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式典開始と思わぬ参加者

 勇壮な音楽が鳴り渡り、平和十周年を記念した式典が始まった。

 鎧を着こみ、居並ぶ騎士団員たち。

 絨毯を挟んで、儀式杖を持ったローブ姿の魔術師団員が並ぶ。

 特設の客席に座る来賓たち。その中には王子の姿もあるらしい。

 ちなみに俺たちは冒険者ランクがAのせいか、そこそこ良い場所の警備を任されることになった。


「あー、トイレにはどう行くんだい?」


 フラフラとやって来た貴族の爺さんが、そんなことを聞いてきた。


「そっちの宿舎に入って、階段を上がって右に進んだ先っすよ」

「あっちの宿場に入って……?」

「そっちの宿舎っす」

「……あっちの宿場に……?」

「そっちの宿舎ですって」

「あーあー、そうか。あっちの宿場に……」

「そっちの宿舎だっての」

「そうか、ようやく分かった!」

「はい!」

「あっちの宿場に――」

「そっちの宿舎だぁぁぁぁ!」


 ああもう面倒くせえ! このまま背中を押して連れてってやる!

 集まってる貴族全員が、式に直接参加してるわけじゃない。

 式典自体は厳かに進んでるけど、宿舎を始め会場内では貴族たちが会話に花を咲かせている。

 なんつーか、感覚的には舞踏会とかの印象が近いのかもしんねえな。

 無事に爺さんを送り届けた俺は、持ち場に戻ることにする。

 ……あれ、アニエスのやつ何やってんだ?


「お嬢さんは冒険者だね?」

「あ、はい」

「この後、一緒にお食事でもどうかな?」

「お誘いいただきありがとうございます。申し訳ありませんが、仕事がありますので」

「それなら僕が変わりの人間を用意しよう。なんだったら依頼主に金を払ってもいい。こんなに美しい人は初めて見た。君のことをもっと知りたいんだ」


 貴族らしき男は、アニエスに詰め寄っていく。


「あー、えーと、ごめんなさい。そこの彼が私の恋人なんです」

「……あの寝ぐせ頭が?」

「はい」

「……弱みでも握られてるの?」

「いいえ」

「それならどうして……」

「握っている側です」

「……え?」

「握っている側なんです」

「……そ、そうなんだ」


 不敵な笑みを浮かべながら「むしろ握りしめてます」とか言い出すアニエスに、貴族の男は引き笑いを浮かべながら離れていく。


「おい、適当なこと言ってんじゃねえ」


 頭を小突いてやると、アニエスは「ひひ」と笑って見せた。

 さすが美少女貴族ってところか。あしらい方も慣れてんなぁ。


「レージ」

「あん?」

「ありがと。わざわざ見に来てくれたんでしょ?」

「ああ。心配だったからな…………貴族の男が」

「ふふふ、そうね」


 つつがなく進んでいく式典。

 俺たちがそんな適当な掛け合いで遊んでいると――。


「おいおい、なんだあの魔獣は?」「大丈夫なのか?」「あれって、もしかして……」「そんなまさか。ありえないだろ」


 突然式典会場がざわつき出した。


「なんだ? 急に騒がしくなってきたぞ」

「なにかあったのかしら」


 ざわめく貴族たちの視線は、一様に同じ方向を向いてる。

 俺たちも貴族たちの後ろから、式典の方をのぞきこんでみる。すると。

 居並ぶ士師団の連中。そこからわずかに外れた位置にやって来たのはモーリスだった。

 豪華な装飾を施した鎧を身に着け、ゆっくり自信満々の態度で歩いてくる。

 そしてそんなモーリスに引かれるようにしてやって来たのは――。


「おい、あれアバロンじゃねーか」

「え? 本当に?」


 俺の肩の上に、アニエスが顔を乗り出して来た。

 式典の参加者はもちろん、付近の貴族もその迫力に目を奪われてる。


「あれ、白帝じゃないか?」「だとしたらすげえな。あんな恐ろしい魔獣を飼いならしたってのか? アルテンシアの騎士団は」「こりゃまた世界に名前が轟くな」


 誰かがそんなことを言い出したのをきっかけに、士師団に、モーリスに尊敬の視線が集まる。

 あらためて見ても、白帝魔豹は雄々しく、凛々しく、その白い体躯は神秘的ですらある。

 そんなアバロンの隣には、どこかうれしそうに足を跳ねさせるヨルの姿。


「白帝魔豹なんて大物を式典に引き連れて来るなんて、過去に類を見ないレベルのお手柄ね」

「なるほど、そういうことか」


 これがモーリスの言ってた晴れ姿ってことか。

 白帝を従えて登場する。

 それは記念式典に、アルテンシアの歴史にこれ以上ない華を添えることになる。

 士団もモーリスを特別扱いする他ない。

 平和式典は、白帝の姿にざわつきながらも進んでいく。

 モーリスは集まった人たちの視線を一身に浴びて、余裕の笑みを浮かべていた。

お読みいただきありがとうございました!

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