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元勇者と白帝魔豹

「や、やめろ」


 アバロンの前足に鎧を踏みつけられた一人の士団員が、命乞いの声を上げる。

 すでに剣を失っていて、反撃の術はない。

 そして戦意を失った士師団員たちにもう、助けに入る気概は残されていなかった。


「やめろォォォォ!」


 叫ぶ騎士の頭を、アバロンはその牙で――。


「エーテルアロー!」


 アニエスの魔法が、アバロンの背に突き刺さる。

 ダメージはほとんどなし。

 だが、今のはあくまで注意を引くためのもの。

 勝負は、ここからだ――!


「オラァァァァ!!」


 跳躍から、アバロンの肩口に剣を叩き込む。


「さすがに効かねえか……っ」


 もともと強靭な身体に、刃のない剣のじゃダメージなんか与えらんねえな。

 狙うなら頭部の一点のみってとこか。

 さすが白帝魔豹。こいつはなかなか難しい相手だぞ。

 アニエスの指示で、逃げ出していく士団員。

 俺はそのまま、狂った白き魔獣と向かい合う。


「グルルルル」

「……来いよ、アバロン」


 視線がぶつかる。

 次の瞬間アバロンが、わずかに背をふくらませた。


「ギャオオオオオオオオ――――!!」


 身体を震わす咆哮。


「そいつぁ俺には効かねえぞ!」


 踏み込みから放つは、頭部を狙った横薙ぎ。

 アバロンは後方へのステップでそれをかわすと、短い跳躍から前足を振るってくる。

 今度は俺がその一撃を大きなバックステップで避けると、アバロンは跳び上がった。

 ガキィッ!!

 爪と剣がぶつかり合う。

 くっ、さすがに重てえな!

 体重の掛かった一撃に足が止まる。

 するとアバロンはそのまま一回転。なるほど尻尾かッ!

 とっさの防御。

 弾き飛ばされはしたものの、どうにか体勢を崩さず着地に成功。

 ダメージもほとんどなし。

 そして開く、微妙な距離。

 再び俺が動き出そうとした瞬間――。


「シャアッ!!」


 閃く十字光。

 衝撃波!? この距離で来るか!!

 バランスを崩さないよう、足を引き腰を落とす。

 その直後、全身をバリバリと震わせる強烈な衝撃が駆け抜けていった。

 チッ、身体が上手く動かねえ!

 生まれる明確な硬直……来るッ!!


「グルオオオオッ!!」


 硬直が解ける。

 嚙みつきに来たアバロンを大きな……いや! 小さなバックステップでかわす。

 牙が鼻先をかすめる。

 ”タメ”があと少しでも大きかったら、危なかった……。

 回避の成功に思わず安堵して――いや、まだだッ!!

 もう一歩、大きな踏み込みから喰らいつきに来る!!


「そうは、いくかよォォォォッ!!」


 前方への跳躍。そのままアバロンの頭を踏み台にして、後方へ降り――。

 ……この体感。

 おそらく着地直後にアバロンの攻撃が来る。

 足が地面につくと同時に俺は、振り返り様の薙ぎ払いを仕掛ける。

 予想通り!

 アバロンは着地際の俺を狙い、喰らいつきに来た。

 そして身体の回転を乗せた薙ぎ払いは、まさにその頭部目掛けて走ってる。

 これで、決まりだ!


「ッ!!」


 しかし剣は、急停止したアバロンの目前数ミリを抜けていった。

 俺はさらに踏み込んで袈裟斬り、そこからもう一度横薙ぎを仕掛けていく。

 アバロンは上半身の動きだけで初撃をかわすと、続く横薙ぎを身体を持ち上げることで回避する。

 そして後ろ足だけで立ち上がった状態からそのまま……剛腕を振り下ろしてくる!

 迫る鋭爪。俺はアバロンの斜め側方へと飛び込むことでこれをかいくぐった。

 切れる、攻守の流れ。

 ここで再び互いの足が止まる。


「……やるねぇ」


 思わず口を突く言葉。

 よくもまあ、あの流れで急停止できたな。

 野生の勘ってやつかね。たいしたもんだ。

 …………だが。

 ズバァァァァン! 次の瞬間、アバロンの側頭部に魔法の矢が炸裂。

 大きく体勢が崩れる。

 こいつは予想できないだろ。

 アニエスの放った一撃を合図に俺は、逃走を開始する。


「さあついて来いっ!」


 追って来るアバロンの血走った眼は……いいぞ、しっかり俺を捉えてる。

 そのまま会場を抜け出したところでもう一発。

 目前で起きた爆発に、アバロンがわずかに速度を落とす。

 その隙に俺は走り、寄宿舎裏へと逃げ込んで行く。

 たどり着いたのは、宿舎裏に広がるの林の中。

 普段から人気のない場所だけど、予想通り騒動のせいで人影一つ見当たらない。狙い通りだ。

 やがて、メキメキと耳障りな音が聞こえてきた。

 木々を倒しながら、白亜の四足獣がやって来る。

 なかなか派手な再登場だなぁ、おい。


「……なあアバロン。白帝本来の強靭さに、その頭の良さと経験が交わることで生まれる強さこそがお前の武器だってのに、こんな相手を殺しに行くだけの単純な戦い方をさせられてたんじゃ……つまんねえだろ?」


 息をつき、剣を構える。


「もう、ここで終わりにしようぜ」


 アバロンは応えない。

 もはや知性すら感じさせない赤い目と、荒い息遣い。

 ゆらりと一歩踏み出すと、猛然と走り出した。


「シャアッ!!」


 十字の光と共に、放たれる衝撃波。

 ここで来るかッ!!

 だがそいつはもう二度目だ……そう簡単にもらうか――――ッ!?


「痛ッ!!」


 直後、左目に走る激痛。

 目に……小石がッ!?

 衝撃波で弾かれたのか! おいおいどんな確立だよッ!!

 強烈な痛みに、身体が勝手に顔を背けてしまう。

 視界からアバロンが外れる。

 最悪の事態だ。痛みで左目が開かない。

 だが……これ以上顔を背けたままじゃいられねえ……っ!

 俺は強引に顔を正面に向け、アバロンの姿を捉える。

 チッ、右目だけじゃ遠近感がままならない。

 それでも俺は、全力で意識を集中。

 ――――ここだ。

 猛然と飛び掛かって来るアバロン。

 その頭部に合わせるように、俺は剣を握る手に力を込めて――!

 ……しまった。

 ワンテンポ遅い!!

 踏み込む瞬間に速度を上げてたのか、アバロンは予想よりわずかに前にいた。

 こうなったらもう……強引に剣を振りにいくしかねえッ!!

 うなりを上げて迫る、アバロンの牙。



 マズいぞ、このままじゃ間に合いそうにない……っ!

お読みいただきありがとうございました!

よろしければ、以下の★にてご評価いただければ幸いです。

何卒よろしくお願いいたします!

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