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620、謎の荷物の争奪戦

それから数日間、下層区で色々な依頼を受けてボク達はカーディナルやガラパゴスに注目されるよう振る舞った。勿論ラフィとしてのお仕事もやる。


メディアに顔を出してインタビューを受け、ニュースチャンネルに出演してコメンテーターをやって、スクエア連盟から出された小さな依頼をコツコツこなす。だけど出来るだけ下層区に長く顔を出せるよう工夫していた。


『開拓者コレクション!開コレ!!スーパーセル制覇記念にボクの追加コスチュームが実装されます!それに周年実装されたボクとセツナさんの復刻ガチャも!あと!あと!ボクの新バージョンも実装されちゃうんですよ?!』


ボクの宣伝の後にナレーターが捲し立てる。


『ラフィ(イーディウス)新実装!!背に青空ナイフを宿した少年が空を駆ける!更にはラフィを代表する装備、シラヌイとセイグリッド・エンジンも引っ提げて大暴れ!!次の更新を待て!!』


そんなCMがTUBEの動画の隅っこで流されていた。


「フィー、そろそろよ。」


「はい。フラウリリムさんも準備をお願いします。」


「よしきた。簡単なお仕事だよ。」


待機時間もお終い。ボク達が潜むそこはガラパゴスが仕切る倉庫の一角。ガラパゴスは大所帯で、あちこちに支部を構えている。縄張りもコエナシ町だけじゃなくて、その先にある繁華街の方まで伸びていた。


ボク達の立ち上げたハムハムアカウントへ舞い込んだDM、その送信相手はカーディナルだった。ハンドルネームはコメットさん。お仕事内容はこの倉庫にある事務所へ運び込まれた、とある荷物の回収だった。


「荷物の中身は何でしょーね。大型のキャリーケースに入ってるらしいけど。カーディナルからくすねたのは薬物の類か‥‥後は高級な武器類ね。何百万円もする銃なら強奪する価値はあるわ。生体認証の登録解除も、ツテがあれば出来る事だし。」


ツテと言うのはそこらの半グレが関われるような物じゃなくて、ガラパゴスのような大きい犯罪シンジゲートが抱え込んだ特殊な技術を持つ闇職人。そういう技術者は保身も兼ねて都市の大組織を隠れ蓑にするから、治外街の強盗やマフィア程度だと存在自体知り得ないって話だった。


「荷物がここに来るって情報をカーディナルが掴んでいる辺り、ガラパゴスにもスパイが居るみたいです。」


「そんなん、ガラパゴスも承知の上でしょ。組織がデカいんじゃ仕方ないわ。向こうも襲撃を警戒しているでしょうし、正面突破するわよ。」


倉庫の中の様子はオウルさんが風を操って細かい間取りを確認済み。オウルさんが作った間取り図をボク達へ共有する。


「人数は30人、強化外装持ちはここのボスと護衛5人。それと雇われた傭兵旅団10人。」


監視カメラの映像を盗み見るタマさんが作戦の詳細を詰めた。


「自動防衛タレットが入り口に4機、クイックハックでアタシらを味方に認識されるわ。フィーが突っ込んで回収お願い。アタシとフラウリリムで援護する。目的は敵の全滅じゃないから交戦は最低限に。仕事を済ませたら散会して離脱。その後でピュア・クラウンに転移で逃亡。良いわね?」


倉庫内の地下通路の避難口を予め知れていたお陰で対策を立てれる。


直ぐに動き出した。


丁度今倉庫の中に荷物を乗せた車と、その護衛の車が3台入って来ていた。倉庫内の下っ端のようなヒト達がボスを出迎えて、ボスが荷物の入ったキャリーバッグを手に持っていた。


倉庫内には転移阻害結界が張られている。タレットもそうだけど倉庫とは思えないセキュリティ。転移阻害結界を常に維持しようとすると、かなりの費用が掛かるんだよね。転移の急襲を警戒するなら欲しいけど、中々大世帯じゃないと手が出ないセキュリティだった。


「行くわよ!」


倉庫で働くヒトのトラックを拝借、タマさんが運転する4tトラックが真っ直ぐに倉庫へ突っ込む!クイックハックを受けたタレットは沈黙、素通りしたトラックが3台の車を薙ぎ倒しながら停止した。


