第28話 白い猫は誰の味方か
白い猫は、窓の外に座っていました。
雨の中です。
けれど、濡れていません。
白い毛は乾いたまま。
金色の目は、雨粒をひとつも受け入れないまま。
尻尾だけが、ゆっくりと左右に揺れています。
まるで、雨の方が猫を避けているみたいでした。
透真さんの部屋には、まだメロンパンの甘い匂いが残っています。
机の上には、白い表紙のノート。
私が透真さんを物語に閉じ込めた証拠。
そして今は、閉じ込めたものを開けようとしている途中のもの。
ノートの表紙には、雨粒で文字が浮かんでいました。
状態:閉鎖解除中
鍵:未発見
次の確認者:白い猫
白い猫。
私の「し」と、消えた三人目の「あ」を預かっているかもしれない猫。
いいえ。
かもしれない、ではありません。
私はたぶん、わかっていました。
この猫は持っています。
私たちが取り戻したくて、でも取り戻すのが怖い文字を。
「猫」
黒瀬さんが窓へ近づきました。
彼女は、窓越しに猫を睨みます。
「入るなら入って。そこに座られると、話が進まない」
白い猫は、にゃあと鳴きました。
それは普通の猫の声でした。
でも、頭の中に意味が届きます。
招かれていない。
「招くわよ」
黒瀬さんは、すぐに言いました。
「はい、どうぞ。入ってください。これでいい?」
猫は首を傾げました。
礼が足りない。
「面倒くさいな!」
黒瀬さんが声を上げました。
「猫に礼儀作法求められる日が来るとは思わなかった」
透真さんが、少しだけ苦笑しました。
「猫の王様の関係者ですから」
「だからって、窓の外で接客マナー審査しないでほしい」
私は、窓の前に立ちました。
胸元には、半分剥がれたラベルがあります。
雨宮しずく。
ただし、その「し」はまだ欠けています。
黒瀬さんと透真さんの手の甲に預けた「し」は、さっきから薄くなっていました。
このまま放っておくと、消えてしまいそうです。
私は、窓を開けました。
雨の匂いが入ってきます。
白い猫は、私を見上げました。
「入ってください」
私は言いました。
「お願いします」
猫は、少しだけ満足したように目を細めました。
そして、音もなく部屋の中へ入ってきました。
足跡は残りません。
濡れていないからです。
猫は机の上に飛び乗り、白いノートの前に座りました。
黒瀬さんが、すぐに言います。
「机の上に乗るのは行儀悪いでしょ」
猫は黒瀬さんを見ました。
人間の机だ。
「そうよ」
猫の机ではない。
「わかってるなら降りなさいよ」
神様の机でもない。
「話をずらすな」
透真さんが小さく言いました。
「黒瀬と猫の会話、妙に成立していますね」
「成立させたくない」
黒瀬さんは腕を組みました。
「でも、言わないとこの猫、絶対つけあがる」
白い猫は、少し誇らしそうに尻尾を立てました。
私は猫の前に座りました。
「あなたは、誰の味方なのですか」
猫は、すぐには答えませんでした。
ただ、白いノートの表紙に前足を置きます。
文字が滲みました。
味方ではない。
黒瀬さんが、即座に顔をしかめます。
「出た。こういう曖昧な答え」
猫は続けます。
敵でもない。
「はいはい、中立気取り」
預かる者。
黒瀬さんが一歩前に出ました。
「預かる預かるって、前から思ってたけど、勝手に預かるのやめてくれない? 預かるなら受領書出しなさいよ」
白い猫が、ぴたりと動きを止めました。
金色の目が、黒瀬さんを見ます。
黒瀬さんは一歩も引きません。
「何よ」
猫は、ゆっくり瞬きしました。
受領書。
「そう。受領書。何を預かってるのか、誰から預かったのか、いつ返すのか。普通そういうの必要でしょ」
透真さんが、少しだけ感心したように言いました。
「黒瀬、猫相手にかなり事務的ですね」
「このくらいしないと、神様とか猫とかすぐ雰囲気で押し切るから」
