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レージvsアグニテレーズ

「……よう、久しぶりだなぁ宰相様」

「お前は……」


 アルテンシア城の一階ロビー。

 予想通りやって来た宰相を、俺は一人出迎える。


「アンタの狙い通り、王城はもぬけの殻だな。間に合って良かった」


 おそらく、この時間に合わせて警備の配置なんかにも手を入れてあるんだろう。

 とにかく人気がない。


「狙い通り? 一体何を言っている?」

「目的は王か? それとも王子か?」


 ゆっくりと剣を抜き、その切っ先を宰相へ向ける。


「何をするつもりだ? お前は今、アルテンシアの宰相に剣を向けているのだぞ」

「宰相? 違えなぁ。お前は……魔族だ」

「何を言っているんだ。そんなわけないだろう。その剣を振るえば取り返しのつかないことになる。それが分かっているのか!?」

「ああ、確かにお前が無実の人間ならこれは大問題だ。しかも、手元に明確な証拠があるわけでもねえ」


 そう、宰相が魔族だってことに確証はない。


「だが……斬りゃあ分かる」

「バカを言うな! そんなことが許されるはずが――」


 否定する宰相に、俺は容赦なく斬り掛かる!


「…………チッ!!」


 切っ先がふれた。

 迫る俺の攻撃を慌ててかわした宰相の姿は――――完全に魔族。

 化けたままじゃ対応しきれない。そう判断したんだろう。

 大きさは俺より二回り大きいくらいの人型。

 魔族らしい四本の角を生やした頭部には、牙の並んだ口と穿たれた二つの穴。

 濃灰色の岩石のような肌は、ところどころが鱗のようになってめくれ上がっている。

 背負った光輪。

 そして血管のように全身へ伸びる筋が、その目と同じように赤く光っていた。


「我が名はアグニテレーズ……ドウやらイチかバチかの賭けは、貴様の勝ちのようダな。転移者よ」

「賭け? 違えなぁ。お前が勝手に正体を現しただけだ」


 俺は手にした剣に、指をはわせる。


「この、刃のない剣にビビってな」

「……なんダと……?」


 これなら宰相が無実だったとしても、せいぜい気絶するくらいだからな。

 だが宰相の正体は魔族だった。これでもう確認の必要もない。


「全部、お前の仕業だったわけだ」


 俺は宰相だった魔族に問いかける。


「まずは幻魔猿の暴走から。モーリスの野心を利用してやっかいな転移者を追い出した。そんなところか?」

「……その通り。マヌケな貴族は扱いやすかった。騎士団に入るタメに名ばかりの実績をつけようトする者も、それを手伝う者も」

「白帝魔豹を式典に連れ出したのもお前だな」

「その通りダ」

「白帝魔豹の存在に気付かなければ、ヨルが捕まえて来た一角兎を式典襲撃のメインに使うつもりだったんだろ?」


 角がなかったのを知った時には、舌打ちの一つもしたはずだ。


「そしてそれを可能にするのは、商人のもとにいた錬金術師に作らせた、モンスターを狂わせる薬剤」


 幻魔猿やヘルハウンド、そして式典の白帝魔豹は皆、理性をなくし眼を血走らせてた。

 しかもあの商人は、『上』とのつながりを口にした。

 宮廷で錬金の研究ができる。なんて言ってたくらいだ。

 その背後には相応の立場のヤツがいたはずだ。


「……狙い通り白帝魔豹が暴れたことで士師団は半壊。その傷が癒えないうちに魔族を使って街を襲う」


 街の危機となれば当然、士師団が出向くことになる。

 戦力を下げた状態では魔族との戦いは苦戦をしいられるだろう。そうなれば――。


「城は一気に手薄になり、時間も稼げる」

「フフフ、街に残った転移者もマとめて足止めデきると踏んダのダがな」

