新たな仲間と打ち上げと早とちり
「なあ、アバロンが急におかしくなったのって前兆とかはなかったのか? ……変なものを飲んだとか」
カルーアミルク入りのジョッキをテーブルに置いて、キャッツに問いかける。
「前兆か。そういえば式典中に刺すような感覚があった様な気がする。その後急に息が苦しくなって……」
なるほど……そうなると麻酔針みたいなものが刺さった可能性もあんな。
ナイフとフォークを手に、応えるキャッツ。
カチャカチャ音をさせながらようやく切った魚を、フォークで取ろうとしては落としてる。
不器用だなぁ。
やっぱ四足歩行が急に手をうまく使えって言っても、難しいもんなのかねぇ。
「くっ! 魚類風情がっ!」
いよいよイラ立ってきたのか、アバロンはフォークを投げ捨てて手づかみでいく。
「手づかみはやめなさい」
そしてこういうところに厳しい貴族。
アバロンはしょんぼりしながらヨルから分離すると、テーブルの前に陣取った。
「ここ最近のモンスター狩りは、何のためにやってたんだ?」
「分からぬ。ただ言われるままに動いていただけだ」
「幻魔猿とかヘルハウンドもお前たちか?」
「そうだ。モーリスという男に従ってやっていたのだが、どうやら指示していたのはこの国の宰相のようだ。式典への参加もその男の一言で決まった」
「宰相……」
「最近士団はモンスターを倒させて実績を作らせてから貴族を入団させてたみたいだし、そのためじゃない? ランクの高い魔獣を倒しては『また騎士団が実績を上げた』って騒いでたわよ。その度に師団をバカにしてたからよく覚えてるわ」
酔いで顔を赤くしたアニエスが、不満げな顔で言う。
「なるほど……っておい、ヨル?」
立ち上がった黒髪バージョンのヨルは、俺の後ろにやって来る。
そしてそのまま……抱きしめて来た。
「へへへ、レージくん」
こりゃ結構酔って……ちょっと待て。
当たってる。後頭部から耳の辺りにナニかが当たってる!
めちゃくちゃに当たってるから、少し離れてもらって……いや離れないで……でもアニエス達の目があるから。だが、しかし……っ。
「――――大好き」
アニエスがジョッキを取り落す。
「え……? ね、ねえヨル、それってどういう意味?」
「うん? そのままだよ」
「で、でもまだ出会ってからもそんなに経ってないし、さすがに急すぎないかしら?」
「時間なんて関係ないよ」
「うっ。わ、分かるわよ? 確かに髪とかあれだけど、私も何度も助けてもらったし。でも、さすがに……」
「もちろん……」
「もちろん……なに?」
「アニエスも大好きだよ」
「ま、紛らわしい事言わないでよーっ!」
テーブルの上に伏せるアニエスに、首を傾げるヨル。
「……だがレージ。あまりヨルに近づき過ぎるのは感心しない」
「な、なんのことかな?」
「お前から邪な波動を感じる」
「やめろ、牙を見せつけてくんな」
「シャッ」
「弱めの衝撃波を飛ばしてくんな!」
「……レージ、確かに少し近いわ」
見かねたアニエスが、ヨルを引っぺがす。
するとヨルは、そのままアニエスに抱き着いた。
「ちょ、ちょっとヨル?」
「へへー。アニエス、なんかいい匂いがする」
「ッ!」
アニエスはしばらくあわあわしながら手を困らせていたものの、やがて。
ヨルの背に手をまわした。
「まんざらでもねーんじゃねーか」
さてはこいつも、完全に酔ってんな。
「楽しいなぁ……アニエスがいて、レージくんがいて」
ヨルは満足したのか、床の上に腰を下ろしてアバロンによりかかる。
「……ね、ねえ。そもそもレージにはそういう……特別な人って……い、いるの?」
「俺?」
「ま、まあ、こんな暮らしをしてるくらいだし、確かめるまでもないんだけど一応――」
「いねえよ」
「そ、そうよね。そうだと思ってた」
「ただまあ……特別に思ってる人はいるけどな」
ガターンと再びジョッキを手から滑らせたアニエスは、足をフラフラさせながらソファに倒れ込む。
おいおい、どんだけ酔ってんだよ。
「……それって……どんな人なの?」
「そりゃ綺麗な長い髪で、いつも穏やかな顔つきをした美女だろ」
「…………」
「普段は服装のせいで分かりにくいんだけど、実はスタイル抜群でなぁ」
「うん?」
「立ち場があるから貞淑なフリをしてるけど、本当はなかなかいやらしい――」
「それ貴方の空想上の聖女様のことじゃない!?」
「空想上とか言うな。聖女様は実在する」
「貴方も紛らわしいのよ! 空想の聖女様を特別に思ってるとか言わないでよー!」
「だから空想とか言うなって。聖女さまに会うために十年も騎士としてチャンスをうかがってた男だぞ俺は」
「何それ……そもそも、全然いやらしくなかったらどうするのよ」
「そんなの聖女じゃねえよ!」
「それが聖女様だと思うんだけど! ……もうそのイメージで固定されてしまってるのね……」
「なんだその呆れた顔は」
「……それなら将来を前提にお付き合いしてる人とか、そういうのはないのね?」
「あるわけねーだろ」
アニエスはそのまま、もう一度ソファに倒れ込む。
なんなんだ、これは一体。
◆
「くあー。久しぶりだったなぁ、こういう感じ」
事務所を一歩外に出て、夜風に当たる。
しょうもない話をしながら、ただ食って飲んでをするだけっつーのも悪くねえな。
夕方に始まった歓迎会も一段落。
そのまま気持ちよくなってひと眠り。目覚めも魔法酒を選んだおかげで問題なし。
基本は酒と同じ効用なのにアルコールが入ってなかったりする辺り、なかなかの発明だよなこれ。
「楽しかったね」
ドアを微かに開けたヨルは、その隙間から辺りを確認。
「そんなに隠れなくても大丈夫よ」
アニエスに背を押されながら、そっと表に出て来る。
「ああ。今後はむしろ活躍する姿を見せていった方がいいくらいだぞ。士師団以外には」
そう言うとヨルは、「へへ」と笑って隣りにやって来た。
「思ったよりバカ騒ぎになっちゃったわね」
アニエスも続いて事務所から出て来る。
「これからも大きな仕事とかを片付けた時はやりましょう、こういうの」
「賛成!」
「ああ、そうだな」
こういう一仕事終えた後の宴会は、やっぱ悪くねえ。
各々がきっと、これからを思い描きながら夜空を見上げた、その瞬間。
――――響く、爆発音。
「い、今のなに?」
尋常じゃない音の仕方に、アニエスが顔を緊張させる。
月明りと、転移者が作った街灯の光。
その先に見えるのは……立ち昇る火の手と煙。
「分かんねえ。ただ、何か嫌な予感がする」
これは街中で魔術師がケンカしてるとか、そんな感じじゃねえ。
俺は事務所の壁に足をかけて跳び上がる。
そのまま二階の窓につかまって屋根の上に。
すぐに視界に入って来る。アルテンシアの街並み。
その石壁の一部が、外から破壊されてる。
そしてそこに見えるのは――――大型の異形。
「どうしたのレージ?」
「レージくん?」
それはモンスターとは違う、不可思議な外相をした生物。
かつて何度も対峙したから分かる。
間違いない、あれは――。
「――――魔族だ」
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