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621、見下ろす3つの口腔、3つの怪しい影

ピュア・クラウンの中、回収した荷物の無事を確認する。バッグに傷は無いし、凹んだりもしていない。中身は何だろう?


「開ける必要は無いわよ。クイックハックの反応で大体分かるわ。」


皆興味津々にタマさんがコーヒーを啜る姿を見つめていた。ボクの口へビスケットが1枚消える。


「コイツはコアドローンの一種ね。ザックリ言うなら拠点防衛用のドローン兵器を統括管理する司令塔。基本警備ドローンはAIに従って自立して動くけど、有事にはコアドローンが指令を飛ばして柔軟な対応をするわ。」


「じゃあコレを盗まれたら警備ドローンを乗っ取られちゃうって事ですか?!」


チッチッチ、指を振るタマさんはボクの知らない事を解説するのが好き。


「警備ドローンの登録先から盗まれたコアドローンを削除すれば大丈夫だって。でも問題なのはコアドローンの中に警備に関わる全部の情報や、施設内部のマップデータの類が入ってるって事。機密情報の宝箱よ。盗む価値はあるし、高値で取引出来るでしょうね。警備体制は変えられても、まさか施設の間取りなんて弄りようが無いし。」


それを盗まれたから、カーディナルは緊急の依頼でボク達を指名した。解析されて情報を全部抜き取られちゃう前に回収したかったんだ。


「カーディナルも名の知れた組織、アタシらはもうそんな所から名指しされる傭兵になったのよ。あのバーでカウンターに座ってた連中を明確に抜いたわ。口を開けてしょっぱい依頼を待つだけの“餌待ち”じゃないのよ。」


タマさんは続ける。


「そろそろ計画を次の段階へ進めましょう。このままフリーでやっていちゃ、どこの組織からも信用されないし。それじゃこの事件を追うに当たって現地から仕入れられる情報も限られる。この町にもっと溶け込まないと。」


ボク達は潜入しに来たからね。ネットに出回る情報だけじゃ殺人犯達の足跡を掴めない。R.A.F.I.S.Sで周辺を漁っても何も出なかった。裏社会に通じている現地の大組織に潜り込むのが1番。


ビスケットを飲み込んだオウルさんがやっと口を開く。


「ならこれを手土産にカーディナルへ売り込むのが良いだろうね。グエルブは論外、ガラパゴスも今ので心象が悪い。傭兵仕事と言っても、それで割り切って信用して貰えるとは思えないし。カーディナルだけはまだ敵対していない筈だ。」


最初からカーディナルに目を付けていたけど、結果的にカーディナルからお仕事を振られたし良い口実が出来た。依頼は手際良く無事達成、重傷者多数でも余計に死人は出してないしスマートに成果を出した。


「最初から武力衝突前提の依頼でも、死人は少ないに限るわ。大勢死ねば警察も動くし面倒なのよ。数人ならひっそりと路地裏の闇に葬れるけど。余計な殺しはせずに最低限で済ませるのが一流の仕事ってのが業界の常識。」


何だかんだ言って無視出来ない警察が存在感を放つ。ここが治外街の依頼と明確に違う所だった。アングルスだったらどれだけマフィアが死んでもお構いなし。現地の自警団はダンマリ、捜査も一切しない。けれどヤマノテ警察はそこまで腐り切っていない。


大勢の死者が出た大事件をそのまま無視だなんてね。だけど‥‥


「心配しなくていーわよ。その常識が揺らぐぐらい今のヤマノテは揺れている。マフィアの抗争で10人単位で死体が転がる事件なんか、最近じゃ週に2度は起こるわね。真犯人は誰だ?!って?アハハ、指名手配されてるマフィアの幹部さんの顔が生成AI製だって知ってた?」


酷いよ。結局首謀者は監視カメラを警戒して最大限素性を隠す工夫をする。下層区のそこかしこを監視カメラがカバーするけど、私有地である建物の中を経由する逃走ルートを取られると追い切れなかった。どこの犯罪シンジゲートも運営委員会が把握していない不法な秘密の地下通路を知り尽くしていた。


そして‥‥


『にゃはは、ワタシ達も未来の技術フル活用で素性を隠していますからね。警察署の前で銃撃戦しようが絶対にバレませんよ。正体不明の傭兵アリスイ、煙のように消えては現れる3人組に今頃警察も頭を抱えているでしょう。把握出来ない傭兵の存在は不都合ですから。』


ボク達も同じ事をしている。殺人犯を追い掛ける筈が、潜入の為とはいえ犯罪者達と同じ色に染まってしまう。


「‥‥大丈夫です、タマさん。悩むのはボクの責任です。でも後ろ向きになったりしませんし、割り切りますから。ヤマノテシティの下層区に蠢く闇が何なのか。同じ色に染まってでも見つけ出さないといけないって思うんです。これはただの殺人事件じゃありません。」


