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元しだんと式典の始まり

 魔王討伐から十年。

 アルテンシア騎士団と魔術師団は、最前線で魔族と戦い続けた英雄として今は知られてる。

 平和式典は、そんな士師団を称えるような大掛かりな催しだ。

 士師団宿舎前。王城を眺めるように作られた特設会場には、アルテンシアはもちろん全国からやって来た貴族たちが集まっていた。

 これまで数回ほど参加してきたけど、相変わらず派手だなぁ。

 貴族たちの集まりだけあって石畳の上には絨毯が敷かれてるし、この日のために新たに作らせたのか、宿舎二階に届くほど高い騎士や魔術師の石像なんかも置かれてる。

 何気ない調度品もいちいち高そうだ。


「この仕事……受けない方が良かったかもなぁ」


 ギルドから頼まれた仕事内容は、式典の警備だった。

 何せ士師団がフル装備で並んでいる壮観な絵面が欲しいわけだから、その分誰かが警備に回らないといけない。

 そのために冒険者なんかを使ってるってわけだ。


「魔王を倒した英雄たちは式典なんてやらなかったのに、よくあんな我が物顔でいられるわね」


 サッ。


「勇者と呼ばれる人たちが姿を見せないからって、伝説の恩恵をいいように独り占めして」


 ササッ。


「もっと正々堂々とやるべきよ」

「そう思うんならまず、アニエスが正々堂々しろよ」

「……な、なんのことかしら? 私はいつでも正々堂々としているけど?」


 会場内はまだ、催し物が始まる前の独特な賑やかさの中にある。

 アニエスはローブ姿の師団員を見つけるたびに、鉢合わせにならないよう俺の陰にコソコソと隠れていた。

 この、辞めた後のバイト先は気まずい理論って異世界にもあるんだなぁ……。


「大体レージの方こそ大丈夫なの?」

「俺はそんなん気にしねえよ。誰に見られようが関係ねえ」

「せめて私のローブから出て言ってくれる?」


 だって騎士団員が急に近くを通りかかったから……。

 しかも前に魔術師団の宿舎から逃げだした時に見かけたやつだったし。


「ほら、また髪が跳ねてる」


 士団員をやり過ごして、ローブの中から出て来た俺の頭をペタペタするアニエス。


「……あんまり恥ずかしいことしないでよ?」

「いやいや俺はスマートだったから。アニエスの隠れ方の方がヤバかったから」

「何言ってるの? 私の隠れ方には貴族らしい品格があるから」

「それなら俺はそもそも隠れたわけじゃねえから」

「それだったら何してたのよ」

「それはあれだよ……ええと……」


 言い合いを始める俺たち。その視界に士師団員が映る。


「「げっ!」」


 思わずアニエスと声が重なった。

 あいつら、こっちに向かって来やがる!?


「ちょ、ちょっと! 無理やり頭を突っ込んでこないで……って、ど、どこに隠れようとしてるのよ!」


 頬に触れる柔らかい感触。

 目の前には太もも……あ、これアニエスのスカートか。

 なるほど股に顔を突っ込んでる状態なんだな……ええい、こうなったらここに隠れてやる!

 騎士団のヤツにバレなきゃもうなんでもいい!


「ひゃあっ! だから、そ、そこに顔を押し付けないで!!」

「って、アニエスこそ俺の外套の中に隠れんのはさすがに無理だろ! 痛ててて! お前どこをつかんで……っ」


 俺が腰に巻いてる外套の中に潜り込もうと、強引につかみかかって来るアニエス。


「お前そこはやめろ! 取れる! 取れるから! 取れたら取り返しつかねえからっ!」

「ひゃぅんっ、あ、貴方こそ放してよ! スカートがめくれ……ちょっ、バランスが――――っ」

「お、おおおおおっ!」

「きゃああああっ!」


 俺たちはそのままもつれて倒れ込んだ。


「痛ってえ……」


 軽く打った頭をさすりつつ確認する。

 よし、取れてない。

 一方アニエスは、顔を赤くしながらそそくさとスカートを直していた。



「――――お前、レージか?」



 なんだ?

 呼ばれて顔を上げると、そこにいたのは――。


「……モーリス」


 よりによってアンタかよ。


「おいおい、”元”士団員がこんなところで何やってんだぁ?」


 俺の姿を見て、モーリスはニヤニヤと笑い始める。そして。


「もしかしてお前……式典の手伝いに来てんのか?」

「まあ、そうなるんすかねぇ」

「そいつは情けねえなぁ。元とはいえ士団員だったヤツが、騎士団のために雑用をさせられるなんてよぉ、なぁ?」


 モーリスは、完全に勝ち誇った顔でそう言った。


「モーリスさん、向こう準備できてるみたいですよ」


 そこにやって来たのは、同じく士団の若手たち。


「ああ今行く。レージ、せいぜい俺の晴れ姿を目に焼き付けとくんだな。これがタダの士団員として俺が参加する最後の式典になる。くっくっく、あの化け物がまさかこんな形で利用できるとはなぁ」


 そう言い残して、モーリスは去って行く。


「モーリスさん、今のって……」

「ああ、あいつがこの前クビになった士団員だよ。おいレージ、今度こそしっかり働けよなぁ! はっはっは!」


 モーリスの後に続く若手たちも、チラチラと俺の方を振り返っては笑う。


「変わんねえなぁ、あいつは」


 ……でも。

 気になるな。あの化け物って……一体なんだ?

お読みいただきありがとうございました!

よろしければ、以下の★にてご評価いただければ幸いです。

何卒よろしくお願いいたします!

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