内情と新たな依頼
「あっひゃっひゃっひゃ! こいつがギルド名物のベーコンステーキだぁ。あまりの美味さにチビっちまっても知らねえぞォ!」
ギルド併設の酒場に戻って来た俺たちは、泥棒面の男の奢りでベーコンにかじりついていた。
どうしよう、確かに美味い。
「……二人とも、さっきはすまなかったな」
やって来た戦斧の男はその巨大な斧をドンと鳴らして、隣に腰を下ろす。
「俺はブラッドホーク」
「きっひっひ。オレはマッドロックだァ」
今だはしゃぎ狂ってる受付嬢を見て、ブラッドホークが息をつく。
「アンナマリー……受付の嬢ちゃんも新人がいきなりAランクなんてのは初めてでよ、つい地が出ちまってんだ。まだ仕事が多かった頃は元気で勝気なギルド嬢だったんだがなぁ」
「仕事が多かった頃? なんかあったんすか?」
「ああ。十年前、勇者が旅を始めてから魔族は減っていって、魔王が倒れると同時にほとんど見なくなった。モンスターなんかはいるからまだまだ仕事自体はあるんだが、そこに魔族が絡まなくなったことで安全になったんだ。だが……そこに目を付けた貴族が金で仕事と冒険者をかき集め出してよぉ」
なるほど、だからギルドがさびれてるのか。
ブラッドホークが言った「お前みたいなひよっ子にできる仕事なんて、ここにはねえ」って言葉も、そもそも仕事自体がないってことだったんだな。
「そんでギルドに仕事に回らなくなってきたところで、あの手この手で中抜きの額を上げた。そうなっちまったらもう、報酬を下げられようが冒険者たちは従うしかねえ」
また、ずいぶんと狡いやり方してやがんなぁ。
「しかもここ最近、数少ない高ランク帯の魔獣退治を同じヤツに現地で立て続けに持って行かれちまってな。ギルドに残ってた猛者たちもそれが決め手になって他所に行っちまったのさ。だがギルドに長く世話になった俺たちは、ここを出る気にゃあなれなかった。ちなみにアンナマリーがやさぐれ出したのもそっからだ」
「ひゃっひゃっひゃ。あれでも十年前はまだガキで、ギルドを駆け回る元気娘として人気だったんだぜェ」
「何言ってんのさ。アンタたちだってこの十年ですっかりゴロツキ化してんじゃない」
「「ゴロツキじゃねえ」」
やって来たアンナマリーに、声をそろえてツッコミを入れる二人。
「昔はもっと……活気があったんだがなぁ」
ブラッドホークは自嘲的な笑みを浮かべる。
「ねえアンナマリーさん、今ここにAランクで受けられる仕事はどんなのがあるの?」
「ああ、それならアルテンシア製高級シャンパンの――」
「シャンパン? オシャレな仕事ね」
「――ビンのひび割れ確認」
「ヒギッ」
アニエス、目が死ぬ。
「それと……もう一つ」
そう言ってアンナマリーは、神妙な顔つきで一枚の依頼表をテーブルに置いた。
「一角兎の角狩り……?」
「最近取られっぱなしの、魔獣関連の依頼だよ」
依頼書を確認する。
なるほど、仕事は討伐じゃなくて角の回収なんだな。
「とにかくレアで動きが異常に速いんだ。角による攻撃が強烈だけど、中でも刺突が圧倒的。そして」
「そして?」
「……また、噂のアイツと取り合いになる可能性がある」
立て続けに依頼を達成してるってヤツのことか。
「そうなると現状受けられる仕事はシャンパンと一角兎の二つ。なあアニエ――」
「一角兎にしましょう!」
「別に俺はビンのひび割れ探しでも――」
「一角兎しかないわ!」
「……そういうことらしいんで、受けるよこの仕事」
「そうかい。ただ、いくらAランクの二人組っても、新人にいきなり難易度の高い仕事を任せるのは褒められたことじゃないんだ」
「大丈夫よ、レージなら」
「本当かい? それならよろしく頼むよ。角が手に入ったらギルドで換金するからね」
そういうことなら善は急げだ。
俺たちはさっそく立ち上がる。
「……にいちゃん。今さら俺が言えた義理じゃねえかもしれねえけど、一矢報いてやってくれねえか」
「ひゃっひゃっひゃっ! まだまだアルテンシアのギルドは死んでねぇんだって、教えてやりてえなァ」
仕事を奪われさびれたギルドに、それでも残った男たち。そして。
「こんなこと言うのは久しぶりだよ。レージ、アニエス……気をつけてね。いってらっしゃい」
勝気な笑みで手を振るギルド嬢、アンナマリー。
「やれやれ」
ギルドを出た俺は、ため息とともに頭をかく。
正直、こういうのにはちょっと弱えんだよなぁ。
「レージ」
「あん?」
「やってやりましょう」
どうやらアニエスも同じらしい。
◆
「意気込んで出て来たのはいいけど……これ、見つかるの?」
引き受けたギルド仕事は、一角兎から角を回収すること。
目的地であるアルテンシア北部の山林に踏み込んだ俺たちは、さっそく一角兎の捜索に当たっていた。
どうやらこの一角兎、今回指定されてんのは特別な種類らしい。
素早い動きと、角による一撃必殺の刺突を得意とする特殊個体。
「もう四時間も歩き続けてんのに、尻尾すらつかめねえとは……」
この広い山の中でウサギを探すってのは、なかなか骨が折れそうだなぁ。
「アンナマリーの情報では、中腹の辺りで目撃されてるってことだけど……」
それでも範囲広すぎだよな。
「そもそも、出会えない可能性もあるぞ」
「あれだけカッコいい感じで出て来てそれは恥ずかしいわね。でもこれだけ広いとさすがに……」
思わず二人、ため息をつく。
「……ん?」
すると木々の陰から、こっちをのぞいている黒い影に目が留まる。
大きさは中型犬くらいか。
赤く光る眼をした黒いウサギが、俺たちの姿を見つけて走り出した!
「「い、いたーっ!!」」
黒ウサギはとんでもない速度で俺たちの方に突っ込んで来ると、そのまま跳躍。
「危ねえッ!!」
首を一振りして、俺たちの真横を駆け抜けていった。
「……レ、レージ」
背後の広葉樹が、深々と刻み込まれた傷に沿ってゆっくりと倒れていく。
今の一撃でこの威力か……。
あの角、下手な剣より全然切れんぞ。
なるほど、確かにこいつはAランクだ。
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