エピローグ 誓いの指輪
結局ロジェリオが宣言していたように、エリシアは明け方まで抱かれた。起きた時には、声が出なくなっていたほどだ。
午前中の大半をぐったりとベッドの上で過ごしたあと、ようやく動けるようになったエリシアは、時間をかけて身支度をしていた。
時刻はほとんど昼に近いけれど、遅めの朝食にしようとロジェリオに誘われたのだ。
侍女のダナは「公爵令息の執着心を舐めてましたわ」とつぶやきながら、胸元に散った赤い痕が隠れるドレスを選んでくれた。
胸元をレースで覆われたドレスは、深い緑色。ロジェリオの瞳の色を選んでくれた侍女のさりげない気遣いに、エリシアは小さく微笑んだ。
「シア、準備はできた?」
迎えに来てくれたロジェリオは、軽くエリシアを抱き寄せると、額に唇を押し当てた。
「今日もシアはすごく可愛い。ずっと一緒にいられるなんて、幸せでたまらないな」
「ありがとう。私もすごく幸せよ」
「今日は天気がいいから、テラスで食事にしよう。デザートに、シアの好きなマカロンも用意しておいたよ」
「まぁ、素敵!」
嬉しいお誘いに、エリシアは大きくうなずく。ロジェリオはエリシアの手を取ると、そのまま抱き上げた。
「きゃ……っ、リオ?」
「昨晩、シアを疲れさせてしまったからね。テラスには俺が連れて行ってあげる」
耳元で甘く囁かれて、エリシアの頬に血が上る。確かに身体は怠くて、あちこちが筋肉痛になっている。同じように明け方まで起きていたはずなのに、ロジェリオだって消耗しているはずなのに、彼は平然としているのが不思議だ。
エリシアの頬にキスを落とすと、ロジェリオはご機嫌に歩き始めた。
テラスにはすでに、朝食の用意が整えられていた。座り心地のよさそうな二人掛けのソファに下ろされ、ロジェリオも隣に座る。
焼き立てのパンや野菜のうまみたっぷりのポタージュスープ、瑞々しいサラダに口の中で溶けるほど柔らかなオムレツなど、どれを食べても絶品で、エリシアは時折悶えながら食事をしていた。そんなエリシアを、ロジェリオは微笑ましそうに見守っている。
食後のお茶を飲み終えると、ロジェリオが控えていたメイドらに下がるように言った。二人きりになると、ロジェリオはあらたまった様子でエリシアに向き直る。
「エリシアに、渡したいものがあるんだ」
「え? 何かしら」
首をかしげていると、小さく笑ったロジェリオがスッと立ち上がる。そして胸元から何かを取り出すと、エリシアの目の前に片膝をついた。
「愛してる、シア。どうかこの先ずっと、俺と共に生きて。きみのいない人生なんて考えられない」
そう言って差し出されたのは、小箱に入った指輪だった。大好きな本のシーンを再現するように指輪を贈られたことが、嬉しくてたまらない。そして、かつてと同じ言葉でエリシアに愛を伝えてくれたことも。
「リオ……」
「必ず、幸せにする。きみと将来を共にする誓いとして、どうかこの指輪を受け取ってほしい」
まっすぐに見つめられ、涙がこみ上げてくる。エリシアは両手で口元を覆いながら、何度もうなずいた。
「私も……っ、私も愛しているわ、リオ。あなたがいなかったらきっと、私は生きていけない」
心からそう伝えると、ロジェリオも嬉しそうに目を細めた。
ロジェリオはエリシアの左手を取ると、薬指に指輪をそっと滑らせてくれた。
彼が贈ってくれた指輪は、記憶の中にあるものとは少し違っている。透明な丸いガラスの中にかすみ草が花束のような形で埋め込まれており、そのそばには緑と水色の小さな宝石が光っている。お互いの瞳の色と、二人が大好きなかすみ草を使った指輪は、とても素敵だった。
「すごく綺麗……! かすみ草を指輪にできるなんて、思ってもみなかったわ!」
「最近開発された技術なんだそうだ。特殊なガラスに花を埋め込むことができると聞いて、絶対にシアに贈りたいなと思ったんだ」
「嬉しいわ。ずっとずっと、大切にする」
指輪を手で包み込むようにして胸に当て、エリシアは目を閉じた。
かつてロジェリオから贈られた指輪もとても素敵だったけれど、あの彼と今のロジェリオは別の人生を生きている。指輪のデザインが違うことは、運命を変えられたことを示しているような気がした。
高まった気持ちのまま抱きつくと、ロジェリオはしっかりと受け止めてくれた。彼の胸の頬を押し当てて、力強く打つ鼓動を感じながら、エリシアは微笑む。
「愛してる、リオ。これからもずっと一緒にいてね」
「あぁ、もちろんだ。一緒に幸せになろう、シア」
揺るぎない声でそう答えてくれるのが、嬉しくてたまらない。
エリシアは顔を上げると、ロジェリオをじっと見つめた。すぐに意図を察知した彼が、微かに頬を緩めて顔を近づけてくる。
降ってきた優しいキスを受け止めて、エリシアはしっかりとロジェリオに抱きついた。