「確かに」
「しずくさんも覚えておいて。相手が神秘っぽい顔をしていても、必要なら書面を求める」
「はい」
私は真剣に頷きました。
「神秘にも書面」
「そう。大事」
白い猫は、前足でノートを軽く叩きました。
すると、ノートの横に一枚の紙が現れました。
小さな紙。
まるで宅配便の控えのような形です。
黒瀬さんが、目を細めました。
「本当に出た」
「出るんですね」
透真さんも驚いていました。
紙には、細い文字でこう書かれていました。
受領書
預かり品:し
預かり品:あ
預かり理由:置いていかれた名前の保護
返却条件:主人公を一人にしないこと
私は息を止めました。
し。
私の名前の一文字。
あ。
消えた三人目の名前の一文字。
やはり、猫が持っていました。
黒瀬さんは紙を奪うように手に取り、何度も読み返しました。
「預かり品って言い方、腹立つ」
「はい」
「でも、書いてある。し、と、あ」
彼女の声が少し震えました。
「あ、あるんだ」
黒瀬さんは、紙の「あ」を指でなぞりました。
けれど、文字は紙の上にあるだけで、彼女の記憶の中には戻ってきません。
「……読める」
黒瀬さんは呟きました。
「読めるのに、思い出せない」
透真さんが静かに言いました。
「まだ預かり品だからでしょうか」
「たぶん」
黒瀬さんは、悔しそうに唇を噛みました。
「目の前にあるのに。あ、って。あいつの名前の最初なのに。これだけじゃ全然足りない」
私は、胸元を押さえました。
私の「し」も同じです。
受領書には書いてあります。
けれど、私の名前には戻っていない。
雨宮しずく。
そう書きたいのに、私の内側ではまだ少しだけ空白がある。
白い猫が、机の上で尻尾を揺らしました。
返却条件。
黒瀬さんが、紙を睨みます。
「主人公を一人にしないこと」
透真さんが、少し考え込むように繰り返しました。
「主人公を一人にしない」
「第21話で言ったやつですね」
私が言うと、黒瀬さんが頷きました。
「そう。しずくさんが主人公だったって話になった時、水無月さんが言った」
「はい」
「でも、条件として出されると急に重い」
「どういう意味なのでしょう」
白い猫が、にゃあと鳴きました。
主人公は、見つける者。
また、見捨てられる者。
また、選ばされる者。
また、読まれる者。
また、死ぬ者。
黒瀬さんが、眉を寄せました。
「全部嫌な説明なんだけど」
猫は続けます。
一人で主人公になる者は、名前を失う。
「何で?」
黒瀬さんが聞く。
主人公は、すべてを背負うから。
しずくが、背負った。
透真が、背負った。
依子が、背負いかけた。
猫の声は淡々としていました。
私は、胸が痛くなりました。
私が主人公だった世界。
透真さんが主人公だった第一章。
黒瀬さんが読者に近い存在として、全部を読もうとした第25話。
私たちは何度も、一人にされかけました。
一人で語る。
一人で読む。
一人で選ぶ。
一人で責める。
一人で覚える。
そのたびに、何かが欠けました。
私の「し」。
三人目の「あ」。
透真さんの名前。
黒瀬さんの記録。
「つまり」
黒瀬さんが、受領書を指で叩きました。
「一人で主人公ぶるなってこと?」
白い猫が、少しだけ首を傾げました。
雑だが近い。
「猫に雑って言われた」
黒瀬さんが嫌そうな顔をします。
透真さんが、少しだけ笑いました。
「近いならよかったのでは」
「よくない。猫に採点されたくない」
私は受領書を見つめました。
「主人公を一人にしないというのは、物語を一人で持たないということですか」
猫は、私を見ました。
そう。
「名前も、一人で持たない」
そう。
「痛みも、一人で持たない」
そう。
「罪も?」
猫は少し黙りました。
それから言いました。
