魔族と突然の襲来
一体、何が起こったんだ?
真夜中。アルテンシアの外壁の一部が突然消し飛んだ。
俺たちは崩れた外壁へ向かって駆ける。
「ま、魔族だッ!!」「どうして急に!?」「もう十年、何事もなかったのに……っ」
すでに街は火をつけたような騒ぎの中にあった。
まさかの魔族襲来に、逃げ惑う住民たち。
俺たちは壁近くに見える大型魔族を目指して走る。その体高は立ち並ぶ二階建て民家よりもさらに高い。
閃く光、放たれた魔法がさらに壁を大きく打ち壊した。
とにかく、あいつを止めねえと。
「ワァァァァァァ――――ッ!!」
上がる悲鳴と共に、突然民家が数件立て続けに崩れ落ちた。
「お母さんっ!」
少女が叫び声をあげる。
その視線の先には、崩れた民家の壁に押し倒された母親らしき人の影が見える。
……いや、それだけじゃねえ。
思わず足を止める。
民家から上がり始めた火の手。
燃え上がる炎が、一つのシルエットを浮かび上がらせる。
それは人間の背を悠々越える大きな体躯をした、巨鳥型の魔族だ。
襲撃してきた魔族は、一体だけじゃなかったのか。
「お母さんっ! お母さんっ!」
「私はいいから逃げなさい!」
「いやだよ! そんなのいやっ!」
少女は崩れた壁の一部を必死に持ち上げようとするが、まるで動かない。
そしてそんな二人に、炎は確実に迫っていく。
「わたしが行くよ」
白髪獣耳状態のヨルが、そう言って一歩前に出た。
「レージくんたちは、あっちの大きなヤツをお願い」
「……分かった、ここは任せる。俺たちはこのままあっちの大型を狙う」
任せてと笑ってみせるヨルをこの場に残して、俺たちは大型魔族を目指して再び走り出す。
そのまま民家の並ぶ区域を一直線に進んで行くと――。
大型魔族の頭部。その手前の空間が弾けるように輝いた。
次の瞬間、巨大な一つの光弾が放たれる。
「うわああああ――――ッ!!」「キャアアアア――――ッ!!」
巻き起こる爆発。
吹き抜けていく爆風と上がる悲鳴。
俺たちの足元に、一人の男が吹き飛ばされてきた。
……こいつは、見回りの士団員か?
意識があるのを確認して大通りへ。
そこには他にも数名の士師団員が道端に座り込んでいた。中には腰を抜かしてるヤツもいる。
「おい、なんとかしてくれよ! お前ら”しだん”だろ!!」
「無理よ……あんなの無理よ……っ!」「なんで、どうして魔族が……っ」
ぶつけられた住民の声に、ガタガタと震えていた数人の師団員たちはよろよろと立ち上がる。そして。
「い、一度戻って対応を考えましょう」
踵を返した。
「お、おい! お前ら……逃げんのかっ!?」
背を向ける師団員の背に、投げつけられる住民の声。
「危ない!!」
アニエスが叫ぶ。
大型魔族の眼前が、再びまぶしく輝いた。
住民や師団員たち目掛けて、光弾が放たれる。
「エーテルアロー!!」
放った無数の魔力矢が光弾に突き刺さり、閃光が夜空を走る。そして爆発。
「キャアアアアッ!!」
直撃こそ避けたものの、その衝撃と突風に吹き飛ばされた師団員たちが、民家の壁にぶつかり倒れ込んだ。
あの子たち、モンスターブル事件を片付けた時にいたアニエスの同僚だ。
「……俺が注意を引く。アニエスは隙を見てあいつに最大火力を叩き込んでくれ」
「分かった!」
二対一なら、そう勝負に時間はかからないはずだ。
戦い方を決めた俺たちは、即座に動き出す。
すると二本の光線が、昇っていく時計の針のような軌道で空へと走り抜けていった。
そしてアルテンシアの外壁が、さらに消し飛んだ。
「おいおい、もう一体いやがんのか……」
こいつは予想外だ。
大物三体ってことになると、そう簡単な話じゃねえぞ。
「……ねえレージ。あいつって魔法攻撃型よね?」
「ああ、それは間違いない」
「それなら、ここは私が引き受けるわ」
「アニエス……」
躊躇する。アニエスは間違いなく才能のある魔術師だ。
ただ、戦いなれてるヨルと違ってまだ粗削りが過ぎる。
「誰かが行かないと、でしょう?」
しかしアニエスはそんな思考を見透かしたかのようにそう言って、真っすぐに俺を見た。
「元とはいえ、私だって志願して魔術師団に入ったのよ?」
「…………分かった。後は頼む」
アニエスはただ一度うなずくと、一人大型魔族の前に歩み出て行く。
俺は再び走り出した。
新たに上がった煙のもとへ。
「こいつら、一体何が狙いなんだ……」
逃げ惑う人々の間を縫い、俺は上がる火の手の中を駆け抜けていく。
「あいつか……っ」
体高は約二メートル半ってところか。
ゆらりゆらりと歩く人型の魔族は、岩でできた厚い鱗のような肌をしてる。
長い二本の手が地面をこする様な形でだらしなくぶら下がっているのは、酷い猫背のせいだろう。
身体の数か所に金属の様な箇所があり、鉄仮面みたいな頭部には三つずつ二列で並んだ穴。
そのうち二つが赤く輝いている。
……アイツはまだこっちに気付いてねえ。
容赦する必要はなし。
俺は跳び上がると、さらに民家の屋根を踏み台にして人型魔族に狙いをつける。
剣を抜く。このまま脳天に叩き込んでやる!
「…………?」
気配に気づいた魔族が、顔を上げる。
遅い! もらった――――っ!!
振り下ろす剣。
しかし次の瞬間、魔族はその身体を軟体動物のように大きくくねらせて、剣をかわした。
さらに着地と同時に放った横なぎを、腕の金属部分で受け止めると――。
「……ウォマエは……ダレだ?」
剣を押し返して、その赤い瞳で俺を捉える。
「……テンイシャか?」
「そんなとこだ」
「そうか、それはヨカった。ウォレは……ヤズー」
深紅の目が、一層禍々しい輝きを放つ。
「アイサツはダイジ。たとえこれから…………コロスやつにでも」
身体を右に捻り、ヤズーはその長い手を振り払う。
手は一瞬にして伸長。
「っ!?」
伸びた手がさらに……割れた!!
枝のように無数に広がったヤズーの手が、うなりを上げながら高速で迫り来る。
触れた民家を、無残に消し飛ばしながら――。
倒壊する家々。
視界が白煙に包まれた。
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