第15話 消失
センサーライトが消え、視界が完全な「無」に塗りつぶされた。
「……うわっ」
短い悲鳴が重なり、賢人は反射的に隣にいた大樹の腕を掴んだ。
「……ひっ、やめろ!!」
大樹が裏返った声を上げ、激しく身をよじった。暗闇の中で、大樹の心臓が爆発しそうなほど跳ねるのが、掴んだ腕越しに伝わってくる。
「……あっ、ごめん!」
「……っ、おい! 驚かせんなよ賢人……心臓止まるかと思っただろ!」
大樹が毒づきながら、掴まれていない方の腕を振り回した。手に持ったゴミ袋がガサガサと耳障りな音を立て、狭いコンクリートの室内に反響する。賢人も謝りながら、空いた方の手を激しく動かしてセンサーに存在を誇示した。
本来なら、指先一つの動きにすら敏感に反応するはずの照明だ。それなのに、光は戻らない。
「つけよ! なんでつかねーんだよ、動いてるぞ!」
大樹が苛立ちを隠さず、ゴミ袋ごとさらに大きく腕を振った。賢人も闇雲に周囲の壁を叩き、スイッチを探して手探りで這わせる。ガサガサ、バタバタと、二人の出す音だけが狭いゴミ置き場を支配していた。
……つかない。
1分、いや、それ以上の時間が経過しただろうか。暗闇に慣れるはずの瞳も、このゴミ置き場の深い闇には通用しなかった。密閉された空間で自分たちの出す音だけが虚しく響き、次第に酸素すら薄くなっていくような錯覚に陥る。あまりの長すぎる「沈黙」に、自分たちが今どこにいるのかさえ見失いそうになったその時。
……ジッ。
ようやく頭上のライトが乾いた音を立てて覚醒した。
無機質な白光が再びゴミ置き場を照らし出す。賢人は眩しさに目を細め、壁に押し当てていた手を離して、恐る恐る背後の「中央」へと向き直った。
そして、あたりを見回した二人は、ただ一つの異変に凍りついた。
そこに、あるはずのものが、ない。
つい1分前まで、二人の目の前、コンクリートの真ん中に置かれていたあの「一週間前のゴミ袋」。丁寧に補修された不在票が貼り付けられ、忌まわしい返送のメッセージが書かれていたあの袋が、跡形もなく消え失せていた。
「……ない。どこ行った?」
大樹の声から、さっきまでの感情がすべて消え失せた。狭いゴミ置き場の室内。隠れる場所などどこにもない。二人が暗闇で必死に動き続けていたあの長い空白の間に、誰かがドアを開けて持ち去る暇も、二人のどちらかが隠す余裕も、物理的に存在しなかった。
ゴミ置き場内には、もうあのゴミ袋はどこにもなかった。ただ一つ、大樹が今しがた部屋から持ってきた、あの「手紙」入りの新しいゴミ袋だけが、彼の手の中でカサカサと、情けない音を立てているだけだった。
「……もういい、出よう。早くここから出よう……!」
賢人が震える声で促すと、大樹は取り憑かれたように頷いた。そして、手に持っていたゴミ袋を、かつてあの袋があった場所に叩きつけるようにして放り投げ、二人は弾かれたようにスライドドアを開けた。背後でドアが閉まる音すら待たず、夜風の吹き抜ける外廊下へと逃げ出した。




