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7.守りたい



「素敵な時間をありがとうございました」

「美味しかったです。また来ますね」


「季節毎にメニューは変えております。是非またいらしてくださいませ。本日はありがとうございました」


薔薇の庭先までバトラーに見送られる。

この庭の中にいる間、王都の喧騒から切り離された特別な時間を過ごせたことに大満足だ。


「ありがとう」


アイシャくんの手を取り、自分の腕に組ませる。最高だった。

最近の彼女は、自分が隣にいることに慣れてきてくれたと思う。

できるだけ身体を離そうとしないし、怯んだりもしていない。距離の近さを許してくれていることが、本当にうれしい。


──このまま、教会に二人で歩いて行けたらいいのに。


駆け落ちでもあるまいし、結婚式は念入りに準備をして万全の体制で式を挙げたい。

アイシャくんにウェディングドレスを着せたい。十分すぎるほど着飾らせたい。

彼女が自分の愛を受け取ってくれたのだと全世界にふれて廻りたい。


それをするには、愛を受け取って貰わなくてはいけない訳だが。


いつかその日を迎えることができるまで。努力を重ねるしかないのだ。頑張ろうと心に誓う。


「お送りするには少し早いですね。どこか寄りたい場所はありませんか」

「そうですね。図書館に行きたいです。申請してあった本が入荷していないか確認を」


「おい!!」


横から突然伸びてきた手からアイシャくんを庇って前に出る。

腕をつかんで、そこに魔力を込めた。


「ぐわぁああぁぁ!」


「暴漢です。通報を」


「承知いたしました」


薔薇の庭から出てすぐだったので、まだ後ろにバトラーがいたのは幸いだった。

ショックを受けているであろうアイシャくんにさせずに済む。


魔力を強引に通しただけだ。かえって健康になっているくらいだと思うが、しばらくは身体が吃驚して、立てなくなるだろう。


アイシャくんの安全確保が第一だ。道端に尻もちをついた女性を見下ろすのは心が痛いが、仕方がない。このまま話をつけることにする。


「や、やめなさいよ。私はそこの女に話があるだけよ!」


失礼な言い草に、額の血管がピクついた。なんて失礼なんだ。やっぱり攻撃魔法を放つべきだったか。


「そこの女だと? 私のパートナーに何の用だ」


「その女はウチの嫁よ! 浮気者!!」


「何を言っている。彼女は私のパートナー、婚約者だ」 わ、いいいいいいっ言っちゃった!


ぐっと彼女の身体を守るように両手で抱きかかえた。役得。ごほん。彼女の身体がびくっと緊張したのが分かるが、その耳元へ囁く。


「アイシャくん。もしかしてこの人は?」

「あー、見合い相手の母親だと思います。多分ですけど」


「よし。では私の出番だな。任せてくれたまえ。アイシャくんは話を合わせてくれるとありがたい」

「すみません。よろしくお願いします」



「婚約ですって? ふざけるんじゃないわよ。その女はウチの息子ちゃんの嫁になるの! もう決めたのよ!!」


「ふざけているのは、そちらだろう。私を侯爵家の人間だと知っていて、婚約者について嘘を吹聴しているのか」


「こ、侯爵家?! そんな方となんでこの女が」


「この方は、私の仕事上の上司でもあります。先日、正式に……(協約)婚約の申し込みをいただいたのです」


「嘘よ! 騙されてるのよ、アンタ。アンタみたいな行き遅れにそんな話がくる訳がないわ」


「彼女は行き遅れなどではない。それに、我が侯爵家まで愚弄するか」


「ぴゃ!? いいいいえ、でもその女はもうすぐ30ですし。アナタ様にはもっと似合う女性がいると思って」


「いいや。彼女は最高の女性だ。共に働いている私だからこそ、分かる」


「所長……」 やだ。お芝居ってわかってても、きゅんだわ。


「しょちょう……? え、この女の勤めている、魔術師協会魔法陣部門の所長といえば、あの有名な! うっそでしょう? なんでそんな王都で今一番結婚したい独身男性No1を連続受賞中の方がこんな女を?!」


「長々と説明ご苦労。貴様のような妄言を繰り返す暴漢に褒めて貰ってもまるで嬉しくないがな」 アイシャくんが褒めてくれたらうれしいんだけど。


「じゃあ! じゃあ、その女はあきらめてあげるから、ウチの息子ちゃんを就職させて! 結婚するならその女は仕事を辞めるんでしょう? その仕事を替わりに受けてあげるわ」


「彼女自身がそれを希望しない限り、私は彼女に仕事を辞めて欲しいとは思わない」


「侯爵夫人が魔術師の仕事なんてできる訳ないでしょおおお!」


「お前の判断などどうでもいい。すべては彼女が決めることだ」


「むっきぃ」


「だが、もし一級魔術師の資格を持っているなら」


「持ってないわよ!」


持ってないのか、といつの間にか集まったやじ馬たちの心が一つになったのは言うまでもない。


「ならば取得することだ。そうして、就職課に申し込むといい。年に一度秋に募集が始まる」


「……できないって分かってるでしょ」


「資格もないのに仕事ができる訳がない。資格を持つことは最初のスタートラインに着くことだ。その努力すらできない者と一緒に仕事をするなど御免被る」


馬が駆けてくる音がして人垣が割れる。通報を受けて警邏隊がやってきたのだ。


「お疲れ様です」


敬礼をする隊員へ、説明をする。


「申し訳ありませんが、詰め所で詳しく説明をしていただけないでしょうか」


「ではわたくしめが。通報したのは私ですし、すべて見ておりました。それに、これ以上恋人同士のデートの邪魔をしては馬に蹴られてしまうというものです」


「なるほど! では御同行をお願いします」


手際よく縄を掛けられた女性が連行されていく。むぐむぐと何かを叫んでいるようだが、猿轡をされているので分からない。


それを見送って、やじ馬たちも散っていく。


「ご面倒をお掛けして」


謝罪をしようと頭を下げたアイシャくんを止める。


「あなたにとって、この婚約は、こういった面倒ごとを避けるためのものでしょう? ならば、役に立ててよかった」


ぎゅっと、アイシャくんの手を取り、握る。


「所長……」


「あなたが一人でいる時に、あんなのに襲われていたらと思うと、今更ながら怖くなって。すみません。情けないですね」


みっともなく、手が震えた。

自分の手の中にあるアイシャくんの手を守りたいと強く思う。


「情けなくなんか、なかったです。格好、よかったです。所長」


「アイシャくん!」


「ありがとうございます」


「では私の」 妻になってくれると……(トゥンク)


「次は、私が所長を守りますからね! どんな令嬢からだって、守ってみせますよ!」


「……うん。よろしくタノムよ」




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