激しい衝撃で座席に置いていたお尻が浮いちゃう!破壊音が倉庫内を揺らして、驚いた誰もの叫び声が響き渡る。


「何だァ?!」


「襲撃だ!!」


「やっぱり筒抜けかよ?!クソが!!」


傭兵旅団が統率された動きで即座に運転席を集中砲火!けれどそのまま荷台の方へ蹴破って進んだボク達へ届かない。逸れた弾丸の雨が荷台の天井を穴だらけにしていた。


「じゃあ撹乱するよ。」


オウルさんが事前に用意したそれは氷で出来た20体のお魚。空を飛ぶお魚は鋭い牙を持ち、小口径の弾丸を弾く頑丈さを持つ。何よりも‥‥


一斉に荷台から解き放たれた氷魚の群れが誰しもに襲い掛かっていた。その動きはスーパーセルで見た空飛ぶお魚さん達!つまり、深未踏地で生き残って来た獰猛な原生生物の機敏さを持っていた。


オウルさんの得意技の一つ、獰猛な原生生物の姿見を氷像で真似て操作出来る。材質は魔素で出来た氷でも、関節部分は柔らかに動かせた。本物の氷じゃなくて魔法の産物だからね。ついでに本物の氷よりも遥かに硬く重かった。


ヤマノテシティの下層区でマフィアをやっていた彼らは、勿論原生生物と戦った経験が無かった。氷魚は無色透明で、飛ぶ姿は僅かな光の反射でしか視認出来ない。レーダーの情報を頼りに位置を把握するしかないけど、それを銃で狙い撃つのは至難の業だった。


数発の弾丸が氷魚を掠め、真っ直ぐ突っ込んで来た勢いのまま顔へ喰らいつく。


「ギャアッ?!アアアッ?!」


鋭い牙が頬を食い破って、頭蓋を砕きながら鼻も噛み潰す。強化外装を着用していなかったヒト達はジタバタしながら倒れ込んで急速に意識を失った。


バリア装甲に守られたヒト達も、装甲へヒビを入れられながら半狂乱になって無茶苦茶に乱射する。そんな中を駆け回るタマさんは余裕の表情で銃を撃ち放つ。無防備な腹部が穴だらけに、そして光学迷彩で姿を消したドローンが体当たりで轢き飛ばして回っていた。


タマさんが新しく仕入れたドローンは質量ドローンと呼ばれる武器種。“レイス”という名前の兵器だった。

通常ドローンは飛ぶエネルギー節約の為に軽量化される物だけど、このタイプは重厚な装甲を纏ったクラスC規格相応の質量を持つ。挙動に働く慣性が大きくて、価格も高く扱いこなしが難しい兵器。


けれどボクのR.A.F.I.S.Sの演算能力補助もあって、タマさんは使いこなしていた。元々ブラックキャットでドローンの操作技術を磨いていたから。レイスには大口径のライフルが搭載されていて、その質量から来る安定感がより狙いを精密にした。


けれど体当たりしただけでもクラスCの質量兵器と同様の威力。手の内を明かさず、戦場を混沌とさせるよう振る舞っていた。


氷魚とレイスの波状攻撃で傭兵旅団は防戦一方、生き残るのに必死で肝心なガラパゴスの要人を護れていない。流石に強化外装で守られているだけあって、数人倒れたけど簡単には全滅する気配も無かった。ミスリルシールドに身を隠して、レイスの急襲と氷魚の攻撃をなんとか捌いている。


2人が護衛を抑え込んだから、お次はボクの出番!


バッグを抱えて逃げ出す男へボクは勢い良く突っ込んでいた。男はオシャレな金髪をカールさせた太っちょさん。焦った顔をするけど強化外装のI.C.S.Sを起動して逃げながらボクへ銃を向ける。流石にガラパゴスの中でも良い役職に就いているだけあって、高価格帯の強化外装に積まれた自動戦闘機能が銃の狙いをピタリとボクへ付けていた。


顔だけこっちを向いて、バッグを片手で担いで駆動魔具で走り去ろうとしている。完全にI.C.S.S頼りじゃない。結構慣れているように感じた。本職さんじゃなくても、こういう修羅場を何度も潜り抜けて来たみたい。


「へへへっ!ガキがこんな場所へ来んじゃねぇよ!」


『(⩌⌯⩌)逃しません!』


ボクへ向いた銃口が火を噴いたのは数瞬後になってから。三節棍を振り回し、搭載されたバリア装甲を展開して銃弾を受け流す。傾斜バリア装甲をなぞるように銃弾が何発も掠めて行った。


「うおっ?!当たらねぇ!曲芸かよ?!」


向こうの駆動魔具は脚力を強化するシンプルな靴型。ボクのブレードランナーの青い軌跡が追い掛ける。10発目の銃弾を三節棍で弾いた直後、詰まった距離に長棍モードを起動!棍を繋ぐ鎖が収納へ仕舞われ、そのまま真っ直ぐに突き出された!


