いんたーみっしょん
アレクトーとのみっともない決戦から数日後、俺は前回の更新分を、現実の結果に合わせて書き直した。
負け展開を書くのは抵抗があって、いっそのこと、アレクトーに連絡を取って口裏合わせを依頼しつつ、勝った展開にしてしまおうかとも思った。
しかしこれには紅城が難色を示した。
「俺はいつか、あいつにリベンジマッチする。その日まで、負けを認めておいてやる」だ、そうだ。今はすっかり立ち直ってくれた。
負けたあの日は、翌朝まで二人で飲み明かしたっけ。
ちなみに紅城は酔うとからみ酒になり、湿っぽくて自虐的だった。
「こんなに悔しいのは高校二年の試合で逆転負けしたとき以来だ!」とか言いながら、めそめそと男泣きして酒を飲む姿というのは、あまり見たくなかったかもしれない。というか、こいつは高校時代はバスケットボール部でレギュラーやれる程度の運動神経はあったんだな。
紅城の過去の人生について、小説の作中ではほとんど触れなかった。そんなこといちいち書いても、読者は誰も読んでくれないからだ。おかげで、現実の紅城が自分を投影するスキが生まれたわけだけど。
もしも、俺が作中の紅城直哉について「高校時代は帰宅部だった」とか書いていたらどうなっていただろう? その結果については推測するしかないが、現実の紅城直哉はトラックにはねられたあと異世界転生せず、ただ病院のベッドで植物状態になるだけだったのかもしれない。きっと。
紅城の落ち込み様は散々で、このまま動画配信まで止めちゃうとか言い出したらどうしようかとも思ったけど、酔いがさめた後は引きずることもなく、さっぱりと「次回の動画配信の企画をどうするべきか」って話をするようになった。
頭の切り替えは早いわけだ。
さて、小説更新後の反応はというと、まぁ予想どおりのブックマーク剥がしもあったんだけど、その一方で、病院の一件を原因とする新規のブックマーク登録者が大量にいたので、総合的には数の変動は少なかった。心配が杞憂で済みそうなのは素直に嬉しい。
英修社の米沢さんは、今回更新分の内容を読んで、何が起きたのかを悟ったようだ。身体の安全を確認するメールが送られてきた。
「一度殺されましたが、今は元気です」とだけ書いて返信しておいたけど、その次のメールは送られてこない。愛想をつかされていませんように。
小説の更新から数日後、紅城からSNSで連絡が来た。
『先生、このURLの動画を見てくれ!』との言葉と、MooTubeのアドレス。なんだ、紅城が何か新しい配信をしたのか? そう思いながらURLをタップして動画を再生すると、そこには紅城の動画……にそっくりな構図、そっくりな背景で、紅城と違う男がハイテンションで手を振っていた。誰だコイツ?
『いぇーい! 魔法使いおじさんでぇ~す!』
いや、誰だよオマエ。魔法使いおじさん??
『今日も、皆さんと一緒に、魔法の世界を探検していきたいと、思いますぅ!』
俺の個人的、かつ独断と偏見に満ちた見解かもしれないし、一言でいえば気のせい、または錯覚かもしれないが……この口調は、ひょっとして紅城を真似ているのだろうか?
そういえば、服装のコーディネイトも、髪型も、なんとなく紅城っぽいような気がするぞ。特に髪! 紅城の髪は天然パーマになってるけど、それを真似しようとしたのだろうか、なんだかドライヤーと整髪料で不自然に固めた歪なパロディになっている。これ、紅城本人が見たら腹を立てるんじゃないかな。
魔法使いおじさん(自称)の「魔法使いおじさんちゃんねる」。
その再生数は、五万を超えている。紅城の元祖「異世界ちゃんねる」ほどじゃないけど、そこそこ注目されてるみたいだな。
ああ、そうか。パクリ番組か。病院の一件で有名になり過ぎたのがまずかったのか。今なら、CGとかAI描画とか使って、魔法っぽいエフェクトだって作れるだろう。それで、魔法使いおじさんとか名乗って、嘘の魔法動画を作ってるんだな?
『さぁ! 今日も景気よくいってみよう! アルカ・オリン・スパウダ!』
魔法使いおじさん(自称)は火のついた蝋燭を手にして呪文を唱えた。すると、たちまち蝋燭から火が湧き上がり、撮影場所になっている部屋を赤々と照らし出した。どうやら、部屋を舞っていた埃に着火したらしく、わずかな時間差とともに小さな火花が散っている。
ほぉ、芸が細かいじゃないか。まるで本物の火炎投射みたいで……
え?
ええ?
えええええ?
『先生。さっき送ったアドレスの動画、再生したか? とうとう俺以外にも魔法が使えるヤツが現れたぜ』
SNSに新たな通知が来て、紅城からのメッセージにそう書かれていた。
そうか、気のせいじゃないのか。
この魔法使いおじさんの、魔法使いってのは自称じゃない。
本当に魔法が使えるんだ! 現実世界でも、紅城じゃなくても、魔法を使うことができる人間がいるんだ!
※読者の皆様へご報告
前話の敗北展開を執筆した時、私は考えていたものです。
「もしもリアルにブックマークが全滅したらどうしよう! 敗北展開なんて、なろうじゃ受け入れられないよぉ!」
でも心配は無用でした。
なぜなら、ブックマークなど最初から、たったの1つしか付いていなかったのですから。
めでたしめでたし。
私は幸せ者です。そうです。そうに決まっています。




