618、コンテナの商店街で新たな出逢い
グエルブが取り仕切るスラムは、ホッコ運送がかつて使っていた大型倉庫。こう言う場所には本来他の企業がやって来て、倉庫をリノベーションするか取り壊して別の施設を建てるんだけど‥‥
『ここは立地悪いですし、周辺の治安も良くありませんね。倉庫に勝手に居着いた連中と揉めてまで買う価値がある土地では。ヤマノテシティの土地は価値が高いですけど、こういう場所だってあります。』
ボク達は歩道を歩く。隣にガードレールの向こう、車道があった。
『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)ヤマノテシティにも車道があるなんて。全部タクポだって思ってました。』
ブランさんが答えてくれる。
『下層区は、ヤマノテシティ建造に当たって最初期に作られた都市で御座います。次いで中層、上層と増築されました。タクポが主流になる前の時代です。未だに下層区には車道が残っていますし、車も使われています。』
タマさんも横目でゴミが散らかった車道を見ながら、
「ヤマノテを語る際、自動で下層区は省かれるわ。ヤマノテには車道が無い、車が走っていない。中層と上層にはね。ここは世間的にもそーいう認識の街なの。人口はかなり多くても、ここに住んでる連中自体ヤマノテ住まいの認識すら薄いでしょうね。」
トラックが走り抜けて行く。中層が太陽を隠して日が差さない暗がりの世界。並び立つ影はどれも中層の摩天楼には遠く及ばない。ここ全体のビルはどれも低くて寂れている。再開発しようと水面下で躍起になるコーポの気持ちも理解出来た。
聞いた建物名はそのままホッコ街。そう呼ばれるスラムの入り口へ立った。監視カメラがタマさんの猫耳とオウルさんのエルフ耳を捉えた。
『名簿に無いな。初めてか?』
「そーよ。傭兵3人集、アリスイって屋号掲げてるのよ。」
マイク越しの失笑する声。
『すまねぇな。3人組で傭兵とは世知辛い。どっか良い場所を紹介してやろうか?子持ちじゃ辛いだろ。』
「ありがとね。お仕事募集中なのよ、入れてくれない?」
傭兵証を照会した後、倉庫のドアが開いた。見張の男は全身毛むくじゃらの獣人族のヒト。獣人族と言ってもしっかりヒト型で、だけど見てくれは直立した狼のよう。顔のパーツはヒト寄りだけど。
「面倒は起こしてくれるなよ。まぁ、亜人の傭兵は歓迎する。」
思いの外簡単に入れた。これなら現地の組織と無理に関わらなくても調査が進んじゃうかな?
「どーだか。油断しない方が良いわよ。プランAで無理そうなら即断するわ。」
空間拡張でより大きくなった倉庫の中、ネオンギラギラな街があった。大勢の亜人さん達が行き交い、所狭しと商店に宿屋が立ち並ぶ。ボク達の真横の壁をアラクネの女性が悠々と歩いて行っていた。
そうか、壁も天井も全部通路なんだ。駆動魔具で重力を調整すれば誰でも張り付けるし、それを前提にした街の造りをしていた。面白い!
