ヨルとアバロンとはじめの一歩
「お母さん……お母さん」
「もう……いいから。行って」
「いや……そんなの……いやだよ」
瓦礫に挟まれた母親のもとに、いよいよ迫る炎。
そこへ傷を負い埃まみれになったヨルが、息を切らせてやって来た。
すぐに瓦礫をどかそうと手を伸ばすも、民家の壁半分ほどになろうかという重量は、ヨルの力でも持ち上がらない。
「アバロン」
ヨルから獣耳が消え、髪が白から黒へと変わる。
「っ!?」
突然現れた巨大な魔獣に、少女が尻もちをつく。
アバロンはすぐさま瓦礫をくわえ、どうにか隙間を作り出した。
わずかな風で揺れる炎が、アバロンの頬を焦がす。
その間にヨルが手を伸ばし、どうにか母親を瓦礫の隙間から助け出した。
母親のケガ自体も、大きなものではなさそうだ。
抱き合う母親と少女に、アバロンが息をつく。
「よかった」
しかし、ヨルが額の汗をぬぐいながらそうつぶやくと、少女が身体をびくりと震わせた。
牙を持つ巨大な魔獣と、それを使役する謎の人物。
今まさに残忍な鳥型の魔族に襲われたばかりの少女に、そんな異質の組み合わせを受け入れる余裕はない。
向けられた怯えの目に、ヨルは少し寂しそうな顔をすると――。
「行こうか、アバロン」
ことさらに明るくそう言って、踵を返した。
今だ魔族による騒動の中にある、アルテンシアの街並み。
歩き出したヨルとアバロン。
「――――待って」
再び白髪モードになろうとしたヨルが、アバロンが振り返る。
すると声を上げた少女が、小走りでやって来た。
そしてそのまま真っすぐアバロンの前に立った少女は、わずかに逡巡した後――。
その顔を、小さな手で抱きしめた。
「たすけてくれて……ありがとう」
その手に、ギュッと力がこめられる。
「……わたしはヨル。この子はね、アバロンっていうんだ」
今度こそ踏み出すことのできたその一歩に、ヨルは。
「――――すごく、いい子なんだよ」
それはもう、うれしそうに笑った。
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