少女と白帝
消えた少女と、白い魔獣。
代わりに現れたのは、二足歩行の猫人間だった。
「何モンだお前は」
完全に人間の体形と輪郭をしてるのに、顔のパーツは完璧に猫。
しかもヒゲと尻尾はしっかりついてる。
要はキャッツだ。
俺がそんな濃い顔をした化け物にたずねると。
「――――わたしはこの森に住む妖精です」(裏声)
「斬ろう」
「やめろ……っ」
全力で行く俺の剣を、同じく全力で白刃取りするキャッツ。
かわい子ぶって目をぱちぱちさせんじゃねえ! 二足歩行が気持ち悪りィーんだよ!
こいつは絶対にタチの悪い魔物だ。それだけは間違いない!
「いや、それより獣耳の女の子を見なかったか? 一緒にそこの崖から落ちたんだが、安否が分からねーんだ」
「問題ない、その子なら無事だ」
「……どうして分かるんだ?」
「それはわたしが森の妖精だから――――分かった分かった! 剣をしまえ!」
キャッツは大きなため息をつく。
「戦ってどうにかできる状態でもないか……仕方あるまい」
それからまた、渋い声でそう言うと――。
「うおおッ!?」
突然目の前に、さっき俺を尻尾ではたいた巨大な獣が現れた。
「見つかっちゃったね」
その隣には……黒髪の美少女。
なんだこれ。一体何がどうなってんだ?
「レージー! 大丈夫ー!?」
俺が困惑していると、崖の上からアニエスの声が聞こえて来た。
「ああ、なんとかな!」
「今からそっちに行くわ!」
そう言ってアニエスは、その身一つで崖を下りて来る。
おいおい、貴族が岩にしがみついてるぞ……無茶するなぁアイツ。
「大丈夫かー?」
「大丈夫よ。こう見えても小さい頃はお転婆アニエスとして近所で――――あっ」
ほら見ろー!
◆
ぱちぱちと、たき火が小気味よい音を鳴らす。
時は夕刻。
アニエスをどうにかキャッチした俺たちは、崖下の川べりで一夜を明かすことにした。
「魔獣が封印されてる?」
「うん」
黒髪の少女がうなずく。
「今の状態が本来の姿で、君たちに見せてたのは――これっ」
その場でくるりと一回転。
すると少女の黒髪が獣耳付きの白髪に変わり、白い魔獣の姿が消えた。
「この状態だと運動能力がバーン! って上がって身体も強くなるんだよ!」
そう言ってダイナミックなバク転を決めてみせる。
「……封印した魔獣を、憑依させてる感じなのかしら」
アニエスが首をひねる。
「だとしたらモンスターテイムの最終系と言っていいわね。魔獣を取り込んで力を借りるなんて、すごい能力よ」
「それなら、さっきのキャッツは一体なんだ?」
「――――我のことだな」
「アニエスやめろ。攻撃魔法はまだ撃つな」
「な、なんなのよこの化け物は」
「わたしは森の妖精」(裏声)
「撃て」
「やめろ! ヨルはまだ完全に憑依を使いこなせるわけではない。失敗した場合や、我自身が表に出ようとすれば、このような姿になる」
なるほど。要はこの魔獣を自分の中に封じることで、この子は憑依状態になる。
それがうまくいけば白髪獣耳で強化されて、うまくいかないとキャッツ。
また、魔獣が表に出ようとした場合は、分離するかキャッツになるってことか。
……キャッツ率高くね?
「なあ、もしかしてお前って白帝じゃないか?」
「……その通りだ」
「白帝って白帝魔豹のこと!? 聞いたことあるわ。たった一頭で都市一つを食い尽くしたっていう、伝説の魔獣じゃない!」
「その通りだ。だが、それは我のことではない」
アニエスはごくりと息をのむ。
「まあ、信用できずとも無理はない」
そう言って白帝は「ふっ」と、自虐交じりの笑みを浮かべた。
「かつて我が一族にそのような凶行に走った者がいたのは事実だ。時が経っても……その悪名は変わらない」
「……なあ」
「やめろ。同情など要らぬ」
「いや変身解けって。キャッツじゃどんなに真面目な話をしても冗談にしか聞こえねえんだって」
二足歩行の猫人間姿で「同情など要らぬ」って言われても……。
そう言うとキャッツは、再び白髪獣耳へと姿を変えた。
「……この子はね、村の近くに住んでたんだよ。それを村の人が怖がっちゃって……わたしの力で封印しろって」
胸元を押さえながら、少女は寂しそうに言う。
「話をしてみたら悪い子じゃなかったんだ。だからそれからずっと一緒。でも、身体に魔獣を封じてるわたしはもう、村にはいられなくて」
「封印させておいて、追い出したってこと?」
アニエスは憮然とする。
「それでアルテンシアに来たんだよ。今では運動能力が買われて、お城で使用人として働かせてもらってるんだ」
「魔獣狩りもその仕事の一つか?」
「うん。魔獣を捕獲して来いって偉い人に言われて」
「一体何のために……」
「わたしたちは嫌われちゃってるけど、いつかきっと認めてもらえるはず。だからもっとがんばらないといけないんだ! 負けないよ!」
そう言って少女は、両こぶしを握ってみせる。
……ど、どうしよう。
思ってた以上に背負ってるものが強力なんだけど!
「おいやめろアニエス、泣くんじゃない」
「だって」
分かるけど! 応援したくなる背景だけど!
「それでも、負けるわけにはいかねえんだ」
「レージ……」
「俺たちには帰りを待ってるやつらがいるんだぞ。やさぐれ受付嬢とか……ゴロツキおじさんとか……」
「今すぐにでも譲った方がいい気がするんだけど」
それを言うなって!
これでも一応、ギルドの危機を背負ってんだからな。
「そりゃまあ、やり合わずに済むんならそれが一番に決まってんだが…………いや、待てよ」
「どうしたの?」
「目的はモンスターの捕獲って言ってたな? 条件は?」
「特にないよ?」
「俺たちに必要なのはウサギの角だけだ。それなら、手を組むことも可能なんじゃねえか?」
「本当っ!?」
「あのウサギは競いながら戦えるような相手じゃねえ。しかも捕獲ってなれば、さらに難易度が跳ね上がる。だが俺たち三人と白帝魔豹が手を組めば――」
「すごい……絶対いけるよっ!」
黒髪少女が、笑顔で跳び上がる。
俺たちの攻撃力にこの子の機動力が乗っかれば、面白いことになるはずだ。
「決まりだな」
こうして俺たちは、ライバルからチームへ。
「俺はレージだ」
「私はアニエスよ」
「ヨルだよ。ヨル・メルル・クルック!」
「よろしく頼む」
「こちらこそ!」
意外な形で決まった共闘に、思わず上がる意気。
俺たちはガッチリと握手を交わす!
「そして我が名はアバロン。覚えておくが良い」
「いいところで出て来んなって」
唐突なキャッツで雰囲気ぶち壊しじゃねえか……。
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