タマさんの尻尾がボクの首を巻いて、オウルさんの手が頭をなでなでしてくれた。んっ、んっ。と甘えるボクへブランさんが到着を知らせてくれた。


「カーディナルへの受け渡し地点へ到着致しました。付近の建物の中へ転移して下さいませ。降下目標地点にR.A.F.I.S.Sの反応無し、安全です。」


「はい。じゃあ行きましょう。」


ボク達の姿が受け渡し地点を見下ろせるビルの中へ転移する。色んなテナントの入った雑居ビルの6階。非常階段の踊り場から見やる。


「試しているのかな?」


オウルさんの意見にボクも頷いた。


「隠れて待っています。パッと見居ませんが‥‥」


タマさんも笑う。


「ノコノコやって来たバカを包囲出来るよう付近のビルに隠れてるわね。ここから見れば銃口の先っちょが見えてるわ。シブサワの精鋭を見てると、素人との差を痛感するわねー。」


光学迷彩‥‥なんて高級な装備は無いみたい。10人の女性達は皆軽装備で、プラスチック銃を構えてゴミ箱の裏やビルの窓際に身を隠している。


「相手は素性の知れない傭兵。それが依頼の為とはいえ自分達の機密情報に関わる機材を手中に収めてしまっている。穏便に取引成立するなら良いけど、強請られる可能性を警戒しない程馬鹿じゃ無いみたいだね。」


オウルさんは既に歌の準備を済ませて、呼び出した氷魚をカーディナルの面々を更に包囲するよう展開していく。


「プラスチック銃とは言え、十字砲火を受ければ並の強化外装じゃ無傷じゃ済まないわ。普通の傭兵相手なら十分怯ませられたでしょうね。数の暴力は脅威なんだから。」


タマさんも光学迷彩に身を溶かして姿を消した。


「じゃあボクがバッグを渡しに行って来ます。実力を見せて売り込みましょう。」


パッとボクも非常階段から飛び降りたのだった。





「アメリア、アリスイって奴ら信用出来るの?」


普段着にしては違和感のある白衣の少女が聞いてくる。24時間お医者さんごっこ継続中の無免許アコライトの(まなこ)は純粋に透き通っていて。映されたアメリアは鉄バットを担いだまま裏路地を行く。


「信用出来る傭兵って?あはは、冗談。安くて強くて依頼達成率100%なんて、面白そーな性能してたから声掛けたのよ。」


盗まれた機材は確かに機密情報満載な重要機材。しかしカーディナルの1拠点、5つの安物ドローンを管理する簡易な物。極論どうなろうが大した痛手じゃないが、盗まれて泣き寝入りしましたというのは風聞が良くない。

やられたらやり返す。目には目を、歯には歯を。


「そもそもコッチがちょっかい掛けたのが発端。ウチの子を“パゴス”のバカが買おうとしたから、ついでに基地にハックしてさ。悪質なグレムリンに中枢システムを犯されてヒーヒー言ってたじゃん。」


如何にもガラの悪そうな、半グレという字体が服を着て歩く女性が大股に。両手はスカジャンのポケットの中、パンクな髪が風に靡く。


カーディナルとガラパゴスは、前々からちょっかいを掛け合いながらも正面衝突を避けつつ縄張りを主張し合って対立している。ガラパゴス、カーディナル以外にも弱小ながらに半グレ組織は多くあり、互いにシマを荒らされないよう目を光らせる事で忙しい。


近頃はユターニという気味の悪いカルトまで存在感を放ち始め、手を焼いていた。


「カーディナルだって分かってて、売春持ち掛けた挙句基地に招き入れたらそうなるでしょ。発端がコッチにあっても、カエシで盗られた物取り返せればコッチの勝ち。小さくてもこういう積み重ねが大事だって話。」


時間前に到着したアメリアは、そのまま周囲へ潜んだ面々とスマイルで確認し合う。


「ウチら若い集だってもうやっていけるってのに。婆ちゃんは子供扱いしやがる。ミーコ、ニシヤ。油断すんなよ。」


ミーコと呼ぶ声に白衣の少女は適当な返事を返し、ガラの悪い女がニシヤの呼び声に応えた。


「お婆ちゃんは心配性だしねー。ヤマノテで長年やってると言っても、結局下層区暮らししてる時点でさ。ずぅっと先輩面しちゃってさ。」


ミーコは時に毒舌。カーディナルの母体を立ち上げたマダムを余り敬わない。ニシヤはガムを噛んだままボゥっと宙を見ていた。


目前へ歩いて来た小さな影が目に止まった。黒いパーカー姿のちんまりした子供の顔が見えない。顔の代わりに浮かんだ顔文字は(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)。手にはキャリーバッグが抱えられていた。


