アニエスvs砲塔パルパテシア
その大型魔族は、二本の巻角を持った山羊の骨格の様な顔をしていた。
身体のほとんどが長い闇色のローブに隠れており、そこから常に炎の様な暗いオーラを立ち昇らせている。
地面にそのまま溶け込んでいるローブとゆっくりとした移動速度は、砲塔の名を持つその魔族の”遅さ”をそのまま体現していた。
ケガを負った士師団員たちはただ、震えるのみ。
そんな中、一人立ちはだかるアニエス・フェリックスに大型魔族パルパテシアが気づく。
「キサマか? わがハチクの進攻をジャマしたのは」
「まあね、アンタはここで止めさせてもらうわ」
「なるほど、キサマは……マジュツシだな」
「ええ」
「……キサマでは、ワタシには絶対カテない」
「ずいぶんな自信ね」
「ワレは砲塔にして、マジュツシを殺すモノ」
山羊の骨格が、その口元をニヤリとゆがませる。
「キサマは己の弱さと不運をナゲクことになる。さあ絶望するがいい、ニンゲンのマジュツシよ」
パルパテシアの眼前に広がっていく多量のきらめき。
生まれた小さな光弾たちが、一斉に降り注ぐ。
「エーテルアロー!」
アニエスはこれを、無数の魔力の矢で撃ち貫く。
空中で次々巻き起こる爆発の連鎖。
光の尾を引く矢の連射は、光弾の全てを消し去って見せた。
もちろんこれでは終わらない。
「――――エーテルバースト!」
続けて放つ砲台のごとき一撃。
可憐な体躯に似合わない強烈な魔力放出は、幻魔猿やモノリスに放った時の威力をさらに上回っていた。しかし。
「……ヤハリ、その程度か」
「ッ!?」
聞こえて来る涼しげな声。
そこには、傷一つ負っていないパルパテシアの姿。
「どういうこと……? 確かに直撃したはずなのに」
「ククク、ワガ障壁は一流と呼ばれるマジュツシでも打ち破ることはできナイ」
パルパテシアの身体がキラリと、硬質の瞬きを見せた。
「さあ、せめてワタシを楽しませるのだ。弱き者ヨ」
輝く赤眼。
足元に格子状の光線が走り出す。
「ッ!!」
アニエスは全力で駆け出し、そのまま格子の範囲外へと身を投げ出した。
次の瞬間、足元に引かれたグリッドは輝きを強め――――間欠泉のように強烈な魔力を天へと吹き上げる。
「……ウソでしょ?」
見れば付近の民家が、その線に沿ってごっそり削り取られていた。
「くっ、エーテルアロー!」
再び始まった光弾の雨。
アニエスは降り注ぐ魔力の弾丸を必死に撃ち落とす。
そして一瞬の隙を突き、再びその手に全力を集中。
「障壁ならいつか割れるはず! エーテルバースト!」
再び放つ全力の魔力放出。さらに。
「もう一回っ! エーテルバースト――ッ!!」
二連発。
辺りを白く照らすほどの盛大な爆発が巻き起こる。しかし。
「ワガ自慢の障壁に、ニンゲンの魔術など無力」
それでもなお、無傷。
「そしてキサマなどワタシの前では――――役立たずの不良品ダ」
「ッ」
ゆがんだ笑みを見せる山羊の骨格。
絶対の自信を見せるパルパテシアに、アニエスが唇をかむ。
「さあナキ叫べ、弱者ヨ」
再び中空に煌めき出す光弾。
その数は、これまでのものをはるかに上回っていた。
「矢じゃ間に合わないっ! エーテルバースト!」
ついに最大魔術すら、守りに回すことになる。
「きゃあっ!」
光弾を消すことには成功するも、巻き起こった爆風にアニエスは吹き飛ばされた。
「……その程度でよくもワガ前に立ったものダ。身の程を知れ小娘。もはやキサマにデキることは……後悔しながら死ぬことだけダ」
再び足元に走る光のライン。
「まずいっ!」
必死にその範囲外へと転がり出る。
吹き上がった魔力閃がローブの先をかすめ、アニエスは再び吹き飛ばされた。
「アァ、弱い。弱い弱い弱いッ。恥じるがいい。その無力で無様で無能な魔力で、不遜にもワガ前に立ったコトを!」
勝負は一方的だった。
必死に立ち上がろうとするアニエスをあざ笑いながら、パルパテシアはさらに無数の光弾を展開する。
