新たな仲間と打ち上げ
「ちゃんと報酬が出て良かったわね」
事務所一階に作ったリビング兼応接室に、アニエスがやって来る。
昨日の式典は途中で中止になったものの、依頼料はしっかりもらうことができた。
これで一角兎の件と合わせて、多少やってけるくらいの額にはなったな。
受付嬢アンナマリーもいよいよ元気そうだった。やさぐれ感がなくなってちょっと残念だけど。
「それじゃさっそく始めようぜ」
大きな依頼を二つ片付けて、新しい仲間も増えた。
そんなわけで、今夜は豪華に歓迎会だ。
準備を終え、三人同じテーブルに着く。
するとアニエスは立ち上がって――。
「それでは。この度はお日柄も良く――」
「乾杯」「かんぱーい!」
「ちょっと待ちなさいよ! まだ私が話してる途中でしょう!?」
「だってお前、その巻物丸々読み上げるつもりなんだろ?」
手元には、テーブルの下まで続く巻物。
アニエスって、意外とこういう時に張り切っちゃうタイプなんか。
「何よもう……あれ、レージは何飲んでるの?」
「……カルーアミルクだよ」
アニエスが、俺の手にしたタル型ジョッキに目を付ける。
そこに入ってるのは、酒好き転移者がこっちで開発したカルーアミルク。
「ビールじゃないの?」
「……飲めねえんだよ」
最初の二、三口はいいけど、ジョッキ一杯になるとなんか途中から急にマズく感じて飲めなくなる。
これもまた転移者が、大雑把な作りのエールを”向こう”っぽいビールにしたせいでもあるんだが。
「ふーん、そうなんだ。なんか意外ね」
「ぷはっ」
隣りではヨルが、ごくごくビールを飲んでる。
「ちくしょう……やっぱ男は黙ってビールだよな。『店主、とりあえずビール』『あいよ』これを自然にやるのが大人の男だ。これが『とりあえずカルーアミルク』なんて言ってみろ……店主がビールを入れようと手にしたジョッキを取り落して、俺を二度見しながら、カ、カルーアミルク……ですか? って聞き返されるに決まってんだ……っ!」
これまで俺は、幾度となく士団員やらパーティ仲間やらに見せつけられてきたから知ってる。
「タルのジョッキでやる乾杯は勢いよく、ビールをこぼしながらじゃねえとダメなんだ……っ!」
「あははは、何よそれ」
アニエスは笑いながら俺の肩をぺしぺし叩くと、ビールをグイっとあおってみせる。
「その「どやぁ」やめろ! どうせアニエスだってガキみてえにちょっと飲んだだけで顔赤くして寝ちまうんだろ!」
「……あら、勝負なら受けて立つわよ」
出やがったな、この負けず嫌い貴族め。
視線が火花を散らす。
「カルーアミルクとビール。どっちが酔いやすいかは知らねえけど、俺はビールがダメってだけで魔法酒自体に弱いわけじゃねえんだよ。なめんな」
「私が子供かどうか、見せてあげるわ」
互いの手がジョッキをつかむ。それが合図になった。
「「スタート!」」
俺は一気にカルーアミルクを流し込んでいく。
負けらんねぇ。この戦いにだけは負けらんねぇ……っ。
すると半分くらい飲んだところで、突然アニエスが席を立った。
「なんだ? どこ行くんだよ?」
「ちょっとお手洗いに……」
「前から思ってたけどお前の膀胱どうなってんだよ! ほぼ直通運転じゃねえか!」
アニエスはちょっと酔いが来てるのか、早くもフラつきながらトイレへ。
「しかも酔うの早えな。普通に弱えんじゃねえか……」
呆れながらジョッキをテーブルに戻す。
「そういや、ヨルは酒に強い方なのか……って、食うの早えなおい!!」
「おいひい!」
早くも口の周りをタレだらけにしながら、肉肉魚魚肉ビールの順で高速ローテしてやがる!
あんなに目をキラキラさせながら、なんて速さなんだ……っ。
「おいアニエス早く戻ってこい! 今は食うことに専念しろ! 肉と魚がなくなるぞ!」
「ウソでしょう!? 普段の五倍は用意してるのに!」
駆け戻って来たアニエスと共に、負けじと料理を口に放り込む。
マジでめちゃくちゃ早えな!
アニエスなんか急いでも俺の三分一くらいしか食えてねえし、このままじゃ俺らの分がなくなっちまう!
「ヨ、ヨルってめちゃくちゃ食うんだな」
「だって……すっごくおいしんだもん!」
両手に肉を持って、ヨルは満面の笑みを浮かべる。
「いやいや、買ってきた料理中心の普通の飯だぞ? いくらなんでもおおげさだろ」
そう言うとヨルは、輝く笑顔を俺たちに向けて――。
「こんな風に……仲間と一緒に食べるのが夢だったんだ」
「「…………」」
きゅ、急にそういう切ないやつ放り込んでくんなって!
ほら見ろ、半泣きのアニエスが自分の皿をそっとヨルの方へ寄せだしたじゃねえか!
食うことを諦めんなって。
「な、なあヨル、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「ふぁい?」
このままじゃマジでアニエスが断食になりそうだし、少し話をそらそう。
「アバロンの憑依って、実際の成功率はどれくらいなんだ?」
「普段は失敗を気にしたりすることもないから、ほとんど白髪の状態になれるよ。ただ……」
「ただ?」
「意識しすぎたり、気が抜けすぎてたりするとアバロン色が強くなることが多いかな」
「なるほど。でもこれからはヨルにも動いてもらうってことを考えると、変身の精度は気になるな」
「そういうことなら、少し練習してみてもらったら?」
「それいいな。実際変身の速さとかも生で確認したいし、ちょっとここで何度かやってみてくれよ。アニエスと一緒に見てるから」
「了解っ」
ヨルが敬礼みたいなポーズを取ると、分離したアバロンが姿を現す。
リビング兼応接が広くて良かった。
「よし、俺の合図に合わせて白髪モードになってくれ……どうした?」
「う、うん。こうやってあらためて見つめられると、なんだか急に緊張してきた」
「まあまあ、そういうのも含めて一度見ておけると助かるってわけだな」
「了解っ」
「行くぞ……はい変身」
キャッツ。
「はいもう一回」
キャッツ。
「はいもう一回! ……キャッツ率高くねえ?」
いきなり三度連続って。
「本当。ヨルにも意外な弱点があるのね」
「や、やっぱり、こうやってじっと見られてると緊張するよ……お酒も入ってるし」
ヨルは、もじもじと恥ずかしそうにする。
「なるほどなぁ……はいここでもう一回!」
キャッツ。
「もう一回!」
キャッツ。
「もう一回!」
キャッツ。
「もう一回! もういっ……あっ、できてた! 今できてたからその感覚のままいくぞ。今度は俺とアニエスのピンチに駆けつけた感じで、もう一回! はいキャーッツ!」
うーん、十中八九キャッツってまあまあヤバくね? こいつ戦闘能力ないんだろ?
「あとアバロン」
「なんだ、レージよ」
「キャッツの時にいちいちポーズ取んのやめろ、腹立つから」
しかも毎回変えてきてんじゃねーよ。
俺はため息をつきながら、カルーアミルクに手を伸ばした。
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