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ドラゴンはカッコいい! 反論は禁止とす!

 キャスターが指さしていたあの生物は、おそらくレッドドラゴンだ。全長十五メートル、翼を広げた横幅は二十メートルに達する、赤い鱗に覆われた幻獣だ。

 ドラゴンという生物にはロマンがある。だから当然、俺の小説の中では何体ものドラゴンを登場させた。うかつにオリジナリティなんて出すとかえって読者に幻滅されるので、あえて、ありきたりな「トカゲのような頭部に左右二本の角、長い首、鋭い爪のついた四本の手足と、背中には一対の翼を持ち、口から炎を吐く」なんて姿と特徴を持たせている。そう、ベタそのものの、西洋のドラゴンだ。

 ベタが一番良いことって、けっこうあるもんだ。


 俺たちはバイクに二人乗りして現場に向かった。俺は免許を持ってないから後部座席だ。腹は減ってるけど、のんびり飯を食ってる場合じゃない。ドラゴンの出現場所だが、紅城のマンションから地下鉄で二駅程度離れた一角だ。地図で見る限り、個人の住宅はないに等しく、代わりに高層マンションや商業ビルが立ち並んでいるエリアだった。おおよそ、ドラゴンなんて非現実の存在が現れそうにないところだ。

 仮にドラゴンを見つけても、徒歩で追いかけるなんて無理だろう。そういうわけで、紅城の提案で今回はバイクを使うことになったわけだ。

 俺が行く理由だって?

 もちろん、この事件を小説にするときのために必要だからだよ。


「なぁ、先生!」

 エンジンと風の音で聞き取りにくい。紅城のくぐもった声が、ヘルメットのすき間を通じて聞こえてくる。

「なんだ!?」

 できるだけ声を張り上げる。紅城も大声で応じる。

「あのレッドドラゴンって! やっぱり! アイツだよな?」

「そうだよ! 君が戦った『フォージ』だ! テレビの映像で顔面が映ってた」

「やっぱり! 先生も! そう思うか! 片方の角だけ曲がってたな!」


 物語中盤、紅城は失われた呪文を求めて「古き魔法使いの塔」へ向かう展開になる。そこを守っていたボスが、レッドドラゴンのフォージだった。

 フォージは頭部に左右一対の角を持つが、そのうち左の角だけが上に向かってねじれた形になっている。これが外見上の特徴になっていた。

 紅城はこのドラゴンを挑発し、近くにあった湖の上空まで誘いこんで、水の魔法で戦った。そして激戦の末に、水中につき落として勝利を収めた。俺の小説通りの手順だと仮定すれば、そうやって勝ったはずだ。行動不能にしただけで、殺したわけではないが。


 さて、推測通り、あいつがフォージだとすると、俺の小説の読者が召喚したことは間違いないだろう。じゃあ、誰が?

 一番最初に思いつく可能性は、あの魔法使いおじさんとかいう軽薄な中年男だ。

 だけど、他の誰かって可能性も除外はできない。三人目の魔法使いが、いつ現れるかわからないんだから。


「そろそろだぜ、先生」

 バイクの速度が落ちた。目的地は近い。テレビで見たとおり、ビルの立ち並ぶ没個性な街だった。逃げ回る人の姿はもう見られない。代わりに、警察官が山ほどいる。あちらこちらの道路で交通規制をしいているようだ。

 周辺にはちらほらと野次馬の人影があって、警官たちには立ち去るようにと促されている。会話の断片が聞こえるけど、職務質問されてる人もいるみたいだ。

 これは面倒なことになりそうだぞ。

 呼び止められたら何と言い訳しよう?