「あのヤズーって魔族が『俺を追い出した』とか口走らなきゃ、まだ街にいただろうよ」


 転移者の追放と魔族のつながりに気付いたのは、あれが決め手だった。


「この騒ぎだ。得意の変身を使って今度は王か王子にでもなり済ますつもりだったんだろ?」

「ゴ明察。やはり転移者は侮れヌな。よもや士団から追放してもなお、こうして立ち塞がってくるトは」

「なぁに。ヨルとアバロンが世話になった分を、どうしても返しておきたくてなぁ」

「なるほド。白帝が消えたのは、貴様が匿ったからカ」


 その割れた口に、浮かぶ邪な笑み。


「皆に認めてもらいたいなどと言ってイタな。まったく下等な人間らしい……つまらぬ感情ダ」


 アグニテレーズは「ケヒヒヒ」と笑う。


「ダガ、狙い通り士師団の連中を半壊に追い込んデくれたことにハ感謝している」

「そのせいで……また振り出しからだ」

「そうか。ならば貴様ヲ殺したらまた適当に言いくるめ、利用させてもらうとシよう。それとも……貴様ガ死んだ後、その後を追わせるカ?」

「……そりゃあ無理だな」

「ほう、なぜダ?」

「お前は、ここで消える」

「……ヤズーたちを倒しタくらいで調子に乗らヌ方がいい。魔族にも格というものガある」


 身体中に走った赤い線が、輝きを増していく。


「ヤツらとは――――レベルが違ウぞ?」


 そしてその狂眼を、ギラリと深紅に輝かせた。


「そりゃ助かる。準備運動にしても――――軽すぎたからな」


 動き出しは同時。

 背負った光輪が起こした爆発に乗じる形で飛び掛かって来たアグニテレーズが、右腕を振り下ろす。

 対して俺は、親父さんから受け取った真剣を振り上げる。

 手に取った瞬間に馴染む感覚。さすがにいい仕事をしてる!

 散らばる火花。

 一瞬のつばぜり合いの後、アグニテレーズが右足を蹴り上げる。


「ッ!!」


 足元に見えたかすかな炎。

 俺は相手の左側方に跳ぶ。

 すると派手な爆炎をまとった蹴りが空を切り、高い天井を誇るアルテンシア城ロビーを橙に染める盛大な爆発を巻き起こした。

 一方、着地と同時に放つ振り返り様の横薙ぎが、浅く、だが確かにアグニテレーズの硬質な肌を裂く。


「チッ」


 怒りと共に向けられる視線。見開かれる赤眼。

 俺は即座に後方へ跳躍する。

 次の瞬間、元いた場所に豪炎の柱が突き立った。

 舞い落ちて来る火の粉。

 その中でアグニテレーズは、俺に向けて手を伸ばした。

 背負った光輪が、輝きを強めていく。


「――――ゆケ、灼火鳥」


 その手から放たれた炎が、不死鳥のように翼を広げて襲い来る。


「ッ!!」


 飛来する巨大な炎の鳥。

 俺はその真正面に立ち、剣を握り直す。

 軌道は下から上へ、垂直に。


「ここだ!」


 迫り来る爆炎の鳥を斬り払う。

 中心から真っ二つ。斬り裂かれた炎の鳥は、そのまま俺の後方で爆発炎上した。

 背中に感じる熱波は、あまりに強烈。

 何に燃え移ったわけでもないのに、今だ炎は轟轟と燃え続けている。

 ……アグニテレーズ。

 攻撃手段こそ豊富だったが、全体的に大雑把だったヤズーとはやっぱ少し違えな。

 その早さと強靭さに加えて、炎をまとった攻撃は爆発まで巻き起こす。

 そして近距離だけではなく、中距離でもこれだけの威力を誇る技を持ち、その全てに無駄がない。


「……なるほど、言うだけあんなぁ」



 ゆっくりと剣を握り直し、俺は一つ”ギア”を上げる。

お読みいただきありがとうございました!

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何卒よろしくお願いいたします!

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