↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/118

みんなで描く、読書室の案内板

 読書室に置く本が少しずつ集まり、修理も順調に進んでいる。


 そんなある日の朝、エレナは色とりどりの紙と画材を用意していた。


 今日は、子供たちに読書室の案内板に使う絵を描いてもらう約束の日だった。


「竜の絵に、小鳥の絵。それから、船や地図の絵も必要ですね」


 机の上に並べた紙を確認しながら、エレナは呟いた。


 子供たちが描いてくれた絵は、どれも違う。


 大きな翼を広げた竜。

 花の枝にとまる小鳥。

 波の上を進む小さな船。


 その一枚一枚が、読書室の本棚を案内する目印になる。


「ずいぶん楽しそうな準備だね」


 部屋に入ってきたルシアンが、机の上を眺めた。


「はい。子供たちが描いてくれる絵を、できるだけそのまま使いたいと思っています」


「それなら、額に入れたり、厚い紙に貼ったりすると長く飾れるかもしれないね」


「なるほど……。でも、あまり立派にしすぎると、絵を描いてくれた子供たちが緊張してしまうでしょうか?」


「どうだろう。大切なのは、立派に見せることより、描いてくれた絵を大事にすることじゃないかな」


 ルシアンは一枚の紙を手に取った。


「この竜も、描いた子がきっと気に入っているんだろう?」


「はい。前に会った時、とても嬉しそうに竜のお話を楽しみにしていました」


「なら、その気持ちが伝わる飾り方を考えればいいと思うよ」


 エレナは頷いた。


「ありがとうございます。まずは、みんなの絵を見てから考えてみます」


 その時、扉の外から明るい声が響いた。


「エレナ! 準備はできている?」


 ミレイユだった。


「もちろんです!」


「ふふっ。今日は私も絵を描くつもりなの。子供たちに負けていられないわ!」


「ミレイユも描くんですか?」


「当たり前でしょう? 読書室を作る仲間なのだから、私だって参加するわ!」


 そう言いながら、ミレイユは自信満々に色鉛筆を手に取った。


 エレナは微笑んだ。


 今日もきっと、賑やかな一日になりそうだった。



 職人街の広場に着くと、すでに何人もの子供たちが集まっていた。


「あ、お姉さん!」


 以前、竜の物語を楽しみにしていた男の子が、真っ先に駆け寄ってくる。


「こんにちは。今日は、みんなに絵を描いてもらいたいの」


「竜を描いていいんだよね?」


「もちろんよ。竜でも、小鳥でも、船でも、みんなが好きなものを描いてね」


「やった!」


 男の子は大喜びで紙を受け取った。


 エレナは子供たちに色鉛筆を配り、簡単に説明した。


「今日は、読書室の本棚に飾る案内の絵を作ります。例えば、竜の絵があれば、竜が出てくる物語がどこにあるのか、分かりやすくなるでしょう?」


「じゃあ、ウサギの絵を描いたら、動物の本がある場所?」


「そうよ」


「船なら、遠い国の本?」


「ええ。船や地図の絵を使うのもいいと思うわ」


 子供たちは顔を見合わせ、嬉しそうに頷いた。


「よし、頑張るぞ!」


「私、小鳥を描く!」


「僕は、海の絵にする!」


 それぞれが好きな場所を見つけ、紙を広げ始めた。



 しばらくすると、広場は静かな集中に包まれた。


 子供たちは、思い思いに絵を描いている。


 竜の翼を何度も描き直す男の子。


 小鳥の羽を、一枚ずつ違う色で塗る女の子。


 地図を描こうとして、途中で想像上の島を付け足す子もいた。


 エレナは一人ずつの様子を見ながら、必要に応じて色鉛筆を渡したり、紙を押さえたりした。


「お姉さん、ここは何色がいいと思う?」


 女の子が、小鳥の絵を見せてくれた。


「そうね……。あなたは、どんな小鳥にしたいの?」


「えっと、春の森に住んでいる小鳥!」


「それなら、羽に春らしい色を入れてみるのはどうかしら?」


「春らしい色?」


「例えば、若葉のような緑や、花のような淡い黄色。もちろん、あなたが好きな色を使ってもいいのよ」


 女の子は少し考え、色鉛筆を選んだ。


「じゃあ、緑と黄色にする!」


「素敵だと思うわ」


 エレナが微笑むと、女の子は嬉しそうに絵へ向き直った。


 少し離れた場所では、ミレイユが子供たちと一緒に絵を描いていた。


「見て! 私の小鳥も完成したわ!」


 彼女が紙を掲げる。


 そこには、羽を大きく広げた小鳥が描かれていた。


「わあ、すごい!」


「本当? ありがとう!」


 ミレイユは満足そうに笑った。


 しかし、隣にいた男の子が首を傾げた。


「お姉さん、その鳥、なんだか飛ぶのが大変そうだね」


「えっ?」


「羽が大きすぎて、重そう!」


「そ、そんなことないわよ! これは力強い小鳥なの!」


「でも、足も大きいよ?」


「それは……」


 ミレイユは自分の絵を見つめた。


 そして、少し考えた後、堂々と言い切った。


「分かったわ。この子は、空を飛ぶだけじゃなくて、地上でも大活躍する小鳥なのよ!」


 男の子は目を輝かせた。


「すごい! 地上でも強いんだ!」


「そう! きっとそういう種類なのよ!」


 そのやり取りを聞いていたエレナは、笑いをこらえられなかった。


「ミレイユ、本当に素敵な小鳥ですね」


「エレナまで!」


 ミレイユは頬を膨らませたが、すぐに一緒に笑い始めた。



 その頃、カイルは少し離れた場所で、完成した絵を並べていた。