罪は、分けても軽くならない。
だが、一人で持つと形が変わる。
「形が変わる?」
檻になる。
その言葉で、私は白いノートを見ました。
透真さんを閉じ込めたノート。
名前を檻にした私。
罪は一人で持つと檻になる。
私はそれを、もう見ました。
「では」
私は猫に聞きました。
「私が透真さんを物語に閉じ込めた罪は、どうすればいいのですか」
白い猫は、すぐに答えませんでした。
部屋の雨音が少しだけ強くなります。
黒瀬さんが、私の隣に立ちました。
「しずくさん、今の質問は大事だけど、答えを猫だけに預けないで」
「はい」
「猫がそれっぽいこと言っても、私たちで考える」
「はい」
猫は黒瀬さんを見ます。
面倒な人間。
「そっちこそ面倒な猫でしょ」
黒瀬さんは負けません。
「し」と「あ」預かってるなら、もっと説明責任がある」
説明責任。
猫は、その言葉を少し噛むように黙りました。
そして、受領書の下に新しい欄を作りました。
返却までの暫定手順
一、主人公を一人にしない。
二、役割より先に名前を呼ぶ。
三、書いたものを一人で閉じない。
四、読んだものを外側へ逃がさない。
五、まだ思い出していない者の席を空けておく。
黒瀬さんの目が止まりました。
「五」
まだ思い出していない者の席を空けておく。
消えた三人目。
名前の一文字「あ」だけが預かられている人。
黒瀬さんの恋文の差出人。
メロンパンの袋。
ミナトという呼び方。
二〇七号室。
ロッカー。
泣いた日。
黒瀬さんは、少しだけ唇を噛みました。
「席を空けておくって、どういうこと」
猫は答えます。
忘れた者を、現在から追い出さないこと。
「名前がわからなくても?」
名前がなくても、席は置ける。
黒瀬さんは、長く息を吐きました。
「……そういうこと、言うんだ」
その声は、少しだけ悔しそうでした。
猫が言ったことが正しいと、認めたくないけれど、認めざるを得ないような声。
「名前が思い出せないと、つい、その人がいないみたいに扱いそうになる」
黒瀬さんは言いました。
「恋文とか日記とか、メロンパンとか、そういう証拠を握ってる時は思い出せる。でも普通の会話になると、三人で話してる気になる。四人目の席を忘れる」
透真さんが、静かに言いました。
「僕たちは、いつも三人でいるように見えます」
「うん」
「でも、四人目の不在も一緒にいる」
黒瀬さんは少しだけ笑いました。
「水無月さん、そういう言い方はうまいね」
「そうでしょうか」
「うん。ちょっと腹立つくらい」
私は机の周りを見ました。
椅子は三つしかありませんでした。
透真さんの部屋には、いつも三人分しか居場所がないように思っていました。
でも、本当は。
「椅子が足りません」
私が言うと、黒瀬さんが目を瞬かせました。
「椅子?」
「はい。私たちは三人で座っています。でも、席を空けておくなら、もう一つ必要です」
黒瀬さんは、少しだけ固まりました。
それから、困ったように笑いました。
「しずくさん、急に具体的」
「黒瀬さんに学びました。具体的な方が現実に戻れると」
「言った。言ったけど、ここで椅子に行くの、かなりいい」
透真さんも頷きました。
「折り畳み椅子なら、押し入れにあります」
黒瀬さんが顔をしかめました。
「押し入れって聞くと、まだ水無月さんの死体を思い出すんだけど」
「すみません」
「謝らない。椅子出して」
透真さんは押し入れを開けました。
一瞬、全員が身構えました。
前にそこから出てきたのは、雨宮透真さんの死体だったからです。
けれど、今回は普通の折り畳み椅子が入っていました。
少し古い、パイプ椅子です。
黒瀬さんが、あからさまに安心した顔をしました。
「普通の椅子だ」
「はい」
「普通がこんなにありがたいことある?」
「ありますね」
