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617、路地裏を行くアウトロー

2時間掛からず受けた依頼を全部終わらせ、ピュア・クラウンの中で遅めのランチタイム。ブランさんが差し出したハンバーガーは肉厚、ボク好みの塩加減なポテトを摘んでいた。


「ま、今更チンピラ退治なんざこんなもんね。ラフィとオウルの調査力じゃオーバースペックよ。」


「こんなお仕事で50万円も貰えるのか。この程度なら幾らでも出来る。」


オウルさんのお口へハンバーガーが消えた。まだ足りないと伸びた指先がボクの摘んだポテトとブッティング。触れ合った指先がそれぞれ別のポテトを求めた。


「ボクは気持ちの良い感じがしなかったです。でも、どう言ったら良いかな?やり過ぎ‥‥なんて言うのも違います。」


チンピラと言っても、彼らのやった犯罪は凶悪で。被害者からすれば当然の報い。彼らは満足するまでニホンコク人をいたぶり、報いとして体が欠損する程にいたぶり返された。


開拓者みたいにポンポン体を治せるお金は無いと思う。下手すれば一生そのまま。余りにも重い代償を支払った。


「被害者達はどいつも血を吐くような想いで依頼を投げたのよ。50万、80万と言ったってさ。ここいらの生産区の月の給料なんか20万円行くかいかないか。貯金出来る額なんて月2、3万あるか無いか。そこから捻出された額なの。」


多額のお金を支払ってでも絶対に許せないという想いが籠ったお金だった。


「それでも司法の頭越しの私刑はやっぱり納得感が無いです。でもこれも連続殺人事件を解決する為。我儘言って皆を困らせたりはしません。」


やけ食い気味にハンバーガーが3個ボクの口へ消えた。ガツガツ!もしゃもしゃ!微炭酸コーラをグビグビ!


「弱肉強食というものだね。ニホンコク語はピッタリ当て嵌めてくれる。難しく考えなくても、彼らは狩る側から狩られる側になっただけ。」


オウルさんの意見にタマさんも賛成、ブランさんはボクを支持して2人を無法者と非難した。


「大丈夫です。ボクはもう迷いませんから。清濁合わせ飲むのが大事なんです。ここはそういう世界ですから、その世界の掟を守ります。」


因みにボク達のお仕事は証拠を何も残さない。周辺の監視カメラは都合良くダウンして、彼らのスマイルもクイックハックが飛んでシャットダウン。犯罪の証拠を自動で残してくれる便利な護身アプリも沈黙していた。


「プロの仕事よ。証拠なんてそうそう残さないもの。仮に彼らが警察に駆け込もうが直ぐに迷宮入りね。現場を見てプロの仕事だって理解したらサッサと打ち切るわ。大概何ヶ月も粘った上で取り逃がすもの。不毛だって向こうも分かっちゃう。」


中でも周辺の監視カメラを軒並みダウンさせちゃう荒技は、フィクサーさんの助けがあって出来る事。


『追えそうな証拠が何も無い状態で、地道な聞き込みから始める警察なんてこのご時世居ませんよ。探り回った話は大概犯人へ筒抜け、それがヤバいヤマなら捜査担当者が行方不明になってお終いです。』


治安の悪さが一定のラインを超えると、警察達も自衛に必死になって捜査どころじゃ無くなった。


「酷いです。何とか治安を良くしたいです。」


でもヤマノテシティの下層区で荒野戦争みたいな事をするのはダメ。地道な活動を続けるしか無いようだった。


その時にゅっとボクの影が伸びる。オボロさんが姿を現した。


「愛子の悩みを引き受けよう。今の状態でミニフィーを放って自警活動をする訳にもいくまい。ならば妾が代わりに悪党を懲らしめてやろう。妖の得意分野じゃ。」


ブランさんも、


「オボロの姿と、ラフィ様との関係は世間へ漏れておりません。謎の狐の仕事人が悪党をしばいて回ったとしてもこの任務に影響は無いでしょう。」


ボクはオボロさんへお礼を言って、


「でしたらブランさんと一緒にピュア・クラウンで待機をお願いします。ブランさんの指示に従って、ボクがR.A.F.I.S.Sで感知した犯罪を防いで下さい。」


犯罪を感知しても動けないストレスでモヤモヤしていたのもあったから。オボロさんが協力してくれるのなら心強いな。グジャさんも影の中で唸るけど‥‥


「グジャは無理でしょ。そもそも魔王だし流石に都市内に解き放つのはどうかと思うわ。」


だよね。怪人化していても、元は魔王。ボクは大丈夫だって思っても、皆が納得する訳じゃ無いから。でも必要があったら呼び出すよ!このお仕事は多分向いてないと思うから無しだけど。


