が中央通りに拡散していく。模擬戦のときにトマスが使ったものと同じだ。センサーを攪乱するので中からはザンサスやセントールの位置が追えなくなるが、逆もまた然り。電磁投射砲レールガンで狙い打ちされる可能性は低くなる。

 進路上に充満したことを確認すると、ニックはセパードで中央通りに飛び出す。

 途端、煙幕のせいでレーダーが機能しなくなる。視界には何も映らない。それでも、機体のナビゲーションシステムはセントールの『過去の存在位置』を記憶している。

(この距離ではシールドに阻まれるだろうが、注意を引くには十分だ)

 シールドを貫通するには距離がありすぎるが、それでも胴体に直撃すれば無傷では済まない。必ずセパードに注意を向けるはずだ。

 セントールがいるはずの位置に向けて、トリガーを引いた。

(……やはり移動したか)

 手応えはない。やはり、煙幕の展開と同時に位置を変えたと思われる。

 ニックは煙幕の中で機体を左右に跳躍させながら、少しずつ距離を詰める。トマスが奇襲を仕掛けるにしても、ある程度は距離を詰めておかないと囮の役割を果たせない。それに、近づけば有効打を与えられる可能性は上がる。

 前進するとともに、煙幕が徐々に薄くなる。そろそろセンサーがセントールを捉えてもおかしくはない。ロックオンと同時に射撃するため、ニックはトリガーに指を掛けた。

 そして———それはすなわち、セントールからもセパードが見えるということに他ならない。

 ボッ! ヒィィィィィィィン……。

 煙幕ごと、光条が貫く。残響が木霊する。

 秒速数キロメートルの極超音速で飛来した弾体は、見事にセパードを捉えていた。

≪ぐっ……被弾したが、シールドと左腕一本なら安いものだ!≫

 セパードの左腕はシールドごと完全に消失していた。セパードの乱数回避ランダムウォークの精度がセントールの予測能力を上回ったのか、胴体への直撃は免れていた。

 ニックは右腕に残ったアサルトライフルで即座に反撃する。被弾の衝撃で照準サイティングが甘くなっているが、いま撃たなければ追撃される。当たらなくても撃つしかない。

≪ニック! あと十五秒だけ耐えてくれ!≫

≪問題ない。三発目を撃たせる前に、飛び込む!≫

 セントールが三射目をチャージし始める前に、ニックはセパードを全速力で直進させる。防御はかなぐり捨てて、左右に機体を振ることもしない。懐にさえ飛び込めば、電磁投射砲レールガンは封じられる。

 セパードの全速力なら、五秒あれば懐に潜り込める。ニックはトリガーに指を掛けたまま、機体をさらに加速させる。

 セントールは右手に持っていた槍をセパードに向けて構えた。この距離で槍を突いたところで当たるわけでもない。

 近づいたところを串刺しにでもするつもりか———

≪ッ!?≫

 ニックが、セパードの機動を強引にねじ曲げる。

 直感が『避けろ』と告げていた。

 刹那。セパードが走り抜けようとしていた進路を、無数の銃弾がなぎ払う。

 ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!

 石畳がはじけ飛ぶ。その傍らで、セパードは右肩から建物に突っ込んだ。

≪ぐぁっ!? ———トマス! ランスに火器が内蔵されている! 気をつけろ!≫

 それだけ叫ぶと、ニックは機体をそのまま壁面にこすりつけながら無理やりに走らせ続ける。もし立ち止まったら、確実に蜂の巣だ。

≪マジかよ! そいつは怖ぇな! でも、もう着いたッ!≫

 セントールから見て斜め左上方。建物の屋上から、ザンサスがセントールを狙っている。

≪食らいやがれっ!≫

  トマスがトリガーを引くと、セントールの剥き出しの下半身に向けて十二・七ミリ弾がフルオートで放たれる。高低差を含めて距離はせいぜい三十メートル。

 回避できない必中の距離。

(取った!)

