レージとヨルとアニエスと
「あー、楽しかった!」
「本当ね」
祝勝会を終えて進む、帰り道。
左には、少し飲みすぎて顔を赤くしてるアニエス。
右腕には、べったり抱き着いてるヨル。
頭をこするようにするのは魔豹のネコ科としての一面なのか、ヨルの癖なのか。
「やっぱり、みんな一緒だと楽しいね」
祝勝会での登場後。アバロンは正体こそ現さなかったものの、キャッツ状態で楽しんでいた。
これでまた一歩、踏み出せたと言っていいだろう。
「大変だったけど……がんばって来て本当によかった。これも二人のおかげだよ」
「ふふ。今の生活もまあまあ大変だけどね」
「そうだね。でも、それもみんなが一緒なら全然大丈夫なんだ」
満更でもない顔で二人、笑い合う。
「ずっと、アバロンと二人で耐え抜いてきたんだものね」
「……うん」
これまでの日々を思い返すように、ヨルは星空を見上げる。
「皆に悪いヤツじゃねえって認めてもらうにも、この仕事はちょうどいいんじゃねえか?」
「うんっ。いつかきっと、そうなるといいなぁ」
ヨルはうれしそうに応えて、そっと獣耳に触れる。
すると俺たちの前に、見慣れた橋が現れた。
「あっ!」
突然駆け出したヨルは、そのまま欄干に飛び乗った。
軽快に歩を進め、向こう側にたどり着いたところでブンブンと手を振ってみせる。
さすがの運動神経だ。
「……ここで出会ったのよね、私たち」
そう言ってアニエスがピタリと足を止める。そして。
欄干にひょいと飛び乗った。
「おい、お嬢さま」
そのまま両手を広げてバランスを取りながら、欄干の上を進んでいく。
「やめとけって、酔ってんだろ? 落ちたらシャレになんねえぞ」
「大丈夫よ。こう見えても昔はお転婆アニエスって言われたんだから」
「それで崖から落ちただろ」
「……そう。お転婆なのに姉妹の中では一番運動能力のない子だったの」
フラフラと、頼りない足取りで欄干を進むアニエス。
「たくさんの人に力を認められて、必要とされたお姉ちゃんたちとは違って……ッ」
突然大きくバランスを崩す。
「お、おい!」
慌てて引き寄せ抱き留める。
アニエスはそのまま、俺の胸元に飛び込んできた。
「……あはは、やっぱりダメね」
「笑ってる場合か」
冷や汗を拭う。
「あれ、もしかしてこの前の嬢ちゃんか?」
すると、二人組の見知らぬ男たちが声をかけてきた。
「そうだよな? 魔族が来た時はありがとうな! 嬢ちゃんのおかげで家族は全員無事だったぞ!」
「うちもだ。ありがとよ嬢ちゃん、あんたは我が家の英雄だ」
豪快に手を振りながら、男たちは去って行く。
アニエスは照れているのか、居ずまいを正すと。
「……魔力しか取り柄のない私でも、少しくらいは誰かの役に立てた」
真っすぐに俺を見る。そして。
「思い切って師団を出て良かった。誰だって、どこでだって、誰かの役には立てる。そう思えたのは貴方と一緒だったからよ。ありがと、レージ」
今まで見たこともないような、優しい笑みを浮かべた。
三人、並んで歩く下町への道。
やがて見えて来たレンガ造りの一軒家は、俺たちの住居兼事務所だ。
俺は玄関横に置きっぱなしにしてある『なんでもします』看板を手に取る。
「明日からはまた、こいつと一緒かぁ」
でも……分かんねえもんだな。
士団を追放されてまだ少しだってのに、このプラカードからドンドン状況が変わっていった。
まあ、まだ仕事の方から来てくれるほど名は知られてねえし、当分はギルドと二人三脚状態でやってく形になるんだろうけど。
思わずじっと、プラカードを見つめる。
「…………あ、そうだ。いやらしいことは女性客に限るって書けばいいんだ」
さっそくプラカードの字を書き直そう。
「またバカなことをやってるのね……」
「あはは、お酒も入ってるからね」
「いいやこれは神の啓示だ。よし、せっかくだし聖女様歓迎と書いとこう」
そうすることで対象を絞ることができる。
これで今度こそ、豊満な身体を持て余した聖女様がやって来るに違いない!
「ちょっと……いい?」
新たなプラカードの完成と共に、かけられた声。
この穏やかで上品さと色気を感じさせる声色は……。
ついに来てしまったか。俺だけの聖女が。
この流れはさすがにもう間違いない。
大きな仕事を終えた俺のもとに、新たな依頼を持ってやって来た淑女。
そしてその正体は――。
「いやらしいこと……ありなの?」
ムチと首輪を持った、化粧キツめのマダム。
ダッ!! その発情し切った熱視線に、俺は即座に逃走を開始する!
「おいおいちょっと待て! ここに聖女様歓迎って書いてあんだろ!!」
「フフフ、あたし近くでバーをやってて……下町の聖女って呼ばれてるの!」
そんなパターンの聖女もあんのかよ!?
「ほらほら待ちなさぁぁぁぁい!」
ていうかマダム、めちゃくちゃ足早えな!
これはマジでヤバイぞ!
かつて魔王の幹部に氷雪系の秘奥義を使われた時より激しい鳥肌が立ってやがる!
捕まったら一巻の終わりだッ!
「ほらヨル、そんなところで爪を研がないの」
「おっとと、これはうっかり」
「耳と尻尾だけじゃなく、こんな形でもアバロンの性質が表出してるのかしら」
「いいから俺を助けろー! このままじゃ大変なことになるぞーッ!!」
ムチを手に追い迫って来るマダムから、決死の思いで逃げ続ける俺。
呆れるアニエスに、笑う獣耳のヨル。
……そして。出会ったアルテンシアの面々。
英雄とそのおかしな仲間たち。
俺たちがそんな風に呼ばれるようになるのは、もう少し先の話だ。
本日はもう一つ短いのが続きます。
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