一角兎と即席チーム
「まさか、鼻でモンスターを追いかけてたとはなぁ……」
「……嗅覚がすごいのはいいんだけど、こういうのはアバロンにしてもらった方がいいんじゃない?」
俺もそう思う。
女の子が草むらに鼻を突っ込んで「あっちだ!」は怪しすぎんだろ。
そんなわけで、ここからはアバロン本体にバトンタッチ。
「でもあのウサギ、さすがAランクって感じだったわね。あれだけの攻撃力と速度を兼ね備えたモンスター、なかなか見られないでしょう?」
「簡単な相手ではないな。熟練の冒険者でも対するのは難しいだろう」
「アバロンでも難しいの?」
「我は身体の大きさゆえに、木の多い山中を駆け回るのには向かないからな」
「キャッツだったらいけんじゃねえの?」
「あれは四足獣が後ろ足だけで立っている状態だ。完全に無力と言っていい」
「二度と出てくんな」
本当に何の役にも立たねえのかよキャッツは……。
白帝魔豹は鼻を鳴らしながら、山を突き進んで行く。そして。
「……近い!」
アバロンが足を止めた。
すると次の瞬間、木々の隙間を高速で走り抜ける影が視界をかすめる。
「危ねえ!!」
アニエスを抱えて地に伏せる。
するとそのすぐ頭上を、黒いウサギが飛び抜けて行った。
遅れて左右の木がゆっくりと倒れていく。
こいつはまた、ずいぶん派手な宣戦布告だな。
思わぬ手荒い歓迎に、自然と感覚が高揚していく。
「――――よし、行くぞ」
このメンバーならやれるはずだ!
「アニエス!」
俺の呼びかけに応えるように、アニエスが魔法を放つ。
「よし、そっち行ったぞ!」
作戦通りだ! アニエスの魔法に誘導された一角兎は回避に徹する。
その先に待ち構えているのは機動力の化け物!
……じゃなくて人型をした猫の化け物。
「キャーッツ!! なんでお前なんだよ!!」
幹に片手をついてるキャッツの横を、一角兎が通り過ぎていく。
「いや何かしろよ!」
「言っただろう? 今の我は無力だと」
「なら出てくんなよ!」
変身の失敗はそのまま戦局に影響しそうだなぁおい。
一角兎は、辺りの木々を機敏に避けながら駆け回る。
しかしその進行を阻むように放たれたアニエスの魔法に足を止めると、素早い動きで数本の木を切り倒した。
「ッ!」
倒れ込んで来た樹木をかわす。
するとその木の陰に紛れていたウサギが、突然飛び込んで来た!
「オラァッ!」
放たれた斬撃を剣で防御する。
「エーテルアロー!」
アニエスがすかさず放った魔法に、ウサギが大きくバランスを崩した。
「今だっ!」
一発叩き込むなら、ここしかねえ!
ヨルに視線で合図する。
するとそこには、木の枝に優雅に腰掛ける――――。
「キャァァァァッツ!! お前いい加減にしろよマジで!」
「すまぬな」
毎回違ったポーズで出てきやがって、腹立つなぁ!
ウサギは俺たちを挑発するように逃げていく。
その後を追い、たどり着いたのは木々の密集地帯。
足を止めたウサギは、邪な笑みを浮かべた。
……なるほど。
「これで俺たちをホームグラウンドに誘い込んでたってわけか」
その通り! と言わんばかりに、一転して一角兎は攻勢に出る。
木々を蹴り、縦横無尽に”領域”内を跳び回る。
そして放たれるは、高速の斬撃。
「おっと!」
角と剣の衝突により、火花が散る。
全方位から来る怒涛の攻撃は、もはや嵐。
なるほど、”剣士”としての腕も一流ってわけか。
細かなステップと、大胆な跳躍から放つ斬撃はAランクの名に恥じねえな。
「……ね、ねえ、ちょっと」
アニエスが指をさす。
そこには辺りの木々を巻き込みながら倒れ来る、一本の巨木の姿が。
「とんでもねえ攻撃して来やがんなぁおい!」
バキバキと耳障りな音をあげながら倒れる巨木。その枝葉の範囲は想像以上だっ!
「きゃっ!」
幹の直撃こそ避けたものの、枝に引っかかったアニエスが引き倒された。
それを見たウサギは、もがくアニエスに向って一直線。
強烈な跳躍から放つは、斜めの回転斬り!
「させるかぁ!!」
割って入った俺は”決め”に来たのであろう一撃を弾き返す。
生まれる硬直。
ああ、ここにもう一撃欲しいところだっ!
「てやああああ――――ッ!!」
すると次の瞬間、白髪獣耳ヨルの跳び蹴りがウサギの横っ腹に突き刺さった。
ようやく来た! いいぞヨル!
「エーテルアロー!」
弾き飛ばされるウサギに、戦線に復帰したアニエスの魔法が追い打ちをかける。
明確なダメージ。このまま一気に畳みかけてやる!
「ッ!!」
しかしウサギは体勢を整えると、ピタリとその動きを止めた。
その狂眼に、怪しい輝きが灯る。
気が付けば俺とウサギの間に障害となる樹木はなく、完全な一直線。
強烈な殺気が、集中していく。
「レージくん、逃げて――――ッ!!」
肌がビリビリと痺れるほどの緊張を感じ取ったヨルが絶叫する。
しかし止まらない。
ドンッ! 一角兎は衝撃波でも出てんのかってくらいのスタートダッシュを決めた。
視界から消えたと錯覚するほどの疾駆から、繰り出されるは必殺の刺突!!
それは岩をも刺し貫く一撃。
俺は剣を構え、呼吸を止める。
「……来い」
交差。直後に派手な火花と共にガキィィィィン!! と甲高い音が鳴り響いた。
くるくると天高く舞い上がったのは、剣のような一本の角。
一角兎の角だ。
勝負あり。やがてその鋭利な角が地面に突き刺さると、武器を失った一角兎は……即座に逃げに転じる。
「させるか! 今だヨル!!」
「はいさーっ!」
ウサギに飛び掛かって行くヨル。
しかし逃げに徹する一角兎に、その手はギリギリ届かない!
挑発するようにウサギが笑う。
「……出番だぞ、アバロン」
悪ィな。逃がすわけにはいかねえんだ。
締めは二段構え。
ヨルから飛び出して来た白帝魔豹は、逃げる一角兎を前足で踏みつけた。
「やったあ! 一角兎、捕獲成功だあっ!」
それを見て、黒髪のヨルが跳び上がった。
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