アリスイは子連れの3人組。白コートの獣尾族が連れる少年とエルフ。


「受け渡しに来たって?子供のお使いでやらせる事かよ。」


アメリアは屈んで少年に目線を合わせた。2人も同じように見下ろす。少年はバッグをそっとアメリアへ手渡した。


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)これでお仕事完了です。⸝⸝⸝ᴖ ̫ᴖ⸝⸝⸝ 傷は無いですし、無事ですよ!』


アリスイの詳細は大雑把に囁かれる。強いという部分が強調されるものの、その手の内は曖昧だった。誰もが何が起きたかも分からずに圧倒されて倒されてしまう。起きた時には頭に強い衝撃を受けて記憶が曖昧。脳がショックだけを記憶していた。


アメリアとしては正体不明な傭兵3人組に興味を持って依頼を投げたつもりだったが。実際に目で見た印象としては。


(何というか。動きがフリフリしててあざとい。丸っこい?こんな子が強いだなんて信じられない。)


戦う術を持つ子供自体、産み捨てられたストリートキッドには多く居る。幼い頃から銃を握り、面倒を見てくれる組織の鉄砲玉として生きる子供達。そんな彼らは余裕も無く、世界に興味も無くスレた目をしていた。緊張で強張った動きはどこか機械的で気味が悪い。


見下ろすちんまりした影から感じる気配は余裕。直感的にストリートキッドの類では無いと分かってしまう。傭兵に拾われた哀れな男の子では無く、寧ろ自らその道を選んだ子供のような。


理屈で考えるのなら、このちんまりは数々の依頼で生き残って来た強者。だけどこのまま手を伸ばせば好きに出来てしまいそうな、庇護欲を掻き立てられるあどけない存在感。判断に迷う。


「君がアリスイの?名前はなんて言うの?」


遠慮なく踏み込むミーコは、後ろ手を組みニヤニヤ顔で隠れた顔を覗き込む。


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)フィーって言います。あなた達のお名前は何ですか?』


「私はミーコ、アコライトちゃんだよー。そこの目つき悪いのはアメリア、半グレがニシヤね。」


フィーは次いで提案を。


『(>⸝⸝⸝⸝<)あの!ボク達は長期的なお仕事を探しているんです!アリスイは今用心棒を募集していませんか?安く受けますよ!』


急な話に思わず3人で顔を見合わせる。アメリアは苦笑しながらフィーの頭をなでなで。


「悪いねー。確かに前の用心棒は契約期間切れちゃってさ。吹っ掛けられて更新出来なかったんだよね。けれど流石に3人ぽっちの傭兵と契約しても‥‥ね?」


強いと噂でも契約を結ぶとなるとそれなりな金額が動く。それにマダムは大手の大規模旅団と契約を結ぶ方向で考えていた。大手との契約はリスクもあるけど、その名前を出すだけで牽制効果が大きい。


あちこちと契約して、限られた人員をより金を積んだクライアントへ送り出す。逆に言えば必要な時に他の契約者と競り合いになって、期待した戦力を用意出来ないなんて事も。そんな状況を意図的に演出する詐欺だって横行している。だけど大手の看板を掲げられるメリットは、そこらの有象無象のチンピラ連中をビビらせるには十分だった。


フィーは3人に撫でられながらもワタワタ。


『(。>﹏<。)あの!ボク達は3人以上の活躍が出来ちゃいますよ!上を見て下さい!』


ふと頭上にひんやりとした気配を感じる。見上げれば、恐ろしい牙を剥いた巨大なウツボが3匹。体長15m級、大型の原生生物がこの場所全体を覆うように音も無く姿を現し見下ろして来ていた。


「きゃあっ?!」


潜んでいた面々が何処からともなく現れた無数の氷魚に追い立てられて、アメリア達の目前へ転がり出る。ウツボの頭の上に立ったエルフが杖を片手に見下ろして来ていた。


アメリアの背後に気配無く現れる白コート。思わず振りかぶった鉄バットを片手で受け止め‥‥指先で弾いてバットが上空へ。ウツボが噛み砕いてしまった。


「アンタらがカーディナル?アタシのフィーをベタベタ可愛がっちゃってさ。で、契約するかしら。」


路地裏のそこかしこから氷で出来た獰猛な原生生物が顔を覗かせる。白コートの怪人はサングラスの奥から鋭い視線をアメリア達へ向けていたのだった。

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