「そうか‥‥まぁ、指先は器用だが。影の戦士のような仕事は向きでは無い。」


グジャさんも納得して影の中へ沈んでいった。あっ、ハンバーガーの残りが無くなってる。いつの間に。影の中から満足げなゲップが聞こえた。


「んじゃ、行きますか。」


ボク達はパッと件のお仕事斡旋所へ戻る。依頼達成報告は終わってるけど、全部受けて異例の速さで終わらせた以上、顔見せも兼ねて冷やかしに行ってやろうってタマさんが。


「アタシらの目的は目立ってあちこちの勢力の気を引く事。グエルブの仕切るスラムへ出入りするにも、色んな組織に顔が売れてた方が早いわ。」


「しかしさっきの仕事でグエルブと敵対したんじゃないのか?」


オウルさんの心配を鼻で笑って流す。


「ユターニ信者はグエルブからしても厄介者のグズ。寧ろ片付けてくれてありがとうってね。向こうは内ゲバが怖いからユターニがウザくても手を出せない。だから外部勢力が片付けてくれるのを待つしか無いの。スラムの外で襲われたって?素行が悪いのがいけないんでしょ?お前達の為に戦争してやる義理はねぇなって。」


そうなると良いけど。斡旋所に着けば、ドアマンの大男がボク達を迎え入れた。


「すげぇ早さだったな。どんな手を使ったんだよ?」


「こっちはプロよ。そう、傭兵モドキのチンピラとは技術も装備も違うのよ。」


ぺこりとお辞儀をしてボクも中へ。お婆さんはニッコニコの笑顔で手を振っていた。


「あ〜ら!アンタら!一杯奢るわよ?カウンター温めっぱなしの役立たず共とは違うのね!常連さんになってよ。良い依頼あったら取り置くからさ。」


早速一杯貰うタマさんとオウルさん。ボクの前にはジュースとプリン。他のカウンター席に張り付いていたヒト達は皆帰っていた。まぁ、ボク達が運び屋以外の依頼を済ませちゃったから、居ても意味ないって思ったのかも。


「どうせ今日次に美味しい依頼が来てもアタシらで総取りよ?張り付いてる時間あったらパチンコにでも行くんじゃない?」


「どんと来いだね。うん、やっぱりこの世界のお酒はとても美味しい。」


お婆さんはボク達に興味津々、けれど探るような態度は無くて一線弁えた対応だった。百戦錬磨、慣れてるって感じがした。


「オレの名前ぐらい覚えて行けって。タカヤっていうの。これでもヤマノテ中央出たエリートよ?ま、若気の至りで傭兵になって‥‥こんな小さな店を構えてるけどさ。」


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)最近この辺りは物騒なニュースが多いです。だから来たんですよ。』


ボクは声を出さない代わりにホロウインドウで会話する。首を傾げるタカヤさんにオウルさんが、


「フィーは恥ずかしがり屋なのさ。」


軽く流したのだった。


「そうかい。ま、件の連続殺人事件の話だろ?側から見りゃ仕事にあり付けそうなチャンスに見えるだろうね。けどよ、実際はこんなんさ。ユターニのクズをしばく‥‥割りが良いとは言い難い依頼ばっかりで景気が終わってる。」


何か情報を聞けないかな?でも露骨に探ったら怪しいよね。


「スラムに逃げ込んでそれっきりなんでしょ?ユターニの連中が匿ってるに酒瓶1本賭けるわ。」


タマさんの探り入れは巧妙。浅い見識で決め付けた物言い、何か知っていたらつい補足を入れたくなる絶妙な塩梅。酒気の漂う息の中に慣れた交渉術が潜む。


「はっは!ユターニじゃないよ。殺人犯だよ?バレたらスラム取り潰しもあり得るんだ。グエルブが許さねぇさ。ただよ、スラム‥‥ほら大型倉庫を使ってるあそこだよ。そこに逃げ込んだ情報はマジだね。」


