元勇者とアルテンシアの仲間たち
魔族の襲撃は、ヨルやアニエスが大物を早々に打ち倒したこともあり、町民や士師団がその残りを片付ける形となった。
そのため、魔族との戦いは一夜で無事終結を迎えた。
消えた宰相の問題も、本物が王城地下の牢獄から発見されたことで一段落。
城内を取り仕切る知識などを得るために、宰相はひっそりと生かされていたのだった。
「あー、だるい」
あれから数日。
今だ身体に残る、気だるさや痛みを気にしながら街を進む。
やっぱ……全力解放はキツいかぁ……。
「レージくん! ほら早く早く!」
そんな俺の周りをちょこまかぴょんぴょんしているのは、白髪モードのヨル。
そんなに強く腕を抱きしめないでくれ。胸が当たってるから……。
顔を緩ませないよう気をつけながらたどり着いたのは、アルテンシアの冒険者ギルド。
アニエスがそのドアを開けると――。
「おうお前ら! 来やがったな!」
「待ってたぜ英雄! あっひゃっひゃ!」
俺たちのもとに駆け寄って来たのは、ブラッドホークとマッドロック。
「大物の魔族相手に戦ったと聞きましたよ! レージさんたちはギルドの誇りです!」
そして、やさぐれなくなってしまったギルド嬢アンナマリー。
満面の笑みで俺のところにやって来ると「おや?」と、その目をヨルに向ける。
「……この方は?」
「こいつはヨル。俺たちの仲間で、例の魔獣ハントを繰り返してた本人だ」
「お、お前さんが!?」
「あっひゃっひゃ! こいつは意外だなァ」
「ぜひギルドに登録を! Aランクがいきなり三人なんてことになったら、うちは大変なことになりますよ!」
「えっ? なになに?」
目をギラつかせたアンナマリーが、首を傾げるヨルの腕をガッツリつかむ。
「おいおい、今日は祝杯のために呼んだんだろ?」
ブラッドホークにたしなめられて、我に返るアンナマリー。
その姿は、残念ながら勝気で元気な受付嬢そのものだ。
「でも、俺たちがいることで少しは仕事が増えたりしてんのか?」
「はい、新しい依頼も来てますよ。しかも魔術師団員の方からです!」
「師団員から? どんなのがあるんだ?」
「はい、先日夜這いに来た謎の男を探して欲しいって」
「ブフー!!」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。そんなことより飲もう! すぐ飲もう!」
アンナマリーが、タルのジョッキに注いだビールを次々に持ってくる。
するとそこに、一組の親子連れがやって来た。
「レージ!」
「お、アレンじゃねーか」
アレンと鍛冶師の親父さんだ。
「親父さん、こっちの剣も役に立ってくれましたよ」
「そうか……慌てて持ち出して来たんだが、無事に届けられて良かった」
「相手はなかなか大物だったんで、こいつがなかったらどうなってたか」
「そうだろ? やっぱ父ちゃんの剣はスゲーんだ」
得意げにするアレン。
アンナマリーは、そんなアレンを見ながら楽しそうにジョッキを配っていく。
そして全員にいき渡ったところで、皆そろって立ち上がる。
「――――もう一人分いいかな?」
するとそう言って、ビール入りのジョッキを受け取った一人の男がやって来た。
「どうやら、ギリギリセーフみたいだね」
申し訳なさそうにしながらやって来たのは――。
「「おじさぁぁぁぁん!」」
思わずアニエスと声が重なる。
「待ってましたよ! また今回もいいところで登場しますねえ」
「本当ね」
「いやいや、僕なんかも呼んでもらって良かったのかな」
「何言ってんすか、あの夜おじさんが来てくれなかったら、最後の魔族の凶行を止められてねえーんすよ」
「それはおおげさだよ。ところで……レージ君」
「はい?」
「見てくれ。あの少年……受付嬢と仲良く……これは……」
「性に目覚める……パターンすね」
「おじさんとしては、やっぱりこの形式が一番だね」
「それならやっぱ、前のやさぐれてた時の方が……」
「なーに言ってんのよ。ほら、始めるわよ」
そう言ってアニエスは、堂々と開会の挨拶メモ(巻物)を取り出す。
「はい乾杯」
「「「「「「乾パァァァァイ!!」」」」」」
ビールをこぼす勢いでジョッキを掲げ、ぶつけ合う。
「ほら、レージ」
