第31話 薄暮の決断
三人は、ローテーブルを囲むようにして座り込んでいた。
中央には、賢人が強く握りしめた跡が残る、あの一枚の不在票が置かれている。そこに記された「松村 賢人」「吉田 大樹」という二人の名前が、蛍光灯の下で呪詛のように浮き上がって見えた。
三者三様の沈黙が、重苦しく部屋を満たしている。
大樹は、その不在票から目を逸らすことができずにいた。ポストが鳴った瞬間の金属音と、自分たちの名前が刻まれた紙切れ。そのあまりの異常さに、腕を力任せにさすりながら震えを堪えている。
一方、池崎さんは床の一点を見つめたまま動かない。その瞳は虚ろで、この怪異を逃れようのない罰として静かに受け入れようとしているかのようだった。
その中で賢人だけが、スマホの画面を滑らせ、この時間でも手が届く救いを必死に検索していた。
「……幽霊だか呪いだか知らねえけどよ、マジで洒落になってねえぞ、これ」
大樹が耐えきれなくなったように吐き捨てた。その言葉を合図にするように、池崎さんがゆっくりと顔を上げた。
「……私、ここから引っ越すわ」
唐突なその言葉に、賢人と大樹は顔を見合わせた。
「あなたたちを責める気はないわ。そもそも、私が結衣のことで勝手に勘違いして、あなたたちに関わっちゃったのが原因なんだし……。ここから引っ越せば、こんな紙、届かなくなるはずよ。幸い、貯金はあるから……。これは浮気しちゃった私への、結衣からの罰だと思って受け入れるわ」
引っ越せば助かる――。
池崎さんのその希望を、賢人は否定しなかった。彼女には、あの『次はあなたたちの番です』という宣告は届いていない。場所を変えるだけで済むのなら、それに越したことはないのだ。
だが、自分たちは違う。賢人は検索していた画面を閉じ、二人を見た。
「……池崎さん。俺たちは、少し寄り道してから帰るよ。19時前だし、もう神社の社務所は閉まってるけど、検索したら少し離れた神社に、二十四時間対応のお守りの自動販売機があるみたいなんだ。気休めかもしれないけど、厄除けを持っておいた方がいいと思うから」
「……お守りの自販機……。そうね、あそこならいつでも買えるわね」
池崎さんは力なく立ち上がり、最低限の貴重品をバッグに詰め込み始めた。
三人は身支度を整え、玄関へと向かう。
賢人がドアチェーンを外し、鍵を開ける。
19時を告げる遠くのチャイムが街に鳴り響く中、三人はそれぞれの目的地へと足を踏み出した。




