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魔法使いおじさん(仮名) 前編

 この魔法使いおじさんは何者だろう?

 チャンネル開設はつい最近みたいだけど、この二か月に五つの動画を公開してる。

 最初の三つくらいは紅城の「異世界ちゃんねる」をパクった(らしい)シロモノだ。

 内容を要約すると、カメラの前で呪文を唱えて、一人で盛り上がってるだけのイタい中年男を映した動画だ。

 似合っていないコスプレをした中年男性が、ヒーローごっこをしている……そんな映像を見るのはキツかった。俺だって子供のころは鏡の前で「かめ◯め波」とか叫んでたクチだけど、それを人に見られる、見せるなんて最低だろ? 実際、再生回数だって百以下だ。


 けど、四つ目の動画で魔法の発現に成功している。


 これは、つい最近撮影されたものらしい。つまり、俺の小説の存在が知れ渡ってからあとってことだ。この人は、小説から火炎投射の呪文を知ったんだろう。

 カメラの前に火のついた蝋燭を立てて、それに向かって「アルカ・オリン・スパウダ」と火炎投射の呪文を唱える内容なんだけど、詠唱の三回目で蝋燭に反応があり、それから数回で、炎が吹きあがった。

 一度成功した後は、五回ほど連続で火炎投射が打ち出されている。六回目以降は全部失敗してるけど、これは多分、魔力切れを起こしたんだろう……確か、素人が出せる魔法は五回が限度って、小説の中でそんな設定にしておいたはずだ。


 そして今回、五つ目の動画では最初に景気よく火炎投射をやって、そのあと別の魔法に挑戦している。けど、コイツはどうも、俺の小説を詳細まで読んでないみたいだな。魔力の設定がわかってない。火炎投射を放った段階で、魔力が枯渇している。だというのに、別の魔法(今回は風を投射する魔法)の呪文を唱えている。成功するわけないんだ。実際、全部失敗して、尻すぼみのまま今回の配信はエンディングになった。

『というわけで……二つ目の魔法習得は、次回以降になってしまいました。次回もよろしくお願いします! 目指せ! 大魔法使い!』

 魔法使いおじさんの結びの言葉はこんなだった。

 確かに今回は失敗したけど、この人がこれから、ちゃんと情報収集をして、魔法の勉強を続ければ、間違いなく二つ目以降の魔法は習得できるだろう。そして魔力を上げる修行をすれば、もっと沢山の魔法を放つことができるはずだ。

 さて、これは大事件だぞ。

 SNSを再び確認すると、紅城から次のメッセージが届いていた。

『先生、緊急会議だ。すぐに俺のマンションに来てくれ』

 もちろん俺にも異論はなかった。急いで紅城と話をする必要がある。


 紅城のマンションは、まだアレクトー戦による破壊の痕跡が残っていた。棚が二つとドアが一つ、そして、共有スペースにある非常階段のドアが一つバラバラになっている。とはいえ、暮らす分には問題ないので、紅城は普段通りの生活をしている。折を見て、マンションの管理会社を通じて修理を依頼しなくてはいけないだろうが。

 俺は前回そうしていたように、リビングルームで紅城と対面した。検討用に紅城がタブレットPCを用意してくれたので、そのモニターを見ながら話を進めることにする。


「まず、俺が! 言いたいのは! この、センスの悪い服だな! ダサい! ダサすぎる! それから、なんだこの変な髪型は!」

 開口一番、紅城が言ったのは、魔法使いおじさんの服のことだった。モニター上では、さっき見た動画が再生されている。

「なんだあの色合いは。俺を真似てるんだろうが、酷いもんだ」

 おもいっきり感情的じゃないか。よほど腹が立つのか。

 ぬるめのコーヒーをゆっくりと飲み飲み、黙って聞くことにする。普段は砂糖をスプーン一杯だけ入れてるけど、話が長引きそうなのでスプーン三杯入れている。ストレスをやり過ごすのは甘いものが一番だ。

