誰がために(5)
「……リゼ」
落ち着いた声で名前を呼ぶ。彼女と目が合って、それだけで真意が伝わった。
「やだ、やだよ……!」
リゼは何を求められているのか察して、それゆえに受け入れることができず、後ずさる。
「約束だ。俺は帰ってくる」
「リゼ、できない! できないっ!」
髪を振り乱して拒絶するリゼを見て、無理強いはできないと悟る。
「……ごめんな」
小声で謝って、頭の中で思い描いた。
リゼを斥力場で吹き飛ばして、無傷のまま意識を刈り取るイメージを。
「———あぅっ」
イメージ通りに吹き飛んで、その衝撃でリゼは気を失った。空中で斥力場に支えられながら、ふわりと床に横たわる。
その様子を見て主の覚悟に気が付いたのか、沈黙を貫いていたグリーフ・ブレイカーが言葉を発する。
『当機は———私は、操者を失いたくありません。考え直して下さい。
その選択は、藤原利世も納得しません』
わかっている。
けれども、そのためにここに来たのだから。
「……グリ。俺だって死にたいわけじゃない。だから、俺が死なないように力を貸してくれないか。頼むよ」
『命令を受諾。最善を尽くすことを約束します———ハルキ』
深呼吸する。
寝台の上で、遠く暗い天井を見上げながら、叫んだ。
「———おい! 西園寺のおっさん! やることはわかってんだろ!」
その怒号に、立ち尽くしていたリョウジが我に返る。
「……本気か。君は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」
頷いて返すが、リョウジは引き下がらない。
「アンブロシアは君の体の循環系に依存しているナノマシンだ。血液がなくなれば機能しない。これ以上の血を抜けば、いくら頑丈な君でも、死ぬぞ」
ごもっともな話だ。ただ、その心配をリョウジにされたのが無性におかしかった。
「ははっ……そうかもな。今回ばかりはヤバいって、わかってるよ。
でもさ。おっさんは、五年前に『撰修人種相手に一芝居打ったって、バレるに決まってる』って言われてたら、最初から諦めてたのか?」
リョウジが苦笑する。そんなはずがないだろう。勝算が薄いとわかっていても、逃げたりはしなかったさ。無言のまま、そんな風に表情が物語っていた。
「いいだろう。君の選択を尊重する」
コンソールに向かったリョウジの背に礼を言う。
「助かるよ。それから、リゼのこと……頼んだ」
「任せておけ。できる限りのことをしよう。
では、ワールド・メーカーの中和処理を再開する」
リョウジがコンソールを操作すると、腹の底にズンと震動が襲ってきた。
全身から急速にカロリーが抜き取られる。悪寒が広がる。
苦しみの奥から、ふわふわした安らぎが顔を覗かせる。
生きる力が、失われる。
意識が、刈り取られて、いく。
言葉が、思考が、記憶が、ぼやけて い く。
「……シミュレーション完了。君が命を賭したとしても、この状況からワールド・メーカーの増殖を押さえ込めるかどうかは五分五分以下だ。分の悪い賭けだな」
だれか、が、話し て い る。
「……すまなかった。いろいろと辛い思いをさせたな」
しかい が まっしろに そまって いく
「君は、リゼの隣に立つことを選んだ。リゼもそれを認めている。
だから、必ず帰ってこい———」
ああ
やくそく
す る




