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東京上空、レッドドラゴン 前編

 悲鳴を上げる暇もなく、炎のドラゴンブレスが俺たちに迫る。しかし、その炎は俺たちの目前で弾けて霧散した。

「最後までセリフをいわせろってんだよ。クソが!」

 あう。紅城の言葉がガラ悪くなってるぞ。あの魔法使いおじさんと同一視されたのが、そんなに嫌だったのか。

 彼の手には水のしたたるペットボトルがあった。さっきドラゴンブレスが消えたのは、あの水でスクリーンを張ったからか。今回はベルトにいくつものウェストポーチをぶら下げているけど、きっとペットボトルを山ほど持ってきたんだろう。準備がいいな。


 そう感心した直後「うあちち」と俺は悲鳴を上げた。背中が猛烈に熱い。なんか焦げ臭いぞ!

 あれ? 上着の背中が燃えてるじゃないか!

 くそ! 消えろ! 消えろ!

 ばたばたとみっともなく背中を叩いて、俺はパニックになる。

 ああああ、燃えていく燃えていく。

 そういえば江戸時代に隠れキリシタンが受けていた処刑方法に「蓑踊り」ってのがあったなぁ。あれはこんな絶望の中で死んでいったのか。

 薄れゆく意識の中で、俺はそんなどうでもいいことを考えていた……


 ばしゃっ、という音とともに、水がぶちまけられた。紅城が火を消してくれたのだ。そのためにペットボトルを一本空にしてしまったようだが。

 それで冷静になって考える余裕ができたんだけど、さっきの水のスクリーンでも消せなかったブレスが、俺の背中に火を付けていたんだな。

 どうも紅城の魔術はソロ冒険者向けが多い。


「先生~悪いんだけど」

 言いにくそうな紅城を見て、俺はすぐに自分のするべきことに気が付いた。

「近くのビルに避難しておくよ。配信始めてる?」

「ああ、絶賛ライブ中さ。安全な場所で観ててくれ」ヘルメットのカメラを指さしつつ、紅城は笑う。「それから、この事件の小説化を急いでくれよ。なるはやじゃなくて、今すぐだ」

「小説化? なんで?」

 アレクトー戦で、小説の筋書きが未来を決定できるってわけじゃないことは、わかっちゃっただろう。いまさら急ぐ必要などあるのか。

「文章を推敲なんてしなくていいから、とにかく急いでくれ。俺の推測が正しけりゃ、先生の小説は、まだ役に立つのさ」

 紅城は手を降って、じゃあまた、と言った直後、こう付け加えた。

「もちろん、俺が勝つ展開だぜ」


 わかってるって。

 俺は生返事をして近くのビルに飛び込んだ。幸い、中には小ぎれいなロビーがあって、イスとテーブルが並んでいるのを見つけた。よし、ここを基地にしよう。普通ならこういうところに部外者が座ると警備員に追い出されるものだけど、今回はドラゴン騒ぎで人がいない。心置きなく、使わせてもらおう。

 スマホでMooTubeを起動して異世界ちゃんねるにアクセスする。

 紅城の言葉通り、カメラからの映像が配信されていた。これでリアルタイムに戦闘状況を見ることができる。

 そのスマホをテーブルに置いて、俺はもう一つ、サブのスマホを準備する。こっちは小説執筆用だ。テキストを入力するための小型キーボードも接続しておいた。


 配信は早くも大盛況だった。なにしろ紅城とレッドドラゴンの戦闘が本人の手で実況されているのだ。何か動きがあるたびに、視聴者がコメントをつけ、あるいは投げ銭をしていた。

 ドラゴンの最強で一番カッコイイ武器は、もちろん口からのブレスだ。とはいえ、これは一日に三回しか使うことができない。際限なく使える攻撃手段は、爪と牙、尻尾、そして何十トンにも及ぶ体重だ。そしてそのいずれもが、一撃で人間を殺害しうる。俺の小説には「レベル」なんて概念はないから、ダメージに補正がかかることはない。つまり、ドラゴンの危険性は見た目通りってわけだ。弱めに見積もっても、熊の十倍くらい強くて怖い。

 そのドラゴンの恐るべき攻撃を、紅城は巧みに回避している。

 これは肉体強化の魔法を使っていることもあるけど、もう一つ、効果的な魔法を併用していることが大きい。

 今まさに、フォージの巨体がうねり、太い大木のような尻尾が横殴りに紅城を襲う。しかし紅城は、その尻尾に向かって指一本を突きつけるだけで、容易に距離を取り、回避してみせた。迫力満点の映像だ。視聴者が賞賛の言葉を上げている。


『すげー』

『今、何やった?』

『リアルのパリイ初めて見た』


 コメントがにぎやかに流れていく。今の、指を突きつけて攻撃を回避したのは、作中に登場した「空気の盾」の魔法だ。自動車のエアバッグのような弾力性のある空気の盾を展開して、回避の補助にしたものだ。空気は透明だから、傍目には攻撃をギリギリで回避したように見える。動画映えする良い魔法だ。

 アレクトーの剣のように、魔法を切り裂ける武器には役に立たないが。


 フォージが何かを叫ぶ。竜語らしく言葉は聞き取れないが、歌うようなイントネーションの連続には心当たりがある。魔法の呪文に違いない。ヤツの目前で突風が吹き荒れ小さな竜巻を形作り、紅城に向かって放たれた。そうだった、レッドドラゴンは炎と風の魔法も操るんだった。

『アルカ・ネレガ・アランジ! 竜巻よ、我が敵を吹き飛ばせ!』

 紅城は同じ竜巻の魔法をぶつけて、相殺を図る。路上の砂や紙屑、空き缶やペットボトルなどのゴミが二つの竜巻に巻き上げられ、狂ったように飛び交う。砂塵とゴミで煙る視界の向こうで、フォージの巨体が動いた。


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