甘く幸せな夜
ゆっくりと足を踏み出したつもりだったのに、気づけばエリシアは小走りでロジェリオの胸の中に飛び込んでいた。あたたかな腕に包まれて、幸せのあまりため息がこぼれ落ちる。顔を上げれば、愛おしそうに目を細めるロジェリオと視線が絡まった。
「キスしてもいい?」
囁くような声で問われて、エリシアは黙ってうなずく。嬉しそうに口元を緩めたロジェリオが顔を近づけてきて、そっと唇が重なった。
何度も啄むように触れる唇は、甘くて優しい。やがて唇を割って、熱い舌が滑り込んできた。
「……ん、っ」
お互いの舌を絡めるキスは、心地よくてたまらない。ロジェリオの口の中は熱くて、溶けてしまいそうだ。
濃厚なキスを繰り返しているうちに、エリシアの身体はベッドの上に横たえられていた。覆いかぶさってきたロジェリオに見下ろされて、胸の奥がきゅんとときめく。彼の目元は微かに赤くなっており、深い緑の瞳もいつもより濃さを増しているような気がした。ロジェリオになら、熱っぽい目で見つめられることも、たまらなく嬉しい。
「エリシア、愛してる。きみのことが欲しいんだ。もう……我慢できない」
吐息まじりに告げられた言葉が、エリシアの心に沁み込んでいく。同じ気持であることを伝えるために、エリシアはロジェリオの首筋に腕を回すと引き寄せた。
「私も愛してるわ、ロジェリオ。ずっと、こうしたかった。私の全てをリオにあげる。だから、リオのことも全部ちょうだい」
「もちろんだ。心も身体も、俺の全てをシアに捧げるよ」
お互いに強く抱き合い、想いを込めて口づけを交わす。そしてロジェリオは、そっとエリシアの寝衣に手を伸ばした。
ぷつり、と小さな音がして、寝衣のボタンが外されたのが分かった。中に着ているのは薄手の下着だけで、彼に肌を晒していることがとても恥ずかしい。
唇を噛んで羞恥に耐えていると、ロジェリオが小さく笑った。
「シア、そんなに硬くならないで」
「だ、だってドキドキしてるんだもの」
「俺は初めてだけど、シアは『前の俺』とこうしたことがあるんじゃないの?」
冗談めかして言っているけれど、その声に微かな嫉妬を感じ取って、エリシアは苦笑する。
「どちらもロジェリオに変わりはないけれど、私は今のあなたを愛してるの。それに私だって初めてなんだから、恥ずかしいし緊張するに決まっているわ」
「今の俺を愛してくれるんだな、シアは」
噛みしめるようにつぶやいたロジェリオに、エリシアはもちろんと言って抱きついた。
やがてロジェリオの手が再びエリシアの寝衣を脱がしていく。下着すらあっという間に取り去られて、エリシアは生まれたままの姿となる。
「っ、あんまり……見ないで」
「どうして? うっとりするほど綺麗だ。真っ白な肌に赤い痕が映えてすごくいいな」
満足げに笑ったロジェリオが、胸の谷間に刻まれた印を指でなぞった。そんな些細な刺激だけでも、エリシアの身体は期待に高まる。それを見て、ロジェリオが嬉しそうに笑った。
エリシアの身体をそっと撫でていたロジェリオだったが、途中で手を止めてしまう。どうしたのだろうと首をかしげていると、彼はエリシアの左胸にじっと視線を向けていた。そこには、うっすらと傷跡が残っている。死に戻る前、ロジェリオのあとを追うために自らがつけた傷。
「……気になる?」
そっと尋ねると、ロジェリオがハッとした顔になった。エリシアは苦い笑みを浮かべつつ、指先で傷跡をそっと撫でる。
「これは、私が死に戻った証。ここに私は破片を――」
「シア、言わなくていい。シアは今、ちゃんと生きてる」
早口でそう言われて、エリシアはうなずいた。ロジェリオもゆっくりと傷跡に手を伸ばす。そして、傷を癒すかのように優しく指先で触れた。
「……シアが俺を守ろうとしてくれた証だ。きみほど強い人を、俺は知らないよ」
「ありがとう。今こうしてリオと一緒にいられることを、私は心から幸せに思うわ」
「あぁ、俺もだ」
深くうなずくと、ロジェリオは胸の傷跡にそっと唇を寄せた。エリシアは彼の頭を抱きしめ、さらさらとした髪をなでる。
「ねぇ、もっと触って。たくさんキスをして。私はリオのものだって、愛してるって、たくさん印をつけて」
吐息まじりの声でエリシアがねだれば、ロジェリオの顔がさっと赤くなった。そして、困ったように笑う。
「シアは誘惑が上手だな。大事にしたいからゆっくり抱きたいのに、我慢ができなくなりそうだ」
「我慢なんてしないで。リオに愛されていると、実感したいの」
「俺の愛は重たいよ。きっと朝まで寝かせてやれなくなる」
「ふふ、大歓迎よ。ずっと、リオとこうしていたいから」
エリシアが即答すると、ロジェリオも笑って優しいキスを落としてくれた。




