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レージvs万手ヤズー

 巻き上がった煙が、ゆっくりと晴れていく。


「ずいぶんな挨拶だなぁ、おい」


 ヤズーとかいう鉄仮面の魔族は、付近の民家を叩き壊した長い手を戻す。

 そして今度は、しならせた両手を鞭のようにして俺を狙って来た。

 八連攻撃。これをステップでかわすと――。


「っ!」


 左の鞭が急に木の枝のように広がった。

 範囲攻撃。後方への跳躍でこれを回避する。

 その間にヤズーは右腕を引く。

 俺を追いかけるように突き出された手は途中から四つに枝分かれし、その全てが剣のように姿を変えた。

 刺しに来る四本の手を、剣で弾く。

 すると赤眼が輝き出し、その目前に光の瞬きが生まれた。


「来るッ!!」


 再度後方へ跳躍。さっきまで俺のいた場所に巻き起こる爆発。

 さらに爆煙の中から俺をつかみに来た腕をかわし、一気に距離を詰める。

 手にした剣を斬り降ろすと、その岩の様な肌に当たってガキンと硬質な音が鳴った。

 続く振り上げを、ぐにゃりと身体をそらしてかわしたヤズーは左手を振り下ろす。

 その腕は網のように広がり、俺を捕らえに来る。

 二の腕を剣で叩いて軌道をずらすと、ヤズーの頭上に閃く魔力光。

 迫る四つの魔力光弾が次々小爆発を起こす。

 俺はこれを二度のバックステップで回避した。

 やれやれ、まさに怒涛の攻撃って感じだな。


「…………ドウシテ、当たらナイ」


 戻した腕を確かめながら、ヤズーが問う。


「お前の武器は豊富な攻撃手段と、不可思議な身体のせいで動きが読みづらいってとこだろ? いわゆる初見殺しの要素も強い」


 一撃の威力の高さを考えれば、十分恐ろしい相手って言える。ただ。


「わりィな。お前の使う技はどれも見たことがある。もっとはっきり言えば、戦ったことがある」


 昔勇者やってた経験ってやつかね、これも。

 そう告げるとヤズーは、その赤い目を強く輝かせた。


「……ダガ、ウォマエはここで死ぬ。ソンナ弱い剣ではウォレには勝てナイからダ……ッ」


 次の瞬間、なんの前兆すらなくヤズーの腕が伸長。

 刀の様な形状になった腕が、驚異的な速度で迫り来る。

 虚をつく形、まさに初見殺しの一撃だ。


「確かにそうだな、だが……」


 刺突は、点でしかない。

 俺は一角兎の時のように、片足を引くだけでその一撃をかわし――。


「斬れねえってわけじゃねえ」


 力を込めて剣を振るう。

 いくら岩のように硬い肌をしてたとしても、伸ばした部分はどうやっても柔らかくなきゃいけねえ。

 やや強引に斬ったヤズーの腕が宙を舞い、地に落ちた。


「…………ウォレの……手が」


 砂に変わっていく自分の腕を見つめながら、ヤズーが震え出す。


「ヨクも……ヨクモ……ウォレの手ォォォォォ――――!!」


 仮面に穿たれた目が、ギラリと強烈に輝く。


「コロス、コロスコロスコロス――――ッ!! ウォマエはイマ、ココでシネェェェェッ!!」


 その直後、赤眼から放たれる二本の光線。

 それは真正面から、空へと向けて放たれる。

 強烈な熱波がほおを焼く、その威力は十二分。

 これぞまさに、必殺の一撃だ。


「……ドウ……シテ?」


 しかしヤズーは驚愕の声を上げた。

 天へ抜けていった光線が、散り散りになって消滅していく。

 俺はすでに、その懐に入り込んでいた。



「それも――――さっき見た」



 ヤズーの首に深々と剣を突き刺したまま応える。

 そもそも俺がここに来る理由になったのが、今の光線だ。

 攻撃の軌道はもう頭にあったってわけだ。

 その技は、発射直前に足元に入られたら隙だらけなんだよ。


「……ツ、強スギる」


 ヤズーは、赤眼を点滅させながら崩れ落ちていく。


「コノ異常なまでの強サ……やはりウォマエが……キシダンから追い出したテンイシャか……」


 そして震える声でそう言うと、そのまま砂となって消えた。


「……追い出した?」


 どういうことだ?

 なんで突然強襲を仕掛けて来た魔族が、俺を『追い出した側』として話してんだ?


「魔族だ! 魔族が来たぞー!」


 聞こえて来た声。

 見れば小型の魔族たちが、崩れた壁からアルテンシア内に入り込んで来ていた。

 そしてようやく来た士師団の本隊が、街に散らばって行く。


「……そうか、そういうことか」


 街を襲いに来てる魔族たちは、陽動だ。

 これで今、王城は完全なまでに手薄になってる。

 かつてもこういう事はあった。魔族が、直に王家を狙いに行く展開。

 もちろんその目的は、国の乗っ取りだ。

 狙いは王か、それとも王子か。


「急がねえと……っ」

「いた! レージ!!」

「ブラッドホーク?」


 駆け出す俺の前に突然飛び出して来たのは、ギルドの戦斧使いブラッドホークと――。


「あっひゃっひゃ、ようやく見つけたぜェ」


 泥棒顔のマッドロック。


「どうしたんすか……二人とも」

「なぁに、アンナマリーから直々にEXランクの依頼を受けちまってな」

「エクストラ?」

「ああ、この鍛冶屋の親子を無事にレージのもとまで連れて行けってな」

「レージ!」

「アレン? それに親父さんも」

「この窮地だ。君なら必ず戦っていると思った……これを使ってくれ」


 親父さんから渡されたのは、一本の剣。


「居ても立ってもいられなくてな。君を探して駆け回っていたところを彼らに助けてもらったんだ。強い魔族には刃が必要だろう? 勇気ある者よ」

「頼むぜ、レージ!」

 強気の笑みを浮かべるアレン。

「……さぁて。こいつで無事、依頼達成だな」


 俺たちの前に現れたのは、五体の魔族。


「レージ、お前はどこかへ向かう途中みたいだったが?」

「急がないと……マズいんだ」

「そういうことならァ、さっさと行っちまいなァ」

「オラァァァァ!!」


 飛び掛かって来た魔族を戦斧で真っ二つにして、ブラッドホークは笑う。


「これでついにBランクになっちまった俺様に――――勝てるかな?」

「きっひっひ、アルテンシア冒険者ギルドの力を見せてやるぜェ」

「二人とも……っ。あとは任せた!」


 士師団の連中が小型魔族を相手に戦う中を、俺は駆け抜けていく。

 早く行かねえと。間違いなく王城で良からぬことが起きる!


「た、助けてくれぇぇぇぇ!!」


 しかし聞こえてきた悲鳴。

 見れば逃げ惑うアルテンシアの住人たちと、それを追う複数の小型魔族。


「時間がねえ。でも放っておくわけには……っ!」


 王城へと向かう足を止める。

 そして俺が魔族たちを追おうとしたところで――。


「グギャアアアア!」


 小型魔族が斬られて消えた。

 なんだ? 一体誰が……?


「こう見えても……昔は剣士なんかをやっていてね」


 夜闇の中からゆっくりと姿を現したのは、一人の男。


「ここは、僕に任せてもらえるかな?」


 聞き覚えのある声で、そう言ったのは――。



「おじさぁぁぁぁん!!」



 再会は師団宿舎への侵入以来。

 橋の上で出会った、あのおじさんだった。

お読みいただきありがとうございました!

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