少女の正体(10)
二十時を過ぎた頃。
酔い潰れているトマスには、ミサキが酔い覚ましをたたき込んだ。腕にアンプルを刺して、ぷしゅっと。
含有成分とナノマシンが体内のアルコールとアセトアルデヒドを強制的に分解するので、泥酔状態からでも三分もすれば酔いが覚める。飲んでから時間がたっていると効果が薄れるが、この時間なら問題ないらしい。科学の勝利である。
ハルキは未成年なので、そういうものが市販されていることをよく知らなかった。
しばらくすると、トマスが目を覚ました。
「お……おお、すまん。調子に乗って飲み過ぎた。何度後悔しても人類が深酒してしまうのはなぜなんだろうな……?」
自分の問題を人類の問題であるかのようにすり替えているだけである。酔っ払いめ。
ちなみに、机に突っ伏したままのホノカには酔い覚ましを与えていない。
「自業自得よ。明日、目が覚めてからたっぷり後悔するといい」
なぜだかミサキは怒り心頭の様子だった。目の前で盛大に吐かれたのでごもっともではあったのだけれど、直接的な被害を被ったのはハルキだけである。
二日酔いの状態からだと、ナノマシンを使っても簡単には回復しないそうだ。厳密にはそれを可能にする医療用ナノマシンはあるらしいが、市販するとアルコール依存患者を無闇に増加させることになるので、医療機関でしか扱っていないそうな。
ホノカは、ミサキの手で給仕用アンドロイドが持ってきた別の服に着替えさせられていた。同様に、ハルキも新しい服に着替えていた。犠牲になった衣服はクリーニングサービス行きである。南無。
ホノカはミサキが背負って帰ることになった。
トマスはしらふに戻っているので、当然、自分の足で歩いている。
夜道を歩いていると、今さらすぎる疑問が湧いてくる。
「……なぁ、ミサキ。酔い覚ましがあるんだったら、俺が最後まで残ってた意味ってなかったんじゃないか?」
「気のせいじゃない? それにほら、旅は道連れって言うし?」
「その道連れって、犠牲って意味じゃないからな?!」
ミサキとトマスが大笑いする。
ホノカはミサキの背中で夢を見ながらにやにやしている。
月明かりと無数のホログラフが、宿舎までの道中を照らしていた。
***
泥酔したホノカが、ミサキの手で自室のベッドに投げ込まれていた頃。
ラボと外界を隔てるメインゲートをくぐった人影があった。
華奢な体で大きな荷物を担いでおり、特徴的なピンクゴールドの髪は汗で額に張り付いている。中性的な顔立ちで、年の頃は二十代半ばだろう。性別は判然としない。
「はー。やっと戻ってこれたわ。
ホノカめ。なーにが『簡単なお仕事だから旅行がてら行ってきてー?』やねんっ!
アホかっちゅーくらいこき使われたやないか! しばくぞ!」
西側なまり丸出しのイントネーションで独り言を叫ぶと、人影は暗闇の中に消えていった。




