第20話 密室の独白
自動ドアが左右に開き、三人はエレベーターへと乗り込んだ。
賢人と大樹は、示し合わせたわけでもないのに、自然とエレベーターの奥の両端へと陣取った。その中央、操作パネルの前にポツンと立つ池崎との間に、可能な限りの距離を保とうとする。
「……」
賢人が『4』のボタンを押すと、重苦しい振動と共に箱が上昇を始めた。
密室になった途端、ロビーでの喧騒が嘘のように静まり返る。聞こえるのは、エレベーターが動く機械音と、三人の不揃いな呼吸音だけだ。
だが、その沈黙はすぐに、湿り気を帯びた声によって塗りつぶされた。
「……怒ってるんだ。まだ怒ってるんだよね、結衣ちゃん。私が直接謝りに行かなかったから……」
池崎が、うつむいたまま小さな声でぶつぶつと呟き始めた。
細い指先で自分のトートバッグの持ち手をいじりながら、独り言を繰り返している。
「あのさ、池崎さん。本当に佐藤さんはもういないんだって。俺らが契約して住んでるんだから」
大樹が耐えきれず、壁に背を預けたまま、呆れたようなトーンで口を挟んだ。
しかし、池崎の耳には届いていないようだった。
「……きっと寂しいんだよね。一人で、あの部屋で、私が来るのを待ってるんだよね。ちょっと拗ねてるだけだよね。大丈夫、今すぐ行くから。ちゃんと顔を見て、ごめんねって言うから……」
彼女の中で物語が完結してしまっている。
賢人と大樹は顔を見合わせ、言葉を失った。怯えるというよりは、もはや「この人に何を言っても無駄だ」という絶望的な徒労感に近い。
大樹は顔を顰め、少しでも彼女の放つ異様な熱気から逃れるように、Tシャツの襟元を軽く引っ張って鼻を覆った。
「……あ」
池崎が、ふっと顔を上げた。
エレベーターの鏡越しに、彼女は背後にいる二人に視線を向けた。その目はどこか遠くを見ていて、ひどく場違いなほど穏やかにさえ見える。
「……ねえ。結衣ちゃん、寂しがってなかった?」
「……いや、だから。いないんだって」
賢人が力なく答えるのと同時に、『チーン』という無機質な到着音が響いた。
ドアが開く。
4階。自分たちの住む、逃げ場のない廊下が目の前に広がっている。