透真さんは椅子を出し、机の四つ目の位置に置きました。
誰も座っていない椅子。
空席。
でも、ただの空白ではありません。
黒瀬さんは鞄からメロンパンの袋を取り出しました。
空っぽの袋です。
それを、四つ目の椅子の上に置きました。
少し迷ってから、恋文の封筒も置きます。
差出人はまだ黒く塗り潰されています。
黒瀬さんは、その椅子を見つめました。
「……これでいい?」
誰に聞いたのかは、わかりません。
猫かもしれません。
消えた三人目かもしれません。
自分自身かもしれません。
白い猫は、尻尾を一度揺らしました。
よい。
黒瀬さんは、少しだけ泣きそうになりました。
「猫に褒められて泣きそうになるの、嫌だな」
「泣いてもいいです」
私が言うと、黒瀬さんは少し笑いました。
「今日はまだ泣かない。たぶん」
「たぶん」
「うん。たぶんね」
その時、受領書の「返却条件」の文字が少しだけ光りました。
主人公を一人にしないこと。
その下に、小さく追記が浮かびます。
現在、条件一部達成。
私は息を呑みました。
「一部」
黒瀬さんが受領書を見ます。
「椅子を置いたから?」
猫は答えます。
席を空けた。
「それだけで?」
それだけではない。
猫の目が、私たち三人を順番に見ました。
呼んだ。
見た。
置いた。
食べた。
「食べた?」
黒瀬さんが聞き返しました。
メロンパン。
猫は言いました。
黒瀬さんは、空席の上のメロンパンの袋を見ました。
「食べ物、やっぱり大事なんだ」
「意味より先に甘いので」
私が言うと、黒瀬さんは頷きました。
「うん。意味より先に甘い。かなり大事」
透真さんが、少し真面目な顔で言いました。
「では、四人目の席には今後もメロンパンを置くべきでしょうか」
「毎回だと供物っぽくなるから、それはそれで重い」
黒瀬さんは考え込みました。
「でも、時々置く。あと、ミルクティーも」
「黒瀬さんのですか」
「私のでもあるし、あいつが買ってくれたかもしれないやつでもある」
黒瀬さんは、少しだけ口元を緩めました。
「席を空けるって、こういうことなのかもね。思い出せない名前のために、生活の中に少し場所を置く」
その言葉で、受領書がまた光りました。
預かり品:あ
状態:返却準備中
黒瀬さんの手が震えました。
「返却準備中」
声が掠れます。
「返ってくるの?」
白い猫は答えませんでした。
代わりに、受領書の次の行が浮かびます。
ただし、主人公を一人にした場合、再預かり。
「再預かりって言い方、やっぱり腹立つ」
黒瀬さんは涙をこらえるように笑いました。
「でも、少し近づいたんだ」
「はい」
私は、自分の胸元を押さえました。
「私の、しは」
受領書を見ると、同じように表示が変わっていました。
預かり品:し
状態:返却準備中
胸が熱くなります。
完全に戻ったわけではありません。
でも、準備中。
返ってくるかもしれない。
白い猫は、机の上から私を見ました。
次に一人で主人公になろうとした者から、名前を一文字ずつ取る。
その声は、部屋の空気を冷たくしました。
「脅し?」
黒瀬さんが言います。
猫は、首を横に振りました。
規則。
「規則の方が嫌だわ」
黒瀬さんが低く言いました。
透真さんが、ゆっくり口を開きます。
「一人で主人公になろうとした者から、名前を一文字ずつ取る」
「はい」
私は頷きました。
「私は、主人公だった世界で一人になりました」
「僕も、第一章で一人で選びかけました」
「私も、読者になろうとしたら外へ出かけた」
黒瀬さんが言います。
「つまり、みんな危ない」
「はい」
「一人で抱えたら名前を取られる。主人公って、便利な椅子じゃなくて危険物なのね」
「危険物」
「うん。取り扱い注意」
黒瀬さんはノートに書きました。
主人公=危険物。
一人で持たない。
