6.お互いを知る時間
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毛足の短いパウダーブルーのカーペット。
明るいチェリーウッドの腰壁。
カシミアピンクに白薔薇がライラックパープルの細いラインで描かれた壁紙。
白い窓枠のついた大きな窓からは薔薇の庭が見える。
優美な真っ白の猫脚家具たちが配置された部屋へ案内された。
「これは、」 うわっ。すっごい少女趣味。よく見ると白い線で天井にも薔薇の模様が描いてある。すごいわ。私がここにいていいのか不安になるわね。
「愛らしい空間ですね」 凛々しいアイシャくんには、こういう部屋も似合いそうだなぁ。いや、シンプルな部屋でも似合う。ど、どんな部屋だろう。一緒に暮らす時は、アイシャくんが好きなように模様替えしてもらうのが一番だよな。うんうん。はぁ、いつか一緒に暮らせるようになるかなぁ。いいや弱気になっちゃだめだ。実現させてみせるぞ!!
「所長?」 さっきの魔法陣のことでも考えているのかな。本当に魔法陣のことが好きなんだなぁ。
「わぁ!」 アイシャくんのドアップ!!
「本日は季節の果物のアフタヌーンティーを御承りしております。ファーストドリンクは如何致しましょう」
金字の飾り文字が美しいメニュー表がバトラーの手で掲げられていた。
「失礼。では私はハーブブレンドティーを」 本日のおすすめから選んでおけば間違いないだろう。お腹に入れば何でも。
「私は、アフタヌーンティーをお願いします」 コースと同じ名前が付いているのだから、きっと相性はいい筈。うん、間違いないわ。うんうん。たぶんそう。
キッシュとサンドイッチ、サラダ、スープ、スコーンと小さなケーキ、そして山盛りの果物が美しく盛り合された華やかな三段デザートプレートが運び込まれる。
「これは凄い」 甘い物だけでなく、塩気のある物もあるのはありがたい。
「どれから食べればいいのか分からないですね」 種類が多い。順番は? あら、スプーンとフォークの種類が少ないわ? スプーンだけは2種類あるけど、あとはバターナイフとフォークだけだわ。全部これを使っていいという事かしら。あら、楽なのね。
「お好きなものを、お好きな順番で、お好きなようにお召し上がりください。当店は一日一組限定です。他のお客様はおりません。お茶のお替わりをご所望の場合はこちらのベルを鳴らしてくださいませ。控えの間よりお伺いに参ります。では、ごゆるりと」
よどみない口調で説明をしつつ、慣れた所作で二つのポットからお茶を注ぐと、バトラーはまっすぐに背筋を伸ばして一礼した。しずかに扉を出ていく。
突然静かになってしまった部屋で二人、テーブル越しに向かい合って座っている。
まっすぐ前を見ると、愛らしい部屋に座っているお互いを見つめることになる。落ち着かないのか視線は彷徨い、結果として、まるでおままごと用のミニチュアのようなケーキを見つめる。
「かわいいですね」 種類は多いけど、どれも一口サイズなのね。所長は、これでお腹いっぱいになれるのかしら。
「かわいいですね」 かわいいものに囲まれたアイシャくん。かわいい。照れてる。かわいい。そういえば、どれから食べればいいのか悩んでたな。
横に用意されていたフィンガーボールを使って指先を洗う。
そうして、目の前のプレートからパイを摘まんで口へ放り込んだ。
「所長?!」 今、手づかみで行きましたよね?!
「お、ステーキパイだ」 小さい肉なのに塊肉を食べている満足感がある。これはいい肉を使っている。赤ワインソースの酸味がバターたっぷりのパイ生地とよく合う。
「私はサンドイッチからにします」 これなら手づかみでも自然だものね。うんうん。……うっわ、これうんまっ!!
「おいしい?」 聞くまでもないけど。目が輝いてる。かっわ!!
「所長! すごいです! このサンドイッチおいしいです!!」 ふんすっふんすっ。
「どれどれ。うんうん。バターとディルとサワークリーム、そして白ワインビネガーでマリネされたキューカンバー。これぞ至高の組み合わせだね」 こういう組み合わせの味が好きなのか。覚えたぞ。
「すごい。私、おいしいってことしかわかんなかったです」 所長の分析力すご。さすがだわ。
「次はどれを食べようかな」
「私は所長がさっき食べてたパイにします」
少しずれはあるものの、目に楽しくおいしい食事のお陰もあって、二人は和やかに楽しい時間を過ごしたのだった。
もう一回続く(笑)




