第13話 残留
不動産屋との電話を終えたあとの夕食は、重苦しいものだった。
賢人が昨日多めに作っておいたカレーを冷蔵庫から取り出し、レンジで温める。いつもなら大喜びで食らいつくはずのメニューだが、二人のスプーンの動きは鈍い。
テレビの中ではバラエティ番組が賑やかに笑い声を上げ、明るいテロップが画面を埋め尽くしている。本来なら男二人の夕食を彩るはずのその喧騒が、今の彼らには不快なノイズでしかなかった。
大樹は、先ほど賢人が見せた異常なまでの怯えようが頭から離れなかった。自分は直接あの「歪な文字」を見たわけではない。だが、合理的な賢人があそこまでパニックになるのを目の当たりにして、自分の食欲も微妙に削がれているのを感じていた。結局、食べ終えるのにいつもの倍以上の時間がかかった。
「……明日、燃えるゴミの日だよな。俺、これ捨ててくるわ」
大樹が重い腰を上げ、カレーの汚れがついたラップや汚れ物を燃えるゴミの袋へ放り込んだ。そして、テーブルの上に残された例の便箋を、そのゴミの奥底へねじ込む。
「……俺も行くよ」
賢人が即座に立ち上がった。一人で部屋に残るのも、大樹を一人で外に行かせるのも、どちらも耐え難かったのだ。
夜の帳が下りたばかりの午後8時過ぎ。二人は連れ立って、一階にある24時間対応のゴミ置き場へと向かった。
外気は少し冷えていたが、二人の背中には嫌なあぶら汗が滲んでいた。重いスライドドアをガラガラと開けると、センサーが反応し、白いLEDライトがパッと室内を無機質に照らし出した。
その瞬間、二人は入り口で凍りついた。
「……は?」
大樹の喉から、掠れた声が漏れる。大樹の指差す先。
明日が収集日のはずのゴミ置き場には、まだ何も置かれていないはずだった。
しかし、そのガランとしたコンクリートの真ん中に。
ポツンと一つだけ、ゴミ袋が置かれていた。
中身が透けて見える、半透明の袋。その隙間から、何十枚もの紙がバラバラと重なり合っているのが見えた。
賢人は、自分の心臓が大きく跳ねるのを感じた。
「……嘘だろ。一週間前のだ」
それは、あの日、二人がゴミの山へ投げ入れたはずの袋だった。