「フィー、見て回りたい?」
『(,,>᎑<,,)はいっ!観光したいです!』
「こんな場所があるとはね。ネオン‥‥と言ったか。薄暗い下層区に対抗意識でもあるかのような明るさだ。」
狭い通路の両脇に均等に並んだ大型コンテナ。その内部を覗けば壁が切り取られて連なった商店街になっている。階段も中に設置されていて、天井まで積み重なったコンテナ全部が施設の代わりになっていた。
『にゃはは。積み重なったコンテナタワーで作られた街ですか。倒壊しないよう頑張って補強してますけど、ヤマノテが大きく揺れたらちょっと怖いですね!』
ホロウインドウの案内板がそこかしこにあって、上層階は住宅街のようだった。住宅‥‥うーん違うかな。個室って概念自体無さそうだし。でも格安で寝泊まりが出来るようだった。
『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)オプションサービスが良い値段します。ご飯でも出るのですか?』
「ラフィには分からないわよね〜。数少ない娯楽、稼いだ金の使い所よ。まぁ個室なんて無いから、敷かれた小汚いダニまみれの布の上でヤる事になるでしょうが。シャワーはあるっぽいけど‥‥割高ね。こういうスラムの夜の時間は凄いわよ?サービス時間終わるまでそこかしこで───」
タマさんの頭を杖が小突く。抗議目のオウルさんがそっぽを向くボクを庇ってくれた。うう‥‥なんとなくそんな予感してました!でも、その。壁も無しに皆が皆、肌を合わせる赤裸々を互いに見ながら。何というか、想像付かない。
『ニホンコク人には理解されない文化ですよね!何せ彼らにとって性とはどこか高潔なモノですから。』
コンテナタワーにはビックリするぐらい一通りの街の施設が揃っていた。
医局薬局は勿論、幼稚園に学校なんかも。酒場や食堂もあるし、開拓者組合の支部まで。亜人開拓者専用の窓口が設けられているようだった。
コンテナの一つに窓が付いていて、中で授業を受ける子供達の姿が見えた。全員で30人ぐらいかな?学年とかクラスとかそういうのは無さそうで、それぞれホロウインドウを見上げて自習に忙しそうだった。先生が分からない所を教えて回っていて、窓からチラリと見えた水槽でお魚が飼われていた。
「街を凝縮して作った箱庭だね。ウェポンショップもあるよ。」
オウルさんが足を向けた武器屋さん。並んでいるのは鉄バットとか、ナイフとか。銃はどれも安価なプラスチック製‥‥
「傭兵さんかい?ここで1番良いモンは200万円するコイツさ。タウ社製のスマートライフル、在庫これだけの1点ものだ。200万円だぞ?無双出来るぜ。」
店主のおじさんが見せた銃は鉄製品。タウ社?聞いた事のない社名。
「この値段帯じゃ、普通はマギポリマー製じゃない?世間じゃ銃は鉄だなんて言われるけど、開拓者が使う物も主流なのはマギファイバー強化樹脂かポリマーよ。」
ボクの使う銃器も実弾兵器は大体そういう素材で出来ている。紫電M10は重量級のダマスティック強化フレームだっけ。取り回しやすい軽さよりも安定性と耐久性に優れた高級材質。一定以上のお値段の高級銃になると、相応の出力の強化外装で取り回す事が前提のちょっとした質量兵器みたいな銃器が多い。
見た目も重量感あってカッコいいし、頑丈な分銃への負担の大きいEX弾頭を運用しやすいんだ。
『ラフィさま、お分かりだと思いますがぼったくりです。タウ社は下層区にある低質な武器を量産するよくあるコーポ、粗悪品を知識の無いスラムの連中へ売り捌く悪徳です。にしても今どき鉄製とは。雑銃ですらポリマーフレームが多いというのに。』
店主さんはサッと武器を引っ込めて苦い顔。
「チッ、プロかよ。言っとくけど営業妨害したら商会連がテメェらボコすからな。」
「アンタは光学兵器を見た事ある?」
短時間目の前に翳されたビームシュナイダーがおじさんの頬を焼き焦がした。悲鳴を上げて椅子から転げ落ちる姿を一瞥せず、皆で背を向け店を出た。武器の性能に命を賭けるのに酷い詐欺。悪いおじさんだった。
「私の買った武器はとても品質が良いんだね。こういう場所を見ると痛感するよ。」
オウルさんは収納内のハンドガンを思い返していた。あれも数百万円したよね。高いけどソメヤさんが用意した安心品質の一品。
「けれどあっちはどうですか?」
ウェポンショップはもう一つあった。倉庫の奥の方へ行くと何だか雰囲気が変わる。高級感‥‥?があってネオンの明かりも穏やか。並ぶ商店も目に見えて値段と品質のグレードが上がっていた。
「おい、ここは薄汚ねぇ傭兵の来る場所じゃねぇぞ!良い飯に金を出せるってんなら話は別だけどよ。」
自警団員のお兄さんがボク達を呼び止める。
