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5.アフタヌーンティー初体験



「ここです。このお店のケーキが、とてもおいしいのだそうですよ」


そこは、王都の一等地にあるカフェだった。

エスコートされるまま、まるで小さな薔薇園のような庭に入り、香り高い木瓜薔薇が咲き乱れるアーケードを、二人仲良くお互いの言葉に頷き合いながら潜り抜けた。


「なるほど。木瓜薔薇は棘がほとんどありませんからね。客を迎え入れるアーケードには向いていますね」

「香りも強いので、外の空気と一線を画すこともできるので非日常感を演出できそうです」


これまで、庭の薔薇を讃える会話しか聞いたことがなかったバトラーは、今日のカップルの会話に面食らった。


しかし、そこはプロである。バトラーはにこやかにお辞儀した。


「ようこそおいでくださいました。お席へ案内させていただきます」


左腕を後ろへ、右手を前へと回して口上を述べると、後ろの白い扉が開いた。


歩を進めようとするアイシャを制し、バトラーから庇うように前に出る。


「ここは予約制のお店だという話だった。けれど、私たちはまだ予約票を見せてもいないし名乗ってもいない」 これまでのデートはすべて所員たちから駄目出しをされたからね。今回はもう失敗できない。私は、今、アイシャくんをエスコートしている彼女の騎士。求愛中の崇拝者なのだから!


納得するまで動かないとばかりに目に力を入れて威嚇する。

実際のところ、魔法陣馬鹿であるので腕っぷしはカラッキシなのだが。


「あぁ、失礼いたしました。この店へアナタ様をお迎えできる名誉に心が逸りすぎてしまったようです」


バトラーが大げさに仰け反り額を右手で押さえくるりと回った。ちなみに左腕も一緒に大き円を描いて、今は胸を押さえている。


まるで演劇の舞台役者の動きのようで、二人は目を白黒させた。


「はぁ?」 え、キモい。


「4歳で、それまで解読不能とされていた旧西イントーラ地区で発見された石板を解読し、5歳で北部に眠る難攻不落と名高いナー遺跡を守る結界を破り、8歳で、古代魔術を解析し理論を完璧に理解して魔力の保有量が減った現代人でも使えるように魔力消費量を押さえるアレンジを行い発表した魔術師界の麒麟児。アナタ様が魔術師学園の長期休暇における自由研究で発表をされた『非接触パーティメンバー間における思考認識による同一陣使用を可能とする魔法陣について』。あれは、大変たいへん素晴らしゅうございました! ダンジョン内にて、目の前にいるのに指が届かない仲間を遺して発動してしまう帰還魔法陣。同じ空間にいるにも拘らず届かない治癒魔法の効果。または狭い溝におちて針金すら通らないのに見える指輪の救出まで。冒険者のみならず、魔法陣の恩恵を得て暮らしている国民ならば誰もが夢にみては、届かぬ実現という壁に涙を流して参りました。人類の果てなき夢。それを! 学生が! 理論だけでなく実際に発動までさせてしまった! なんと画期的で革新的な! 百年、いや千年に一人の天才魔術師!」


バトラーがばっと両手を広げて身体を仰け反らせた瞬間、どこからか薔薇の花びらが飛び散った。


黒い執事服に赤いバラの花びらが映える。


でも実際のところそれどころじゃなくて。ちょっと目が血走ったバトラーからの大絶賛に、自然に足が後ろへ引く。


「そうして! そんな複雑怪奇な古代魔法陣を整理し、簡略化して一般庶民にも使えるものに再構築して下さった魔術師協会魔法陣部門のエース! ありがとうございます。アナタ様が整理して再構築してくださったお陰で、一般に普及できるようになった魔法陣は沢山ございますれば。こうして私のような老人ひとりで、この店の接客をカバーすることもできます」


自慢げに胸を張って今度はアイシャへの賛辞を謳いあげていたバトラーが、その痩躯をかがめて頭を下げた。


先ほど足元へ舞い散った薔薇の花びらたちが、バトラーの足元で舞い上がり、ふわりと空へと飛んで行った。


「もしかして、これって先日私が納品した傀儡の魔法陣ですか?」


「はい。こちらは届いたばかりでまだ使いこなせているとまではいいませんが、お迎えしたお客様方には大変ご好評いただいております」


無機物を躍らせる傀儡の魔法陣。アイシャはそれを舞台の演出に使うのだと思っていた。


「はぁ。すごいですね。このような屋外ではなく、もっと条件を揃えた限られた空間で使うと思っていました」


風や温度湿度によって、物を移動させる負荷が変わる。使用者は刻々と変化するそれらを瞬時に把握して、微調整しなくてはならない。


「お褒めに預かり光栄です」


「あぁ! かなり簡略化されていたから気が付かなかった。これ、防犯魔法陣にあれを組み込んであるのか」 へぇ。なかなか上手に構築してあるなぁ。


「僭越ながら。所長が魔法陣課に配属される前に、私が改良普及版として作製したものだと思います」 わわっ。随分と昔の仕事だ。今ならもっと魔法効率をあげて発動できるように書けるかも。恥ずかしいっ。


「はい。予約券をお持ちのお方とご同行者様、あぁ人数さえ合っていれば問題ございません。その方々以外は、庭先に足を踏み入れることもできないのです。安心して営業できます」


感心した様子で店で展開中の魔法陣を観察している二人の客を、バトラーは微笑ましく見守った。

尚、当然のことではあるが、一般庶民には展開中の魔法陣を読み取ることなどできない。

認識すらすることはできないだろう。




長くなっちゃったので続きは明日で(`・ω・´)ゞ

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