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人違いにもほどがある

 果たして、紅城の推測は当たっていた。

 救急車は一棟(いっとう)のマンションにたどり着き、救急隊員たちは突入していった。そして数分後、担架を(かつ)いで出てきた。担架には一人の男が寝かされていた。

 俺たちはバイクから降りると、救急車のすぐそばまで近づき、担架の上の人物を見た。それはやはり、魔法使いおじさんだった。

 見た限り身体に大きな怪我はない。身体中が埃だらけで、服もボロボロ、髪の毛のセットも無茶苦茶だったけど、気絶してるだけみたいだ。


「ふーん。やっぱりね」

 紅城がつぶやく。少し面白がっているような口調だ。このニセモノには思うところがあるんだろうな。

「この方のご家族ですか?」

 その紅城に向かって、不意に声がかけられた。一人の救急隊員が救急車の中から顔を出している。親切そうでやわらかい声。本人は気を遣ってそう言ったんだろう。

 でも紅城のリアクションは、多分、彼の予想外だったことだろう。紅城は突然沈黙し、口をへの字に曲げてそっぽを向いた。

 ご家族ですかって一言は、暗に魔法使いおじさんと紅城が似てると言ってるようなものだからだろう。

「あの……」救急隊員は、わけがわからず当惑している。

 この人、見るからに人が良さそうだな。いじめちゃ気の毒だ。俺は助け舟を出すことにした。


「えーっ、あの、別人です!」そうだ、救急隊員のお兄さんが気に病まないように、慰めになるような一言を付け加えるか。「その人と彼とは他人の空似というヤツでして!」


 んんん? つい口から、心にもない言葉が出てしまったような気がするぞ。

「なんだよ先生まで!」紅城の怒りの矛先はこっちを向いた。「他人の空似ってことは、先生も! コイツが! 俺に似てると思ってたのかよ! 見損なったぜ!」

「ちが、ちがうってば」

「なんで目をそらしてるんだよ、先生。ちゃんと俺の目を見て言ってみろよ!」

「いやぁ、そのぉ」

 救急隊員は俺たちの険悪な空気を察したようだ。関わりたくないという風に小声でこう言った。

「我々は病院に向かいますので。ええっと、失礼します」

 そして、あたふたと救急車の乗降口が閉じ、彼らはサイレンの音を残して現場を去っていった。

「あー、行っちゃうね。救急車がー、行っちゃう」

 俺は必死に救急車を指さし、話をそらそうとする。が、紅城は射るような視線を俺に向けて離さない。

「行っちゃう……行っちゃったね」

 ははは、と白々しい笑みを浮かべたものの、どうやら許してもらえないようだ。

「ごめん、ごめんて紅城くん」

 手をついて謝ると、そこでやっと紅城は俺から離れてくれた。

「口が滑っただけだよな。わかってるよ先生」

 紅城はそう言ってくれはしたものの、やっぱり機嫌は悪いままだ。さっさと仕事の話を進めて誤魔化さないと。


 現場には消防士も来ているし、消防車も路上に止まっている。

 といっても、消火活動らしき行動は何もとられていない。

 俺は消防士に近づくと、思い切って声をかけてみた。


「あのー、すいません。ここで何があったんですか?」

 話しかけられた隊員は、なんだか胡散臭そうな目で俺を見た。

「何ですか? 無関係なら離れていた方がいいですよ」と、つれない返事だ。まぁそうなるわな。聞き方を変える必要があるか。

「僕はここのマンションに住んでる友達がいるんですけど、近くを通りかかったら火事みたいなんで、心配して来たんです」

 魔法使いおじさんは友達じゃないから、もちろん大嘘だけど、無関係な他人とも言い難い。彼の召喚したフォージを退治したのは、俺と紅城と、あとアレクトーなんだから。

「あ、そうですか」と、消防士はちょっとだけ同情的な口調になった。しめしめ。「マンションの一室で爆発があったようです。現在のところ原因不明ですが、外壁の一部が壊れるほどの被害があったとのことです。我々で調べた限り火災は起きていませんが、コンクリート片などが落ちてくる可能性がありますから、近づかないでください」

「怪我人はいないんですか?」

 その質問にも、消防士は親切にも答えてくれた。

「住民の方は全員避難しています。一人だけ救急車で運ばれた方がいますが、特に怪我などはされていないようです」

 よし。これだけ情報があれば十分だ。

 俺は消防士に礼を言って、その場を離れた。


「怪我人がいなくて良かったな」

 消防士から仕入れた情報を話すと、紅城はホッとしていた。

「召喚した魔法使いおじさんも、さっき見た通り怪我はしてないみたいだよ」

「爆発ってのはフォージが室内に出現したことが原因だろうな。消防士が来てるのはガス爆発か何かと勘違いされたんだろ」

「そうだろうね」

 紅城の実況配信は大盛況だったとはいえ、世間的に知っている人は決して多数派ではないだろう。さっきまでのドラゴン騒ぎと、ここでの爆発を結び付けて考える人もまた多くはないはずだ。

「真相を知ってるのは魔法使いおじさんと、僕たちだけだろうね」

 俺はそう結論付ける。


 言わなくても、紅城が懸念していることはわかる。

 今回の騒ぎで死者でも出たら大ごとなのだ。

 俺たちはレッドドラゴンを異世界に戻したけど、そんなこと社会の公式見解になりようがない。

 世間的に見れば、紅城はドラゴン騒ぎに便乗してライブ配信をしたMooTuberで、人によっては迷惑系の動画配信者として認識することだろう。

 だからこそ、死者が出ちゃったら絶対にバッシングを受けるに決まっているのだ。

「世知辛いなぁ」

 俺のつぶやきに紅城はだまってうなずいた。

今回の投稿で書き溜めた分は終了です。

次回からは、一週間に一度くらいの更新頻度となります。

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