一口飲んだところで、ちょっと不満げなアニエスが新しいジョッキを持ってくる。
中身はこれ……カルーアだな。
「こうすれば、乾杯をビールでしても残さずに済むでしょ?」
「ありがてえ……でも、そうなるとアニエスは俺の分入れて二杯だろ? いきなりそんな飲めんのか?」
「大丈夫よ、子供じゃないんだから」
そう言って、俺のビールを一気に飲み干すと――。
「ほらね?」
顔を少し赤くしながら得意げにほほ笑んだ。
……あれ、ちょっとかわいい。
「さてと。ちょっとお手洗い行ってくる」
「だから膀胱どうなってんだよ」
直通運転にもほどがあんだろ。
「おいアンナマリー! ベーコン持って来てくれ! ヨルの嬢ちゃんが食い足りねえって顔してんぞ」
一方ヨルは、夢中でテーブルの上の料理をかきこんでいく。
「これでギルドに……Sランク級が三人も……っ!」
意気揚々とヨルの餌付けを狙うアンナマリー。
「あ、レージさんジョッキ空いてますね。こちらどうぞ」
「あざっす」
そんなちゃっかり受付嬢に渡されたジョッキを、そのまま一気に傾ける。
…………ちょっと待て。
「あ、あれ? この味……もしかして」
ノドを抜けていく炭酸。
これ、飲んだことあるぞ。
「ア、アンナマリー、このドリンクはいつどこで手に入れた……?」
「それは二週間ほど前に買い付けた、最近人気のドリンクですよ」
「……な、名前は?」
「モンスターブル」
「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
おおおおい!!
お、お前、これ大変なことになるぞ!
二週間前って言ったら、抑制剤を混ぜる前に販売されたやつじゃねえか!
「おいおいおい! どうすんだこれ!? どうすんだよこれぇぇぇぇ!?」
「どうしたの?」
騒ぎ立てる俺にを見て、ヨルが首を傾げる。
「アバロンを暴れさせたあの薬物が、俺に、俺にぃぃぃぃ!!」
「大変、これを飲んで!」
助かる!
アニエスが持って来たジョッキを、俺は一気に傾けて――――。
「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥッ!! これもモンスターブルじゃねーか!」
噴き出す俺を見て、アニエスとヨルが爆笑する。
「笑ってる場合じゃねえんだって! このままじゃすぐに暴れ出すぞ! どうすりゃいいんだよ!?」
なんか全然緊張感がねえアニエスたちに問う。すると。
カウンターの内側からひょこっと、魔女帽がのぞいた。
「こんにちは」
「……エルル!」
「はい。お邪魔してます」
「助けてくれ! 実はモンスターブルを飲んじまって……!」
「それは……残念ですが……」
「い、いや残念ですがって何だよ? 抑制剤あるんだろ!?」
「いいえ、残念ながら手元にはありません」
「そんな、マジかよ」
ど、どうしよう、このままじゃモンスターブルを求めて狂うヤバいやつになっちまう!
「いや! アルテンシアの中になら抑制版のモンスターブルもあるはずだ! それを探せば……っ!」
「レージさん、そんなことしなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃねえだろっ!」
「今飲んだものは、何の害もない普通のモンスターブルですから」
「…………はい?」
「実はアニエスさんとヨルさんに、レージさんをびっくりさせようってお話をいただきまして」
「…………や、やってくれたなぁ!」
アニエスとヨル、さらに事情を知ったギルドメンバー、アレン親子におじさんまでもが笑い出す。
「……こんな風に私が笑っていられるのも皆さんのおかげです。ありがとうございました」
うれしそうに笑って、ぺこりと頭を下げるエルル。
「そういう風に言われるとなぁ……」
これ以上なんか言うのも野暮になるし……。
「フフ、これは一本取られたな……レージ」
振り返る。
するとそこには、カウンターチェアに腰掛け優雅にカクテルを傾ける――――キャッツの姿。
「「「「「「お前誰だよ!!」」」」」」
俺とアニエス以外の全員が、即座に声を上げた。
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