アニエスと魔術師団
その一撃は、まさに圧倒的な威力だった。
信じられないものを見たとばかりに、困惑しながらやって来るエルル。
「ごめんねエルル。本当はこのバングルを着けた時点でもう、勝ちを確信していたの」
正確に言えば「これで勝てないなら仕方ない」という方が強かったのだが。
アニエスはバングルを見せながら「どやぁ」と笑ってみせた。
「単純に威力を上げてくれる効果もあったんでしょう?」
「いいえ、ありません。今のがアニエスさんに秘められた力です」
「そっか……まだまだ練習不足ってことね。でもこれで、私も少しは誰かの役に立てたのかしら」
「はい、間違いなく」
「ありがとう。エルルのおかげね」
アニエスは、エルルと二人笑い合う。
「あ、あの、アニエスさん」
するとそこに、モンスターブル工場の時に声をかけて来た魔術師団の二人がやって来た。
「なんでしょう?」
「ここ最近、おかしな事件が多いと思われません?」
「魔獣に魔族。もしかしたらこれからも……こういう事が続く可能性がありますわ」
「その通りです。魔族が何か仕掛けてきたりするかもしれません」
「そんな時、あのような恐ろしい魔族と対等に戦える方がいてくだされば、わたくし……師団としてはとても助かります」
「はぁ……」
要領を得ない話し方に、アニエスは首を傾げる。
「そこでアニエスさん。今からでも――――師団に戻られてはいかがかしら?」
「それがいいですわ! いざという時にアニエスさんがいてくれれば……!」
「はい、アニエスさんのように強力な魔力を持つ方がいれば、これ以上のことはありません!」
二人の師団員はまくしたてるようにそう言って、期待の目を向けて来る。
「ぜひ、魔術師団にお戻りになって!」
「師団長には今回の件と合わせて、わたくしの方からお伝えしておきますわ!」
「……お誘い頂き、ありがとうございます」
「はい! 今すぐにでも師団長のところに行って――」
「うれしく思いますが、私はいるべき場所を見つけてしまいました」
「……え?」
「師団には戻りません」
まさかの断わりに、師団の二人は硬直する。
「で、ですが、師団にいれば豊富な援助も受けられます! 名誉はもちろん、魔術師としての格も――」
「師団を出たから、私はあの魔族に勝つことができました」
そう言ってアニエスは、腕につけたバングルを見つめる。
「そしてこれから、もっともっと練習が必要なんです」
「そんな……」
「おい師団! 何ボーッとしてやがんだ! まだ魔族が全部片付いたわけじゃねえんだぞ!」
「勇敢な二人と違って、お前たちはまだ戦ってもいないだろ!」
街の住民たちが、師団の二人に厳しい声をぶつけ出す。
「そ、それは……っ」
「責任持って戦えよ! お前たちはそのためにいるんだろ!? 普段全然街の人間を助けもしねえくせによォ!」
「そうだそうだ! あのデカい城の中で何して遊んでんだ! さっきお前らが俺たちを見捨てて逃げようとしたの忘れてねえからな!」
アルテンシア住民たちに言われて、後ずさりする二人。
「……これからはお二人も、魔術師団員としての覚悟を持たなくてはいけません」
ただ真っすぐにそう伝えて、アニエスは踵を返す。
街にはまだ、戦乱の火が輝いている。
戦わなければならない。今まさに危機を迎えている誰かのために。
「お、お待ちになって! アニエスさん!」
「そもそも、わたくしたちは魔族と戦ったことなんてないのです……っ」
「これからどうすれば良いのかも分かりませんわ……っ!」
「どう戦うかを考え、技術を磨いていくのが、誇りあるアルテンシア魔術師団の責務だと思います」
「待って……! お願いだから待ってくださいアニエスさん!」
「お二人の力が、一人でも多くの方の助けになることを期待します。それでは……ごきげんよう」
「アニエスさん! アニエスさんっ!」
住人たちから向けられる「戦え」という言葉と、うごめく魔族。
恐怖と混乱でガタガタ振るえる師団の二人へ丁寧に頭を下げたアニエスは、エルルと二人走り出した。
アニエス後編になります。
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