ヨルとアバロンと出会い
「……お前も、我を捕らえに来たのか?」
アルテンシアから遠く離れた山の奥深く。
白帝魔豹は刃のように鋭い目を、目前の少女に向けた。
「そのつもりだったんだけど……」
「そのつもり……だった?」
「君、悪い子じゃなかったんだね」
「……何が言いたい」
「さっき、悪いハンターから森の動物を守ってたのを見たよ」
そう言って少女は笑う。
「あはは、困ったなぁ。山に住む白い魔獣は、街をめちゃくちゃにした悪い化け物だって言われて来たんだけど……」
「動物が守られたのは偶然だったとは考えなかったのか?」
「でも、ハンターも武器を取り上げただけで逃がしてあげてたでしょ? どうしてそんな子が、悪い魔獣なのかな」
「……街を襲った白帝が、我ではないというだけだ」
「そういうことか!」
「ずいぶんと簡単に信じるのだな」
「うん。信じる」
屈託なくそう応えた少女に、白帝魔豹はさすがに面食らう。
「……だいたい。お前の様な貧弱な娘が、どうやって我を捕らえるつもりだったのだ?」
「わたしの身体を依り代にして、封印するんだよ」
「封印したら、お前はどうなるのだ?」
「村に帰れる!」
それは質問の意図とは違った答えだ。
「……封印できなければ、帰れないということか?」
「あはは、だから困ってるんだ」
そう言って少女は、苦笑いを浮かべた。
「…………いいだろう。ならば契約だ。互いの了承のもとという形式であれば、封じられてやってもいい」
「やっぱり、悪い子じゃなかった」
「勘違いをするな。いい加減、人間どもに追われる生活に飽きていたというだけだ」
笑う少女。
魔法の輝きが、少女と白帝魔豹を包み込む。
こうして、二人の日々が始まった。
しかし、予想外の事態はすぐに起きる。
「どうした、ヨル」
白帝魔豹のねぐらから山二つ。
村の外れにある小屋に戻って来たヨルに、白帝が問いかけた。
「……村を出て行けって」
「なぜだ? 白帝魔豹は山から消えた。ならばヨルは村の英雄ではないのか?」
「魔獣を身体に封じた……化け物だからって」
「なんだと……」
言葉を失う白帝魔豹。
「……どこか、遠くに行こうか」
するとヨルは突然そう言って、白帝に笑いかけた。
「怖い魔獣と、怖い依り代。新しい場所で、ゼロから皆に好きになってもらおうよ。それで、仲間を作るんだ!」
「……なるほど。それはいい」
「うん、一緒にがんばろう!」
「いいだろう。軟弱なヨルは我が守ってやる」
「うん、目立っちゃう君はわたしが守るよ」
村はずれに一人で暮らしていたヨルは、すぐに荷物を詰め終わる。
「そうだ! さすがもう名前が必要だよね。白帝魔豹じゃなくて、何かカッコいい名前をつけないと」
そう言ってヨルは、悩むように腕組みをする。
「メロメロ」
「却下だ」
「アッパラ」
「却下」
「ババンゴ」
「あと一声」
「アバロン!」
「…………決まりだ」
白帝魔豹と呼ばれる魔獣はニヤリと笑い、ヨルも笑い返した。
満月の下、さっそく二人は歩き出す。
あてもなく、新たに生まれた夢をただ追いかけて。
「よーし行こう! それじゃこれからよろしくね――」
――――アバロン――――
「――――目を、覚ましてええええええええ――――っ!!」
こぼれ落ちる涙。
どんな激しい雄たけびより、聞いた者を強く震わせる全身全霊の叫び声。
鋭い牙をむき出しにして俺の首を取りに来たアバロンが、ヨルの叫びに一瞬硬直した。
それはあまりにわずか。
狂うアバロンを止めた時間は、一秒にも満たない。
それでも……。
「ありがとよ――――そんだけありゃ十分だ」
直接喰らいつきに来るアバロンの下あごに、全力で剣を叩き込む!
刃のない剣。しかしその一撃は確かに脳を震わせる。
一瞬の静寂の後。
ぐらりと大きく身体を揺らし、アバロンが倒れ込んだ。
おとずれた戦いの終わり。
だが、大事なのはここからだ。
倒れ込むアバロンの口を開き、エルルにもらった抑制剤を押し込む。
「頼む、正気を取り戻してくれ」
アバロンはびくりと一度、身体を震わせた。
「起きて、起きてアバロン!」
駆けつけたヨルは必死に身体を揺さぶり、アニエスが祈る。
するとやがて、その目を開いたアバロンは――。
「…………我は、一体」
「アバロンっ!!」
「ヨル、今は急げ!!」
「うんっ!」
ヨルはすぐさまアバロンをその体内に封じる。
「俺は現場に戻ってケガ人の確認をしてくる。アニエス、後は頼むぞ」
「任せて」
アニエスは覚悟を決めた目で強く静かに応えると、ヨルを連れて走り出した。
まだ式典場内は混乱の中にある。
騎士団も魔術師団も総崩れ状態だが、少なくともヨルやアバロンは討たれるべき存在になるはずだ。
今はその身を隠すことが先決。
それも下町にある事務所まで逃げれば大丈夫だろう。
俺は現場に戻り、倒れた貴族たちの安否を確認する。
良かった。ケガ人は出てるけど、致命傷をもらってるやつはいない。
死者も出てなさそうだ。
「…………レージ」
不意に名前を呼ばれて、振り返る。
無残な状態になった式典会場に戻って来た俺のところに、フラフラとした足取りでやって来たのは――。
「……モーリス」
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