ヨルvs巨鳥アッティカ
瓦礫に挟まれた母親のもとに、容赦なく迫る炎。
「早く! 私はいいから早く逃げなさい!」
「いや! そんなのいやっ!」
必死に瓦礫を退けようとする少女と、その母親。
鳥型の魔族は、そんな二人に目を留めた。
鳥と言っても、その外見は地上生に進化した走鳥類。
南洋の街の外壁のようなくすんだ白色の身体に、硬質で強靭な脚。
その顔の形に則して貼られた石仮面の様な顔には、二つの穴が開いている。
「キヒッヒヒヒ。面白れぇことになってんなァ」
現れた魔族に、母親の顔が青ざめる。
「早く逃げなさい!」
「いやだよ! 逃げない、逃げないよっ!」
魔族を前にしても少女は、母親を助けようと瓦礫を持った手に力をこめる。
「キヒッヒヒヒ、面白えガキだなァ。このままなら焼きニンゲンの出来上がりだがァ、もしソイツを助け出すことが出来たらミノガシテやるよ」
嗜虐的な笑みを浮かべる鳥型の魔族、アッティカ。
「……片方だけなァ」
親子の顔が絶望にゆがむ。
「キヒッヒヒヒ、キヒッヒヒヒヒ――――ヒギャア!!」
アッティカは突然側頭部に突き刺さった蹴りに地面を転がり、瓦礫に突っ込んだ。
見事な跳び蹴りを決めたヨルは、空中でくるくると回転しながら着地する。
「……なんだァテメエ、オレ様とヤろうってのかァ?」
立ち上がったアッティカが、赤眼を光らせた。
ヨルは迫る火の手を確認。時間がないことを察する。
「一気に勝負をつけさせてもらうよ」
「キヒッヒヒ、テメエにオレが……止められるかなァ!?」
先に動いたのは鳥型の魔族、アッティカだった。
その健脚はわずか一歩でトップスピードに到達する。
真正面から跳び込んできたアッティカに、とっさに防御姿勢を取るヨル。
しかしアッティカは短い跳躍から翼を開き、ふわりと空中で一回転。
「ッ!!」
放たれた蹴りを、かがんでかわす。
横にあった街灯が蹴り飛ばされ、そのまま民家に突き刺さった。
それでも勢いは止まらず、崩れ落ちていく家屋。
その着地際を狙おうと動くヨル。しかしアッティカは着地と同時にバク転蹴りを放った。
「うわあっ!」
とっさの防御も、大きく蹴り飛ばされる。
どうにか中空で体勢を整え着地し、顔を上げると――。
「いない!?」
すでにアッティカはその場にいなかった。
視界をよぎる影。
慌てて目を向けると、アッティカが民家の角を蹴り飛ばす。
「ッ!?」
蹴られた壁の石片が、弾丸のような勢いで飛んでくる。
「うっ!」
これをヨルは前方に跳ぶことで、ダメージを最低限に抑えることに成功した。
「イイネイイネ――ッ!! なかなかヤんじゃねえかァ!!」
歓喜の雄たけびを上げるアッティカ。
ヨルはここで反撃に転じる。
すさまじい速度で疾走し、アッティカの懐に潜り込みに行く。
「だがオレ様のターンはマダ終わってねえんだよォ! クアアアアア――――ッ!!」
その口から吐き出される、まばゆい火炎弾。
ヨルはその一撃を避けられる体勢にない。
目前に迫る炎塊に、手のひらを突き出して――。
「シャアッ!!」
衝撃波でかき消した。
「ンだとォ!?」
燃え上がる炎が目前で弾け、盛大に火の粉が散らばる。
そのまぶしさと驚きに、アッティカはヨルを見失った。
すると次の瞬間――その顔面にヨルが跳躍かかと落としを叩き込む!