 もしも警官が「君たち、こんなところで何をしてるんだい? 身分を証明するものは?」と聞いてきたとしよう。

「はい! 僕はMooTuberで魔法使いの紅城直哉です! 竜退治に来ました!」

「同じく! 僕は鏡行人です! 小説を書きに来ました!」


 速攻逮捕だ。

 または入院させられるかもしれない。気を付けないとな。


 紅城はできるだけ目立たないようにゆっくりと道路を進んだ。やがて人気のない道路を見つけ、その端にバイクを止めた。

「先生。あの警官たちが持ってる拳銃で、レッドドラゴンは倒せない。警官とフォージが戦ったら死人が出るぜ」

「だろうな。刺激しないでくれるといいんだけど」

 レッドドラゴンの食性については「金属を食べる」という設定にした。肉食ではないわけだ。人を襲って食べてしまう幻獣だと、威厳がないし、何より、作中にグロ描写をうかがわせる場面が出てしまう。そうなったらレーティングが面倒だ。だから、そんな設定にしたのだ。

「フォージが自分から人を襲って食うって展開はない。今のところ、良い情報はこれだけかな。誰かが怪我したりしないうちに、あいつをやっつけないと」

 紅城はそう言いながらスマホを弄っている。動画撮影の準備をしているみたいだ。

「外付けのカメラをヘルメットに装着したぜ。これで撮影もばっちりさ!」

 そう言いながらサムズアップ。言葉通り、バイクヘルメットの正面に小型のビデオカメラが輝いている。おい。

「紅城くん。楽しんでない?」

「楽しいよ。先生」ふふふ、という笑い声がヘルメットの中から響く。「フォージって、作中で一番カッコいいモンスターじゃないですか? あれを映像に収めることができれば、動画の再生数も爆上げ確定ですよ?」

 あ、コイツもドラゴンを偏愛する男だったのか。口調まで変わってるじゃないか。

 このドラゴン退治は現実世界なんだから、何が起きるか知れたもんじゃないだろ。一度は勝った相手とはいえ、アレクトーみたいにまた敗北展開かもしれないんだぞ?

「そうだね! いいよね!」

 でも、ドラゴンがカッコいいという意見には同意しておく。

「いいでしょ~? 先生もわかってるな。塔の戦いでフォージを殺さなくて済んで、俺、嬉しかったんですよね」

「ラリー・エルモアの画集は今も時々読み返してるんだ。作中のイメージもあのまんまだ」

「画集? 先生、あとで見せて下さいよ?」

「次の打ち合わせには持っていくよ」

「ふふふ」

「ぐへへ」

 そうやって不気味に笑う俺たちに、何か大きな物体の陰が落ちた。


『そこにいるのは、アカギか? アカギだな!』 

 脳内に直接響く声。おお、これはひょっとしてテレパシーというやつか。初めての感覚だ。

 見上げれば、フォージが俺たちを見下ろしながらホバリング飛行していた。

「フォージ! なんだお前、俺の顔を覚えていたのか」

『忘れるものか!』テレパシーには声のような高低はないけど、込められた感情はよく伝わる。フォージは怒り狂っていた。『いつぞやは、よくも恥をかかせてくれたな? この近くには、大きな川も湖もない。二度と不覚はとらん! 今度こそ消し炭にしてやるから覚悟しろ』

「戦う前に教えて欲しいんだが」と、紅城はバッグから荷物を取り出しつつ、さり気に聞いた。「お前をこの世界に召喚したのは誰だ?」

『お前だろうが!』フォージの怒りが一層膨れ上がった。『何百年かぶりに召喚を受けてきてみれば、わけのわからぬ異世界! しかも召喚した当の本人たるお前は我の姿を見るなり悲鳴を上げて逃げまどいおったな? 泣いて命乞いしようと許すつもりはない!』

 召喚者が紅城? 紅城は俺と一緒にマンションにいたから、人違いだろう。

 つまり――そっくりな誰かが召喚したということかな?


「あ」


 俺は、該当者が一人いることに気が付いた。恐る恐る、隣の紅城の顔を見ると、紅潮してぷるぷる震えてる。彼も俺と同じ結論に達したようだ。

 紅城の格好を真似して、魔法使いの真似をしてる人って言ったら、アイツしかいないじゃないか。

「フォージ。お前の目には、そいつは俺そっくりに見えたのか?」

『見えるも何も、お前だろう! その変な服装! 変な髪型! 間抜けな顔! 見たまんまだ!』

 テレパシーに、バカにしたような波長が混じる。

「……ざけやがって。この野郎!」

 紅城の口から、罵倒の言葉が飛び出す。だが、フォージの対応は無慈悲だった。

 レッドドラゴンの口から、赤い炎の奔流が解き放たれ、俺たちに襲い掛かった!


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