 ところが、セントールは左腕のシールドをくるりと四十五度回転させて横に構える。

 下半身はすっぽりとシールドに覆い隠された。放たれた銃弾はすべてシールドで受け止められてしまう。

≪嘘だろ!? 反応が良すぎる! こいつ、他の無人機と次元が違う!≫

 撃たれる前に防御することを決定していないと間に合わない距離だった。ザンサスの接近を事前に察知して盾を構えたとしか思えない。よほど高感度なセンサーを搭載しているに違いなかった。

 セントールが脚を動かして体の向きを変える。屋上にいるザンサスを見上げて、ランスの先端を向けた。

≪やべっ!?≫

 トマスが慌ててザンサスを引っ込めると、屋上の外壁をセントールの銃弾がガリガリとえぐっていく。

≪だああああっ!? 口径いくつだよこれ! 壁ごと抜かれちまう!≫

 ザンサスがその場から飛び退く。放っておくと建物ごと撃ち抜かれる。

≪マズいな。これ以上は……≫

 さすがのニックも弱音を漏らした。奇襲をかけても決めきれず、こちらの戦力は大きく摩耗している。このままでは勝てる見込みが薄い。

 最悪、捨て身で突撃して足止めするしかない。

(ここが私の死に場所か———)

 ニックは覚悟を決める。

 命を賭して、セントールの動きを止める。その隙を、トマスは必ず拾ってくれる。

 セパードに突撃を指示する。機体が前傾して、走り始める。

 ———直後、突如としてセントールの胴体を衝撃が襲った。

 ガガガッガガガッ!

 巨体が小刻みに震える。

 同時に、離れた場所から銃撃音が鳴り響いていた。

 セントールに、銃弾を直撃させた者がいる。

≪誰だ———?!≫

 ニックはコンソール上でセパードが弾きだした状況予測を確認した。

 銃弾の発射点は、中央通りの噴水広場。二百メートル以上離れた場所からの狙撃。

 発射されたのは九発の銃弾。そのうち六発が、セントールの下半身の右側面に直撃していた。一部は装甲を貫いている。

 被弾したセントールは即座に転身して、トマスとニックから距離を取る。

 同時に、ノイズまみれの通信が入った。

≪へっ……ざまあみろ……ってんだ。当たっただろ……?≫

≪ハンツ!? 死んだんじゃなかったのかよ!≫

 トマスの驚愕の声に、ハンツが息も絶え絶えに返答する。

≪死んだふり……ってやつ……だ……。実際……そろそろ……死にそう……なんだが……≫

 ニックはアサルトライフルの銃口をセントールに向けながら、ハンツに賞賛を浴びせる。

≪その距離から精密射撃ピンホールショットで装甲を抜いたのか。呆れた腕前だ。狙撃銃スナイパーライフルがあれば一撃で決しただろうに≫

 トマスは屋上から再びザンサスで身を乗り出して、銃口をセントールに向ける。

≪十分だ。この距離から十字砲火クロスファイアなら今度こそ確実———≫

 トマスとニックが同時にトリガーを引こうとした瞬間、セントールの馬身の上部装甲が、はじけ飛ぶように開いた。

 ボシュゥゥゥゥッ! セントールから白煙が上がる。

 何かが、空に飛び出した。

≪誘導ミサイルかよ!?≫

≪避けろっ!≫

 二発の誘導体が飛翔する。中空へと舞い上がって、ニックとトマスに向かって猛進する。

≪こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?≫

 トマスは対外慣性制御装置アウター・イナーシャル・キャンセラーを全開にして他の建物に飛び移りながら脱兎のごとく逃げる。

≪うおおおおおおおっ!≫

 ニックは飛来するミサイルに向けてアサルトライフルを連射する。

 ———爆発音が鳴り響いた。

 爆煙が晴れると、そこにはすでにセントールの姿はない。混乱に乗じて姿を消していた。

 一拍おいて、通信回線が開く。

≪こちらトマス。生きてるか。脚部を損傷した。この足じゃあいつとは戦えねえ。さすがに警察の機体にフレアは積んでねえよ≫

≪ニックから各機。両腕をもがれて戦力外だが、生きている。破壊力が小さい弾頭で助かった≫

≪ハンツだ……気が遠くなってきた……早いとこ……救助……頼むわ……≫

 どうにか三人とも存命していた。

 トマスはすぐにイオリに通信をつなぐ。

『イオリ。四脚のジャケットを見かけても手を出すな。あれはお前の手に負えない。死にたくないなら逃げろ』

『……せやな。偵察用ドローンで途中から見とったわ。

 ホノカ。うちは中央棟の近くでミサキがリゼを保護するんを待っとる。それでええか』

 すぐにホノカから応答が返ってきた。

『了解。無駄死にはさせられない。そこで待機して』

 有り体に言って、完敗だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 三人とも強い強い。真っ先にジャケットの格納庫を徹底的に潰したのにたまたま生きてた三機だけでこんな目にあわされるんだからセントールさんもお疲れ様でした。
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