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不在届:302号室 郵便物集積記録  作者: ちぱ


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第20話 密室の独白

 自動ドアが左右に開き、三人はエレベーターへと乗り込んだ。


 賢人と大樹は、示し合わせたわけでもないのに、自然とエレベーターの奥の両端へと陣取った。その中央、操作パネルの前にポツンと立つ池崎との間に、可能な限りの距離を保とうとする。


「……」


 賢人が『4』のボタンを押すと、重苦しい振動と共に箱が上昇を始めた。

 密室になった途端、ロビーでの喧騒が嘘のように静まり返る。聞こえるのは、エレベーターが動く機械音と、三人の不揃いな呼吸音だけだ。


 だが、その沈黙はすぐに、湿り気を帯びた声によって塗りつぶされた。


「……怒ってるんだ。まだ怒ってるんだよね、結衣ちゃん。私が直接謝りに行かなかったから……」


 池崎が、うつむいたまま小さな声でぶつぶつと呟き始めた。

 細い指先で自分のトートバッグの持ち手をいじりながら、独り言を繰り返している。


「あのさ、池崎さん。本当に佐藤さんはもういないんだって。俺らが契約して住んでるんだから」


 大樹が耐えきれず、壁に背を預けたまま、呆れたようなトーンで口を挟んだ。

 しかし、池崎の耳には届いていないようだった。


「……きっと寂しいんだよね。一人で、あの部屋で、私が来るのを待ってるんだよね。ちょっと拗ねてるだけだよね。大丈夫、今すぐ行くから。ちゃんと顔を見て、ごめんねって言うから……」


 彼女の中で物語が完結してしまっている。

 賢人と大樹は顔を見合わせ、言葉を失った。怯えるというよりは、もはや「この人に何を言っても無駄だ」という絶望的な徒労感に近い。


 大樹は顔を顰め、少しでも彼女の放つ異様な熱気から逃れるように、Tシャツの襟元を軽く引っ張って鼻を覆った。


「……あ」


 池崎が、ふっと顔を上げた。

 エレベーターの鏡越しに、彼女は背後にいる二人に視線を向けた。その目はどこか遠くを見ていて、ひどく場違いなほど穏やかにさえ見える。


「……ねえ。結衣ちゃん、寂しがってなかった?」


「……いや、だから。いないんだって」


 賢人が力なく答えるのと同時に、『チーン』という無機質な到着音が響いた。


 ドアが開く。

 4階。自分たちの住む、逃げ場のない廊下が目の前に広がっている。

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