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東京上空、レッドドラゴン 中編

 フォージは首を大きく伸ばし、口を開き——まずい、ドラゴンブレスだ。竜巻の相殺で身動き取れないところに、二撃目を打ち込むつもりだ。激しい風により炎の威力が向上することも計算した、レッドドラゴン最強の攻撃だ。

 だが紅城もこの戦術を予想していたようだ。実際、小説の過去のエピソードで同じ展開が一度あったのだから。カメラの端っこで、いくつものペットボトルが宙を浮き、開栓されていた。

 赤い炎の光が一瞬チロチロと揺れたかと思うと、一気に視界を覆いつくしていく。


『エレイン・ネレガ・カダン! 氷の(つぶて)よ! かかれ!』


 紅城の言葉とともに、水が一斉に(ふく)れ上がり、ペットボトルを突き破るや氷の塊と化して炎へと立ち向かってゆく。ドラゴンブレスと接触した氷は瞬時に溶けて水蒸気と化し、視界を白く(くも)らせる。ブレスの赤色がえぐられるように消滅し、すべては白に塗り替えられた。


『魔法使い同士の決闘ってこんな感じになるんだ』

『クソカッコイイ』

『水蒸気で何も見えねー!金返せ!』

『CGだろ』

『いや、ドローンも併用してんじゃね?』

『ライブ配信でCGは無理じゃないですか?』


 目まぐるしい展開についていける視聴者と、そうじゃない人とで、コメントが二分されている。こんな攻防は自分の目で見なけりゃ納得も理解もできないだろう。

 俺はキーボード上に指を走らせ、文字を打ち込んでいる。魔法と体術のぶつかり合うこの状況をリアルタイムで小説に書き起こすなんて、無茶苦茶じゃないか。言葉を吟味する暇はなく、思いついたままに打ち込む。これはきっと、後で読み返したら身もだえするような酷い文章になっているだろう。紅城の奴も無理を言いやがって。


 それにしても、紅城はブレスを防いだはいいけど、水の半分を使い切っていないか?

 俺がそう懸念した次の瞬間、白く(かす)む視界の向こうからフォージが突撃してきた。紅城は避けきれずに空気の盾で体当たりの衝撃を和らげる。その身体が、空中に持ち上げられた。フォージが鼻先に紅城の身体をひっかけて、上空に放り投げたのだ。カメラの画面が回転して薄暗がりの空を映し、上下逆さになったビル街を映し、そして、下で待ち構えるフォージの顔面をとらえる。

 紅城の身体はフォージの顔面に正面からまたがる形になる。これには、フォージも驚いたらしく、首を振り、竜語で何事か罵倒のような言葉を叫んだ。多分、手を放せとか、降りろとか言ってるんだろう。


 画面に紅城の両手が映る。彼は左手で竜の右の角をつかみ、竜の額の上に、右手の人差し指を置いた。

『我! 紅城直哉(あかぎなおや)の名において命ずる。汝! フォージを我が……』

 これは、契約の言葉だ!

 本来的には、召喚したモンスターを抵抗できない状態に追い込んで契約をするという設定だけど、直接モンスターの身体に手を触れて、指でサインができさえすれば契約の最低限の条件は満たせるということにしてある。このままフォージと契約するつもりか。

 上手くいけば劇的な展開だったろうが、敵はそれを許してくれるほど甘くはなかった。

 フォージは翼を振り、ジャンプした。紅城は振り落とされまいと、両手で角につかまるしかない。過激なロデオのようだ。契約のサインも宣誓も、最後までやらせてもらえなかった。

 顔面に張り付いた無礼者に業を煮やしたのだろうか。フォージが竜語で何かつぶやくと、その巨体が空に浮かび始めた。

 ドラゴンは翼の揚力だけでは空を飛べない。翼に対して、身体が大きすぎ、重すぎるからだ。魔法で空中浮遊をした上で、翼を使い滑空するのがドラゴン式の飛行方法だ。


『飛んでる?』


 誰かのコメント。そしてしばらく、次のコメントが途絶える。カメラの視界の大半はフォージの額を映しているが、それ以外の空間は、夜空を映している。

 そうだ。フォージは離陸しつつあり、紅城はその顔面に必死につかまっている。この展開は、視聴者の多くにとって予想外だったろう。


『おおおおおお!』

『ひょー、すげー!』

『飛んでるよほんとに』


 リアクションが爆発するように増える。何が起きているのかが、やっと飲み込めたようだ。

 だが、紅城はここからどうやって勝つつもりなんだ?

 空中から安全に着地する風の魔法はあるんだから、振り落とされても死にはしないだろう。でも、フォージにつかまるのが精いっぱいで両手が塞がっている。これじゃあ魔法も使えない。ひょっとして、大ピンチなんじゃないか?


 そのとき、動画から紅城の声が聞こえた。

『先生! 先生、この動画見てるな?』

 風がマイクに当たり、雑音ばかりだけど、何を言っているのかは聞き取れる。彼は続けた。

『この次の展開を! こう書いて小説をアップロードしてくれ! そうすれば! 俺たちの勝ちだ!』


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