「そしテ、恥を背負って死んでいケ」
放たれる、トドメの一撃。
「……ナ、ニッ!?」
その直前、パルパテシアの足元が突然爆発した。
わずかに体勢が崩れ、光弾も霧散する。
立ち登った大量の煙が、付近の視界を完全に奪い取っていく。
「アニエスさんっ!」
突然駆け込んできた少女が、そのままアニエスの手をつかんで走り出した。
「エルル!?」
「こっちに!」
魔女帽の錬金術師エルルは、アニエスの手を引き民家の陰に身を隠す。
「アニエスさんなら戦っていると思いました。強敵……ですね」
アニエスは、悔しそうに唇をかむ。
「……私の魔力では、あいつの障壁は越えられない……っ」
握りしめた手は、ブルブルと震えている。
悔しくて、仕方がなかった。
「レージは……私を信じて先に行ったのに……っ」
「そういうことでしたか。障壁を持った相手なら、もっと違うものを作ってくれば良かったです」
申し訳なさそうにするエルルの手には、一つのバングル。
「それって確か……」
「魔法威力を一度だけ上げるバングルです。ただ、単純に威力を上げることはできません」
「どういうこと?」
「これはその人が本来持つ魔力を、一時的に解放することで威力を上げるものなんです。要は――」
「私の潜在能力が試されるってわけね」
「はい」
「……いいわ、貸して」
バングルを受け取ったアニエスは大きく息を吸い、そっと腕に通した。
「…………エルル、もう大丈夫よ」
「え? で、でも」
「ありがとう。エルルが来てくれてよかった。間違いなく、エルルはアルテンシアに必要な錬金術師ね」
突然そう言ってほほ笑んだアニエスに、エルルはいよいよ困惑する。
「次は私の番。勝負をつけて来るわ」
「ア、アニエスさん!? 待ってください! いくらなんでもそれだけではっ!!」
アニエスは一人、パルパテシアに向けて歩き出す。
「ねえ、勝負しない?」
そして日常会話のような気軽さでそう言った。
「ご自慢の魔法障壁と私の全力の一撃、どっちが強いか」
「ナゼ、キサマのような弱者の提案をウケねばならぬ」
「あら、魔術師を殺す者なんて名乗っておいて……私の魔法を受ける自信がないの?」
挑発するような笑みを浮かべるアニエス。
パルパテシアの目が鋭く光る。
「……イイだろう、ならばせいぜいブザマな死にザマを見せて、ワタシを楽しませろ……哀しき弱者ヨ」
アルテンシアの街はまだ、混乱の中にある。
アニエスはバングルをした手をゆっくり伸ばし、最強の障壁を誇る『魔術師を殺す者』に照準を定める。
ゆっくりと、大きく息を吐く。
大気が震え出し、風が踊り出した。
アニエスのローブがバサバサと音を鳴らし、結んだ髪が跳ね上がる。
「なに……あれ」
師団員が、ビリビリと震え出す身体を抱き締める。
「勝負をつけましょう」
「己の無力さをノロウがいい。弱きニンゲンのマジュツシよ」
余裕の笑みを見せるパルパテシア。
アニエスはただ一言、静かに唱える。
「エーテルバースト」
それは、せき止め続けた大河が氾濫したかのような猛烈な魔力の濁流。
駆け抜けていく衝撃に、大気が震え出す。
これまでをはるかに上回る莫大な魔力が、真正面からパルパテシアに激突し――――。
盛大な爆発を巻き越した。
「…………ナ……ニ……?」
初めて、パルパテシアが驚愕に顔をゆがめた。
「ナゼ、ワタシが……こんな弱者に……」
アニエスの放った一撃は絶対無比の障壁を突き破り、さらにその巨大な体躯に大穴を穿っていた。
「ナゼ……どうして……ッ」
実に身体の六割を消し飛ばされたパルパテシアは、足もとから崩れ落ちていく。
消えゆく魔族に、アニエスは得意の笑みを見せると――。
「感謝するわ。私はまだまだ弱い。でも――――必ず強くなる」
本日も二本立て。この後短いものが続きます。
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