『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)すみません!お金はあります!見て回っていて。』
ホロウインドウに驚きながらも腰を曲げてボクへ視線を合わせてくれた。
「ここは大人の街ってやつなんだ。ごめんな、ボウズ。ええと、嬢ちゃんじゃないよな?」
収納からタマさんがそっと潜入用のライフルをお兄さんへ見せた。潜入用だけど良いお値段の銃器。お兄さんは驚いて立ち上がった。
「社会科見学よ。ついでにこの武器が使えそうな依頼はあるかしら。」
「は、ははは。こりゃ大物傭兵だな。プロだろ?待ってろ、仕事が無い日なんてねぇよ。」
足早に去って行く。武器を見せて売り込むのは開拓者も同じだった。そしてグレードの高いウェポンショップへ顔を覗かせる。
「あら、新顔ね。冷やかしかしら。」
頭から大きな獣耳を生やしたお姉さんが店主さんだった。犬科かな?詳しい種族まで分からないけど。店内は清潔な雰囲気で、並ぶ武器もしっかりとした都市産ばかり。雑銃は並んでいなかった。
「良い店じゃない。ほ〜、センスあるわね。」
『(,,>᎑<,,)ワクワクします!』
店内を見て回るボクの隣、オウルさんも1丁100万円を超えるラインナップを感心した顔で見ていた。
「ねぇ、買うの?弾薬ぐらい仕入れていきなさいよ。」
タマさんがEX弾頭対応スマートライフルを見上げていた。ライフル下部にゴツいランチャーみたいなのがくっ付いてる?ボクの頭を片手でモフりながら教えてくれた。
「ミサイルガンね。ライフルとして運用しながら、小型ミサイルを下のランチャーから撃てるのよ。都市内でぶっ放せるギリギリの規格品、分かってるじゃない。」
ミサイルを撃てちゃうの?!ちょっと欲しいかも。お値段460万円、500万円する紫電M10よりも少し安いぐらい。かなりの高級品‥‥スラムのショップに陳列されるには高過ぎるお値段。
「どーいう客層狙いの店よ。ここに高位開拓者や傭兵でも来るの?そういう連中は中層で仕事するでしょうに。チンピラに見せびらかす用かしら。」
お姉さんは笑って答えた。
「私はコレクターなのよ。このお店も趣味でやってたの。でも好評よ?亜人の開拓者はここをご贔屓にしてくれるし、いつかはこういう銃を買いたいって拝みに来てさ。カタログで見るよりも、実物を見れた方が夢を見れるから。」
お姉さんはここの開拓者さん達から慕われているようだった。開拓者さんを応援するお姉さんをボクも応援したいな。
『ラフィさま。調べましたが、ライオンハート製のミサイルガンですね。ミサイルガン自体特殊規格銃でして、正直弾薬代がまぁ掛かる上に取り回しの悪いじゃじゃ馬です。旅団の特殊作戦で出番があるかな?と言った部類で常用には向きません。‥‥ラフィさま以外には。』
フィクサーさんが調べてくれた情報によると、ミサイルのロックオンに演算容量が結構掛かる所がネックな銃器だって。スマートライフルとしてもしっかり使いこなせないと器用貧乏で高い割にはパッとしない。けれどミサイル発射機構が重たく邪魔になる。そんな武器。
だけど決して弱い武器じゃないし、使い手を選ぶってだけ。ボクなら使えそう。
『(,,>᎑<,,)あの!その銃を見ても良いですか?』
お姉さんは驚いた顔をした。タマさんも見せなさいよと急かす。
「言っとくけど、460万よ?傷でも付けたら買い取りだから。眺めるだけにしなさい。」
車が買えちゃうお値段の銃だけど、タマさんはパッとボクへ渡してしまう。フィクサーさん、オウルさん。どうですか?
『傷無し、新品ですね。改造も無しですが正規店では無いので保証は付きません。まぁ、ラフィさまからしたら保証の有無なんて些細な問題ですが。』
「風がよく通る。良い銃だね。曲がったりもしていない。」
タマさんはパッとお姉さんにあるだけ弾薬を寄越すように言った。
「ここはコレクターの展示場じゃなくてお店でしょ?買うから弾も在庫分全部出して。フィーが気に入ったのなら買う価値があるわ。」
『(,,>᎑<,,)はい!一括払いで!』
お姉さんは驚きながらも弾薬を倉庫から出してくれた。ボク達を興味津々に見回す。
「まさか売れる日が来るなんてね。大丈夫、大儲けさせて貰ったから。常連さんにならない?もっと良い武器を仕入れてあげるわよ?」
タマさんはパッと名刺を送った。名刺に記された連絡先はブランさん宛て。ボク達の正体に繋がらないよう、ブランさんが応対してくれる筈。
「アンタのセンスを見込んでアタシらの窓口に繋いであげる。良いモノ仕入れたらそこに連絡しなさい。」
新しい銃に目を輝かせるボクは、お姉さんへ手を振ってお店を後にしたのだった。




