ⅩⅩⅢー5 エピローグ――アイリの異能
アイリはルキアで特別な英才教育を受けるようになった。
まだ幼い子が、熱心に研究に打ち込んだ。だが、笑わなくなった。
病院を出てしばらく経った頃、近所で火事があった。立ち上る炎を見たアイリは、すくんでしまった。その夜、アイリは悪夢にうなされた。
村の火事――炎をじっと見つめる自分がいた。指から炎が放たれていた。まさか……あの火事は、自分が起こしたのか? 村の家をすべて焼き払った火事。そして、おじさんを傷つけ、シロを死なせたもう一つの火事。
目覚めるとぐっしょりと汗ばんでいた。
アイリは指を白い紙に向けた。紙はチロチロと燃え上がった。急いで火を消し、アイリは呆然と佇んだ。そして、気を失った。
再び目覚めたとき、アイリから笑顔が消えた。自分には怖ろしい悪魔の力がある。怒りを感じると炎を出すようだ。怒ってはいけない。だが、腹がたつことは多い。アイリは誰からも距離を置くようになった。
深く関わらなければ怒ることもない。次第に感情のコントロールを覚えた。だが、幼いアイリは、殻にこもる以外の方法を知らなかった。
気難しく、子どもらしくないが、並外れて優秀な天才少女は、孤高の存在となった。次々と研究成果を発表した。特許など知らなかったが、だれかが特許の手続きをしてくれた。
自分で開発した義手と義足で手も足も難なく動かせるようになった。そして、アカデメイアにやってきた。母が学んだという大学だ。
アカデメイアでも集団生活はできなかった。共同研究など無理だった。アイリはここでもひとりぼっちだった。村のために懸命に貯金した。いつか、火の谷と五里霧の谷を買い求めて、開発という名の自然破壊から村と山を守るために。
隣室のあの平凡な少女だけは別だった。その子が拾った子イヌのせいだけではなかろう。風子はアイリの心を和ませた。何をするでもない。何を言うわけでもない。ただ、そばにいるだけで、アイリのササクレだった心が穏やかになる。そして、風子を通じて知り合った者たちには緊張を感じない。悪口を言いあっても、笑い合っても、アイリの心が波打たない。
櫻館は快適だった。かつてのあの洞窟のように。
ここには異能者が集っている。そして、風子もオロもリクもシュウもだれもが何か大事なものを失っていて、それでもワイワイと生きている。欠けた部分が多く、魔の力をもつアイリは、ここでは特別ではない。それがとても心地よい。
木兎は相変わらず部屋にいる。この木兎を作った父とこれをもらった母をいつかきっと見つけてみせる。アイリは、いつものように木兎をちょこっと撫でて、ベッドに入った。
そばにはモモと風子が眠っている。モモを取り合わないよう、風子はアイリにベッドをくっつけて寝ようと提案した。ふたりの間で自由に寝返りをうちながら、モモがくうくうと軽い寝息をたてている。
月が天中に達し、やがて、夜が明けた。また、一日がはじまる。
「おはよう、モモ!」