R.A.F.I.S.Sが真意を問う。結果は本当の情報。少なくともタカヤさんはそう信じていた。


「匿ってないけど逃げ込んだって?何処へ消えたんだか。秘密の地下通路でもあんの?」


「アイツらの技術じゃ精々地下室を拡張したりが限界。地下通路の施工なんてそんな技術持ってない。あの倉庫にスラムが出来る前‥‥なんだったけな?ああ、ホッコ運送って会社の私有地だったんだよ。聞いた話じゃ地下通路なんてモンは無かったってよ。」


タマさんの酔ったフリの演技はびっくりするぐらい巧くて、酔っ払い相手につい知識を披露したくなってしまう。ここだけの話を教えてくれた。


『ブランさん、ホッコ運送について調べられますか?』


『直ぐに調べます。‥‥今出ました。概要だけ説明するのでしたら、今から10年前にヤマノテから撤退した配送業の企業です。同業相手にサービスの質で競争敵わずコウフシティへ落ちて行きました。少なくとも、ニホンペディアにはそうあります。』


出来れば倉庫の間取り図が欲しいな。ホッコ運送を調べれば事件の調査が進むかも。


タカヤさんと連絡先を交換して、世間話を程々にバーを出る。路地裏を歩きながら次の動きを話し合った。


『ラフィさま、直接現地へ行ってみましょう。グエルブからしてもクズをしばいた功績者。無碍にはされないでしょう。実力を示した今なら何か仕事があるかもしれませんし。当たって砕けろというのもアレですが、先ずは試してみませんとね!』


フィクサーさんの助言を受けるボクの前、道を塞ぐ強化外装に身を包んだ男が立っていた。


「よぉ。別に争う気はない。俺はザクロ旅団の幹部、中規模の傭兵旅団さ。単刀直入に訊くが、お前らは何処から来た?トウキョウを離れてもう3ヶ月。かなりの手練だってのに、今まで無名で急にこんな田舎町へ現れた。怪し過ぎるだろ?」


タマさんが歩みを止める気配も無く、


「単刀直入って言うけど、なまくらのナイフで切り込めるように見えるかしら。アンタ程度が幹部だなんて、随分“ご当地レベル”の傭兵旅団ね。交渉ってのはそんな難しい?」


挑発的な態度にも男は顔色を変えない。タマさんは手を伸ばせば届く距離でやっと足を止めた。


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)ボク達は怪しくないです!仲良く出来ませんか?』


ぴょこっ!とするボクに男は苦笑い。オウルさんの手がボクを撫でた。


「お前の子か?」


「誰がママよ。バツイチコブ付きに見える?そーね、敢えてアンタに明かせる情報は無いわ。力付くはやめときなさいよ。綺麗な頭蓋骨のままでいたいでしょ。」


相手が傭兵旅団でもボク達は怯まない。男はため息を吐いて道を譲った。


「言っとくがあんま派手に暴れてくれるなよ。こっちの仕事を奪われっぱなしになったら‥‥お互い面倒になる。」


「この世界は弱肉強食。まぁ、頑張りなさいよ。‥‥手ぶらで帰すのも忍びないわね。」


急に男のスマイルが共有モードで開き、最大音量で可愛いペット動画を再生し始めた!


「うおっ?!ハッカーか?!」


「そ。ザクロ旅団‥‥構成員15人。旅団の運営資金は3000万円、医療保険はご当地タイプ、武器ぐらいムラマサ製で揃えたら?」


一瞬の間に重要な情報を抜き取られてしまい、男は分かりやすく狼狽えた。思わずタマさんへ掴み掛かりそうになって、ボクの収納から取り出された三節棍が強引に距離を取らせた。オウルさんの放った大気の弾丸が軽く吹き飛ばして尻餅を突かせてしまう。


「世知辛いご時世、お互い頑張りましょー。」


後手を振って笑うタマさん、会釈をして後を追うボク。オウルさんは一瞥もしなかった。


「‥‥イキの良い連中がよ。」


後ろから男の声が聞こえたのだった。

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