「グギェエエエエ!!」
振動は石の仮面を伝って全身を駆け巡る。
直後。アッティカがやみくもに放った前蹴りをかわしたヨルは、そのまま軸足を蹴り飛ばす。
倒れ込み転がったところに、仕掛ける追撃。
しかし後方への大きな跳躍でこれをかわしたアッティカは、着地と同時にその両翼を広げた。
「ナメてんじゃねーぞォ!!」
左右計三十六枚の魔力を帯びた羽が抜け、一斉にヨルに襲い掛かる。
迫り来る羽の軌道は直線。
これをヨルは側方へ大きく跳ぶことでかわす。
しかしその先の中空にはすでに、アッティカがいた。
強靭さを誇るその豪脚で、そのままヨルを蹴り飛ばす。
「うああああっ!!」
石畳の上をバウンドし、慌てて顔を上げるヨル。
そこにはすでに、追い迫る羽の輝きがあった。
全力で回避に回る。
頬を切っていく羽が、石畳に深々と突き刺さった。
しかし今回も、羽の回避にこそどうにか成功したものの――。
「うぐっ! ああああ――――ッ!!」
その背に巨鳥の蹴りを喰らい、砂煙を上げながら再び地面を転がった。
「――――お母さん! しっかりしてお母さんっ!」
その耳に、逼迫した声が聞こえて来る。
顔を上げると、すでに炎は少女の母親のもとにまで迫っていた。
「だれか……たすけて……っ」
少女の目からこぼれ落ちる涙。
ヨルは痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。
「……もう時間がない。行くよ、アバロン」
覚悟を決め、相棒アバロンに呼びかける。
「キヒッヒヒヒィ! そろそろトドメかァ!? このまま蹴り殺してやるよォ!!」
畳みかけようと、再び扇のように翼を開くアッティカ。
刃の羽が殺到する。
必死に回避するヨル。
狙いを定め、跳躍するアッティカ。
すると突然、ヨルがピタリと立ち止まった。
飛来する羽が、腕を、脚を、頬を切っていく。
「肉を切らせて骨を断つってかァァァァ!? ムダムダァ! テメエにオレ様の蹴りは止めらんねェ! あきらめて死にやがれェェェェ!!」
守りを捨て、ただアッティカを見据える。
そんなヨルの頭を狙って放たれる、必殺の跳び蹴りは――。
「ガオオオオオオオオ――――ッ!!」
下方から飛び出して来た白亜の魔獣に、その爪で叩き落された。
「グギェエエエエ!!」
分離攻撃。
黒髪状態は最弱。そんなリスクを冒して放つ一撃が、確かに巨鳥を捉えた。
「な、なんだァ!? ハクテイがどうしてこんなところにィィィィッ!?」
まさかの魔獣の登場に、驚愕するアッティカ。
「グオオオオオオオオ――――ッ!!」
「ギャッ!!」
アバロンがあげた雄たけびに、アッティカの身体が硬直する。
この隙を逃す手はない。
「ゲギアャッ!!」
アバロンはそのまま体当たりで、アッティカを民家の壁に叩きつけた。
しかし頭は、アッティカの方が高い場所にある。
「シネやァァァァ!!」
そのくちばしの中に揺らめく橙色の輝きは、燃え盛る炎。
アッティカは目前の白帝魔豹に、灼熱の豪炎をぶちかます。
放たれた炎は眼前で一気に燃え上がるが、しかし。
「……消えタ!? 一体ドコにッ!?」
直前まで確かにいたはずの白帝魔豹の姿がない。
突然消えたアバロンの姿に惑うアッティカ。
すると次の瞬間。
燃え上がる炎を割って眼下に飛び込んできたのは、雪のように白い髪をした少女。
再び獣耳状態に戻ったヨルは勢いのままアッティカの懐に潜り込み、下胸部に右の掌底を叩き込む!
「グゥッ!!」
もう一度アッティカを壁に叩きつけると、さらに――。
「まだっ!」
放つ全力の衝撃波。
壁の前面に、蜘蛛の巣状のヒビが入る。
「まだまだ――ッ!!」
さらに放たれた衝撃波に壁が崩れ出す。そして。
「これで……おわりだぁぁぁぁ!!」
三連続。叩き込んだ衝撃波はついに壁を突き破った。
断末魔と共に、消し飛ばされたアッティカの石仮面が砕け散る。
肩で息をつくヨル。
巨鳥の魔族はぼろぼろと崩れ落ち、そのまま砂のようになって消えていく。
「早く、早くあの人を助けないとっ!」
アッティカをくだしたヨルは、すぐさま親子のもとへ走り出した。
本日は、短いのがもう一話続きます。
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