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Aランクと白亜の魔獣

「エーテルアロー!」


 逃げていく黒ウサギ目がけて、アニエスが魔法を放つ。

 光の尾を引く魔力の矢は、緩い弧を描きながら一角兎を追いかける。


「もう一発!」


 ウサギは魔法の隙間を縫うように、山中を駆け抜けていく。

 さすがはAランク案件、余裕で交わしていきやがる。

 ……だが。

 そもそもアニエスは当てるつもりで撃ってない。

 狙いは、ここだッ!

 一角兎がアニエスの放った魔法に目を取られた瞬間、木の枝を踏み台にして跳び上がる!

 これでウサギは俺を見失ったはずだ。

 この隙を突いて、一角兎に飛び掛かる――――!!


「…………は?」「…………え?」


 空中で、思わず硬直する。

 目の前に現れたのは、同じく一角兎に飛び掛かろうする少女の姿。

 待て待て待て! 空中じゃ姿勢も軌道も変えらんねえぞ!


「うおおおお――――ッ!!」「うわわわわ――――ッ!!」


 そのまま俺たちは空中で激突し、もつれあうようにして落下した。


「な、なんだキミはー!?」


 謎の少女が怒りに拳を振り上げる……って、ちょっと待て。

 俺、こいつ知ってるぞ!

 まとった柄物のケープ。

 白い髪と、頭に生えた同色の獣耳。

 師団宿舎に潜入した時に出て来た獣耳娘じゃねえか! どうしてこんなところに!?


「とにかく! あの獲物はわたしたちのものだからね! 渡さないよ!」


 獣耳少女は再び一角兎を追いかけていく。

 あの身体能力の高さ。

 こりゃ間違いねえ。高ランクの狩猟依頼を連続で持っていってるのはあいつだな。

 ……そういうことなら、こっちだって譲れねえ。


「アニエス! あの獣耳に魔法を撃て!」

「えっ? でも」

「足元だ! 手前の地面を狙え!」

「よく分からないけどやってみる! エーテルバレット!」


 アニエスの魔法が、獣耳の数メートル先に炸裂する!


「うわっ! ぺっぺっ!」


 巻き上がった土煙に、獣耳が唾を吐く。

 いいぞ! この隙に距離を縮めるんだ。


「アニエス!」

「うわー! ぺっぺっぺ!」


 もう少し、あと少しで獣耳に追い付ける!


「アニエース!」

「げほっげほっ! ぺっぺっ! なんてことするのさあ!」

「な、なんか私ものすごく嫌なヤツみたいになってるんだけど!」

「もう怒ったからね!」


 土やら木の葉やら枝にまみれた獣耳少女はそう言って、ひろった石を投げつけてきた!

 しかし石は、明後日の方向に飛んでいく。


「ハッ。大した威力だがなぁ、当たんなきゃ意味がねえんだよ――うぶふっ!」


 なんだ!? 急にべっとりとした何かが顔中に!?


「いや、これ……はちみつか?」


 ……嫌な、予感がする。

 そう理解した瞬間、案の定聞こえて来る大量の羽音。

 お、おい。そんなのありかよ! ハチが、ハチがぁぁぁぁ!!


「うわああああ! アニエス! アニエース!!」

「ええっ!? ちょっとこっち来ないでよ! エ、エ、エーテルバースト!」

「なんで俺ごとォォォォ!?」

「蜂だけ狙い撃つなんてさすがに無理よ!」


 巻き起こった爆発に吹き飛ばされた俺は、プスプス煙を上げながら、どうにかこうにか立ち上がる。


「あんのヤロー……」


 獣耳少女は再び先を行く。

 冗談じゃねえ。魔術師団宿舎への侵入の時はあいつに追い詰められたんだ。

 あん時の借りはキッチリ返させてもらうぞ……っ!


「……全力で行く。アニエスは後から追って来てくれ」


 そう言い残して、俺は再び走り出す。

 ギアを上げ、猛スピードで木々の間を駆け抜ける。


「ああもう、しつこいなあ!」


 やがて獣耳少女と横一線に並ぶと、目の前に山道を軽快に逃げていく黒ウサギの姿が見えた。

 始まる競り合い。

 ウサギとの距離は、ドンドン詰まっていく。


「ウサギは譲らねえ」

「こっちのセリフだよっ」


 そして一度背後を確認したウサギが……前を向いた! 来た! 今がチャンスだ!!

 俺は全力で飛び掛かる――――!!

 すると全く同じタイミングで、獣耳少女もウサギに跳びかかった。


「「負けるかぁぁぁぁ!!」」


 一方ウサギは、突然その足を止めた。



「「えっ?」」



 ぴょんと小さな跳躍で一つ、一角兎は飛び掛かってきた俺たちの手を逃れる。

 それから俺たちを小ばかにするような、邪な笑みを浮かべてみせた。

 なんだ? 一体どういう……ああー、そういうことかぁ。

 追うことに夢中で気づかなかったけど、そもそも速さが売りのウサギが俺たちに追いつかれた時点で気づくべきだった……。

 突然開けた視界。

 その前に広がるのは谷。そして崖。

 全力で飛び掛かっていった俺に、もはやその勢いを止めるすべはない。


「「うーわああああああ――――!!」」


 しかも結構高ええええ!!

 俺は獣耳少女と共に崖を真っ逆さまに落ちていく。おいおいこの高さはさすがにヤバイぞ――――!!



 ――――突然中空に、巨大な獣が現れた。



 雪のように白いその獣は凛々しく、そして神々しい。

 その口でなんなく少女をくわえ、そのまま崖下に見事な着地を決めると――。


「おごふ」


 俺を尻尾ではたき飛ばした。

 俺は崖下をゴロゴロと転がり、岩にぶつかったところでようやく止まる。


「痛てててて……」


 でも助かった。あのまま落下してたらさすがにヤバかったな……。

 一体、空中で何が起こったんだ?

 慌てて辺りを見回す。


「あれ、いねえ……」


 しかしそこにはもう、白い獣の姿はなかった。


「な、なあ、今の白いヤツは一体――」


 今度は白い獣に助けられたはずの少女にたずねてみる。


「……なんのことかね?」


 ……は?

 ていうか、獣耳少女もいねえ。

 俺の問いに渋い声で応えたのは、人間に白い全身タイツを着させて毛を生やし、顔をメイクで猫っぽくした感じの生き物だった。

 あれだ。前の世界で言うと、ミュージカルでおなじみのキャッツ。

 ただキャッツだけが優雅に岩に腰かけたまま、その濃い顔で俺を見つめていた。


「お前……誰だよ――ッ!?」

お読みいただきありがとうございました!

よろしければ、以下の★にてご評価いただければ幸いです。

何卒よろしくお願いいたします!

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