持つ場合は共有。
四人目の席を忘れない。
猫には受領書を求める。
「最後、必要ですか」
透真さんが聞くと、黒瀬さんは真顔で頷きました。
「必要」
白い猫は、不満そうに尻尾を揺らしました。
私は少し笑いました。
笑えました。
こんな話をしているのに。
名前を預けられているのに。
主人公という危険物について話しているのに。
笑えたことが、少し嬉しかったです。
その時、透真さんのスマホが震えました。
画面には、次の文字。
【第28話 白い猫は誰の味方か 読了】
その下に、まだ続きます。
【第29話 主人公会議】
黒瀬さんが、画面を見て言いました。
「また会議」
「名前会議以来ですね」
透真さんが言います。
「今回は主人公会議」
私は受領書を見ました。
主人公を一人にしないこと。
次の話で、その意味を決めなければいけないのでしょう。
主人公とは誰か。
透真さん。
私。
黒瀬さん。
消えた三人目。
誰か一人ではなく、どう持つのか。
白い猫は机から降りました。
そして、四つ目の椅子の前で止まります。
空席。
メロンパンの袋と恋文の封筒が置かれた椅子。
猫は、その下に小さな紙を落としました。
そこには、こう書かれていました。
会議には、欠席者の席も必要。
黒瀬さんが、それを拾って、しばらく見つめました。
「……わかった」
声が少し震えていました。
「次の会議、四人でやる。名前がなくても、あいつの席も置く」
透真さんが頷きました。
「はい」
私も頷きます。
「はい」
白い猫は、窓へ向かいました。
外はまだ雨です。
でも、雨は少しだけ細くなっていました。
「猫」
黒瀬さんが呼び止めました。
白い猫が振り返ります。
「味方じゃないって言ったけど」
猫は黙っています。
「今日のところは、少しだけ助かった」
白い猫は、目を細めました。
礼は受け取る。
「偉そう」
黒瀬さんはそう言いましたが、少しだけ笑っていました。
猫は窓の外へ出ていきます。
雨に濡れないまま、手すりを歩き、ふっと消えました。
部屋には、受領書が残りました。
し。
あ。
返却準備中。
そして、四つ目の椅子。
私はその椅子を見つめました。
空いているのに、空っぽではありません。
ここに、まだ思い出していない人がいる。
名前のない人の席がある。
それだけで、部屋の形が少し変わったような気がしました。
黒瀬さんが、ぽつりと言いました。
「主人公会議、絶対面倒だね」
透真さんが答えます。
「僕たちの会議で、面倒ではなかったものがありますか」
「ない」
「では通常運転です」
「通常運転がひどい」
私は、胸元のラベルに触れました。
雨宮しずく。
「し」はまだ戻っていません。
でも、返却準備中。
それだけで、少し息がしやすい。
「次は」
私は言いました。
「主人公を、一人にしない方法を考えるのですね」
黒瀬さんが、椅子を四つ見回しました。
「そう。水無月さん、しずくさん、私、それから欠席者」
透真さんが、四つ目の椅子を見つめます。
「彼も、主人公会議の参加者ですか」
「当たり前でしょ」
黒瀬さんは、少しだけ怒ったように言いました。
「名前がなくても、席はあるんだから」
その言葉で、受領書の「あ」が一瞬だけ光りました。
黒瀬さんは、泣きそうな顔になりました。
でも、泣きませんでした。
代わりに、四つ目の椅子へ向かって言いました。
「遅刻扱いにしておくから、ちゃんと来なさいよ」
返事はありません。
でも、メロンパンの袋が、かさりと鳴りました。
それはたぶん、返事ではありません。
でも、黒瀬さんは少しだけ笑いました。
「よし。会議、始める準備はできた」
次の話が、机の上に開かれていました。
四つの席と、一枚の受領書と、白いノートと、まだ名前のない誰かのメロンパンの匂いを残して。