「こちらは竜の絵。こちらは動物の絵ですね」


 種類ごとに分け、端が折れないように丁寧に扱っている。


 ルシアンがその様子を見て声をかけた。


「カイル、絵の整理をありがとう」


「いえ。読書室に飾るものですから、傷まないようにしておきたいと思いまして」


「助かるよ」


 カイルは頷き、次の絵を手に取った。


 そこには、立派な城と、その横に小さな騎士が描かれていた。


「これは……」


「カイルお兄さん!」


 男の子が駆け寄ってきた。


「その騎士、カイルお兄さんだよ!」


「私、ですか?」


「うん! 読書室を守ってくれる騎士!」


 カイルは絵を見つめた。


 城の前に立つ騎士は、確かに鎧を身につけていた。


 ただし、剣は体の半分ほどもある大きさで、兜にはなぜか二本の角がついている。


「……この角は?」


「強そうだから!」


「なるほど」


 カイルは真剣に頷いた。


「では、この騎士は、読書室を守るために特別な装備を身につけているのですね」


「そうだよ!」


 男の子は誇らしげに笑った。


 それを聞いていたミレイユが、すかさず口を挟んだ。


「カイル、角が二本もある騎士なんて、王宮にもいないわよ?」


「子供の想像ですから、問題ありません」


「……意外と気に入っているのね」


「子供が一生懸命に描いてくれたものですから」


 カイルは絵を丁寧に紙の間へ挟んだ。


「大切に保管しておきます」


 男の子は満面の笑みを浮かべた。



 昼過ぎには、たくさんの絵が集まった。


 エレナは一枚ずつ確認しながら、子供たちに尋ねた。


「この絵は、読書室に飾っても大丈夫?」


「うん!」


「こちらも?」


「もちろん!」


 中には、自分の絵を飾るのが恥ずかしいという子もいた。


 エレナは無理に勧めず、優しく声をかけた。


「飾るかどうかは、あなたが決めていいのよ。もし今は恥ずかしいなら、あとで考えても大丈夫だから」


 女の子は少し考え、手に持っていた紙を見つめた。


「……やっぱり、飾ってほしい」


「本当に?」


「うん。みんなに、小鳥の絵を見てもらいたいから」


 エレナは嬉しそうに頷いた。


「分かったわ。大切に飾るわね」


 その子は安心したように微笑んだ。


 エレナは、その表情を忘れないように心に刻んだ。


 絵を描くことも、誰かに見てもらうことも、時には勇気がいる。


 だからこそ、自分の気持ちを大切にしながら参加できる場所にしたかった。



 帰り際、子供たちはエレナたちを囲んだ。


「読書室、いつできるの?」


「もう少し準備が必要だけれど、少しずつ進んでいるわ」


「僕の竜の絵、ちゃんと飾ってくれる?」


「もちろんよ」


「僕の騎士も?」


 カイルが答えた。


「ええ。大切に飾らせてもらいます」


「やった!」


 男の子たちは嬉しそうに手を叩いた。


 エレナは、集まった絵を大切にまとめた。


 竜も、小鳥も、船も、騎士も。


 どれも同じ形ではない。


 けれど、それぞれの絵には、描いた子供の想像と願いが込められていた。


 この絵が本棚に飾られる日。


 子供たちは、自分の絵を見つけて笑顔になるだろう。


 その光景を思い浮かべるだけで、エレナの胸は温かくなった。



 その夜。


 エレナは机の上に絵を広げ、一枚ずつ確認していた。


 どの絵も、丁寧に保管しなければならない。


 厚い紙に貼るもの。


 棚の案内に使うもの。


 子供たちの作品として、壁に飾るもの。


 用途を考えながら整理していく。


「……みんな、本当に一生懸命に描いてくれたんですね」


 呟いたところで、ルシアンが部屋を訪ねてきた。


「まだ整理していたの?」


「はい。せっかく描いてくれた絵ですから、きちんと飾りたいと思って」


 ルシアンは机の上を覗き込んだ。


「どの絵も、その子らしさが出ているね」


「そうなんです。特に、この竜の絵は……」


 エレナは、男の子が描いた竜を手に取った。


 大きな翼に、鋭い爪。


 けれど、顔には優しい笑みが描かれている。


「この子は、優しい竜が好きなんです。前に読んだ物語の続きを、ずっと考えてくれていて」


「きっと、読書室で新しい物語に出会うたびに、想像する世界も広がっていくんだろうね」


「はい。そうなってくれたら嬉しいです」


 エレナは竜の絵をそっと置いた。


「私、読書室が完成したら、子供たちに最初にこの絵を見せたいと思っています」


「いいと思うよ」


 ルシアンは微笑んだ。


「きっと、みんな喜ぶだろうね」


 エレナは頷いた。


 そして、日記を開いた。


『今日は、子供たちと一緒に、読書室の案内に使う絵を描きました。』


『みんな、それぞれ好きなものを一生懸命に描いてくれました。竜、小鳥、船、騎士。どの絵も違っていて、見ているだけで楽しくなります。』


 少し考えた後、最後に書き加えた。


『読書室は、本を並べるだけの場所ではありません。みんなの好きなものや、想像したことを大切にできる場所にしたいです。』


 エレナは日記を閉じた。


 明日は、集まった絵を案内板に使えるように整えよう。


 そして、修理が終わった棚に、どんな順番で本を並べるかを決めよう。


 読書室の完成は、少しずつ近づいている。


 そこに子供たちの笑顔が集まる日を思い描きながら、エレナは明日の準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。