「チィッ!」


男が咄嗟に身躱せば、飛び乗ろうとしていた車のドアが棍に貫かれてベコリと凹んだ。三節棍に戻しながら中節棍を手首で捻って斜め下から振り上げる。転がって避ける男の頭を梢棍が掠めて、窓枠に引っ掛かった勢いでドアが破壊されて吹き飛んだ。


「ひぇぇ?!」


『(⩌⌯⩌)バッグを置いて行って下さい!怪我をしますよ!』


「うるせぇ!ガキに負けられっかよ!」


ボクへ向けられた銃を掴む腕を、一瞬で三節棍を繋ぐ鎖で挟み込んでしまう。ブレードランナーの噴射の勢いで体を半回転させたボクに引っ張られ、そのまま骨が粉砕する音と一緒に男が堪らず転がった。


「クソッ!」


『(⩌⌯⩌)おしまいです。』


銃が床を滑って行き、身を投げたまま動けない男の顔に梢棍が翳された。驚いた顔の男から大きなキャリーバッグを奪い取ってしまう。ごめんなさい、でも仕事ですから。


「お前は何もんだよ?銃だぞ?そんなオモチャで正面から‥‥イカれてやがる。」


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)アリスイって傭兵団に所属するフィーです。コレは頂いて行きますけど、機会があったらお仕事募集してます!』



「面白いね、キミ。」



目前が桃色の霧に染まって、気付けば男の姿が無かった。見上げた先に1人のサキュバスが立っている。浅黒い肌をした美しいサキュバスは、あのフレア・ローズさんに負けないぐらい妖艶な体付きをしていて。


一糸纏わぬ姿だけど、ARで出来たマントを羽織っていた。マントの下に隠された男の姿が再び消える。今度はR.A.F.I.S.Sの感知範囲外まで飛ばされたみたいだった。転移阻害結界を貫通する、一部のサキュバスが操る高等な転移術。


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)貴女はボノボ・ドラムさんですね?』


その顔を知っていた。クロエさんのお母さん、ボノボ・ドラム。まさかガラパゴスの味方だったなんて。


「知っているのかい。それに‥‥私を前にして冷静で居られるなんて。男の子だってのは分かってるさ。ふふふ‥‥面白い。」


クロエさんの事を聞きたいけど、今のボクはクロエさんと面識の無い傭兵。


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)ガラパゴスに雇われたのですか?』


「それは違うよ。私は渡り鳥さ。今、ヤマノテシティは荒れている。そんな中だからこそ、英雄というのが何処からともなく現れるんじゃないかって思うんだ。ならばその精を頂いてこそサキュバスだろう?」


ボクを見る目が値踏みする。その頭上がふと暗くなって、思わず見上げれば鋭い牙が迫っていた。ボノボ・ドラムさんを一飲みにしてしまおうとする、巨大な口腔。氷の海蛇が激しい音を立てて床を砕いてしまった。


「アレはサキュバスだ。悪魔の一種であって、油断出来ない。」


『(>⸝⸝⸝⸝<)あの!ええと!』


大丈夫かな?!壊れた床には血の跡が無くて、代わりに傷一つない‥‥少しシミの付いた女性用の下着が脱ぎ捨てられて転がっていた。


ボノボ・ドラムさんは無事に逃げられたみたい。当たっていたら死んでたかも。うう、オウルさんは悪魔が嫌いだから。


「逃したか。次は仕留めるよ。私も昔はね、大悪魔を名乗る連中を始末して回った事もあるんだよ。」


『(>⸝⸝⸝⸝<)取り敢えず、離脱しましょう!バッグは確保出来ましたから!』


スマイルで目標達成の連絡を送り、ボク達は一斉に散開。倉庫を飛び出して、転移阻害結界の範囲を抜け次第ピュア・クラウンの中へ転移で逃げ込んで行った。


「ラフィ様、離脱しますので揺れにご注意を。」


ブランさんの運転で透明なピュア・クラウンが離れて行く。後には氷の大きな柱が何本も突き出した倉庫が残されたのだった。

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