 紅城が言うには、映像を作るときのスタッフはちゃんと自前で雇っているし、服装についてもコーディネーターの指導を受けているという。

 だからこそ、その紅城の服装や撮影環境を模倣して安く済ませたであろう魔法使いおじさんが不快なのかもしれない。

 まぁ、そうでなくても、自分の出来の悪いモノマネ芸を見せられたら、そりゃあ腹も立つだろうな。彼の魔法使いおじさんへのダメだしは、延々と続いた。

 やがて喉が渇いたのか、彼がミネラルウォーターで喉を湿らせているところで、俺は口をさしはさんだ。

「それで、どうする? 著作権侵害でMooTubeの運営に訴えるとかしてみるか?」

「いいや。今はしない」

「なんで?」

「俺の方が圧倒的に知名度は高い。チャンネル登録者数だって、俺の方が百倍以上多い。みんなコイツが偽物だってわかってる。相手にしたら、かえってこのチャンネルの視聴者が増えるかもしれない」

 言われてみれば、なるほど、ありそうなことだな。

「じゃあ、シカトするか?」

 そう聞いてみると、紅城はシワだらけの渋面を返した。

「俺が悔しいのはな。現世で二人目の魔法使いを、俺のところの視聴者から出すっていう夢が壊れたことだよ。二人目が見つかったら、番組のレギュラーに誘って盛り上げる計画だったのに……魔法使いの先生と呼ばれたかったぜ、俺は」

 あ。なんだか紅城のデリケートなところを、この動画が突っついてしまった気がする。何か妥協案はありえないのか。

「最初の計画は諦めて、だね。このおじさんを誘って番組に加えるってわけにはいかないわけだな?」

「イヤだ。生理的に耐えられない。こんなヤツ」

「だろうな」

 予想通りの回答だったので、俺は聞いたことを後悔した。もうちょっと建設的な話にもっていくことはできないかな。

 俺はPCを操作して検索をかける。前回の動画を見たときに、気になってMooTubeをざっと調べてみたんだけど、ここ一週間で紅城の「異世界ちゃんねる」に類似する動画配信が続々と誕生している。中には、今まで全然別のことをやってた配信者が、流行りに乗っかる形で魔法使いのまねごとをしていたりする。

 俺が見た限りでは、この魔法使いおじさん以外に魔法の発動に成功した人はいないみたいだけど、明日はどうなるかわからない。

 続々と魔法使いが誕生する明日。

 魔法の才能が階級を決める未来。

 そんなものが実現したら、この世界はどうなってしまうのだろう?


「紅城くん。基本魔法とはいえ、火炎投射は攻撃魔法なわけだし、危険な魔法を使うなって声明を出しておいた方がよくない?」

 そう提案すると、紅城は自分の思考からやっと戻ってきた。

「そうか。これから三人目四人目とどんどん増えるわけか。俺の知らない魔法使いが」

 今初めて気が付いたという顔だ。紅城は善人だと思うんだけど、ときどきちょっと抜けてる。俺は自分の考えを伝えることにした。

「軽い気持ちで呪文を唱えて大惨事ってことも有り得るだろう。だから視聴者に魔法を悪用するなって言っておくべきだと思うんだよ」


 そう言ったが、本当に俺が怖いのは世間の反応だった。

 今のままだと、将来的に誰かが魔法で人を殺すとか、そんなことだってありえるんじゃないか? その時、魔法の技術を現世に伝えてしまった人間として紅城とこの俺がバッシングされるかもしれない。その日に言い訳が立つように、紅城自身が動画で視聴者に釘をさしておいた方がいいだろう……

 これを読んだ人は察してしまうだろうけど、俺は小心者で、卑怯者だ。声明を出そうと提案する理由は、自分の身がかわいいからだ。

 でも誰が俺を非難できる?

 アレクトーが言っていたように、俺はただの素人の物書きだ。こんなことが現実になるなんて、想像もしていなかった。


 俺たちはさっそく、声明文の作成に取り掛かった。

 魔法は技術であること。使い方によって人を幸福にするが、もちろん不幸にすることもあること。危険度の高い魔法は使うべきではないこと。

 そういうあらましの主張をする、短い動画のための声明文だ。

 面白半分に魔法を使おうとする人間が、これで多少なりとも減ってくれればいいんだけど。俺たちはそう願った。


 ふと見ると、タブレットの画面にポップアップが表示された。登録しておいた動画チャンネルに新作が投稿されたことを知らせるものだ。

 これは……魔法使いおじさんちゃんねる、じゃないか? しかも、ライブ配信?

 紅城に声をかけて、俺はポップアップに表示された動画再生ボタンをタッチした。


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