第19話 最悪の招待
「落ち着けって! 誰も隠してねーよ。部屋には俺らの荷物しかないんだよ!」
大樹が声を荒らげるが、池崎の耳には届かない。彼女は今にも賢人の胸ぐらを掴みそうな勢いで、半狂乱になって詰め寄ってくる。
「嘘つき! 見せて、部屋……中を見せてよ! 結衣ちゃんがいないなんて、自分の目で見るまで絶対に信じない!」
二人は顔を見合わせ、重い沈黙が流れる。
ゴミ置き場での不可解な消失。そして、目の前の正気とは思えない女、池崎。
賢人は、これ以上の押し問答は無意味だと判断し、一歩身を引いて冷静に告げた。
「……分かりました。そこまで言うなら、証拠を見せます。ちょっと待っていてください。部屋にある賃貸契約書を持ってきますから。それを見れば、俺たちが一ヶ月前から正式に借りているって納得するはずです」
賢人がオートロックのセンサーに鍵をかざそうとした、その時だった。
「待って!」
池崎が、鋭い悲鳴のような声を上げた。彼女の目は血走り、賢人の動きを制するように身を乗り出す。
「今から部屋に戻って、名前を書き換えるんでしょ! 偽造するんでしょ! そんな紙切れ一枚で、私が騙されると思ってるの!?」
「な……っ、そんなわけないだろ!」
大樹が呆れたように声を荒らげるが、池崎の妄想は止まらない。彼女は震える指でエレベーターの方向を指差し、必死の形相で訴えた。
「部屋を見せてください! 中を見れば、結衣ちゃんがいるかいないか、私にはすぐわかるんです。見たら諦めます……。本当なんです。だから、中に入れて!」
「……っ」
賢人は絶句した。
見知らぬ、それも明らかに正常な精神状態ではない女を自分たちの部屋に入れるリスク。しかし、このままロビーで騒がれ続ければ、警察沙汰になるのは時間の問題だ。
何より、彼女に「現実」を突きつけない限り、この執着は永遠に終わらない。
賢人は観念したように息を吐き、オートロックを解除した。
「……分かりました。中に入れば、本当に納得するんですね」
静かに開く自動ドア。
二人は、この剥き出しの狂意を連れて、自分たちの部屋――402号室へと向かうことになった。




