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616、下層区で早速目にした自力救済の闇

ボク達が向かう先を導くのはブランさん。上空から街を見下ろしながらピュア・クラウン内から指示を飛ばす。


『ラフィ様、依頼を受けましょう。傭兵がどこで依頼を受けるかご存知でしょうか。』


開拓者は組合経由に依頼を受ける事が出来る。けれど傭兵は自分で探すしか無い。でもまさか企業戦争絡みの依頼や、わざわざ傭兵へ声を掛けなきゃいけないような後ろ暗いお仕事が堂々と募集されたりなんかしていない。


「代表的なのはSNSね。有名な傭兵旅団の公式アカウントへDMしたり、闇バイトを集める感じに隠語を使ってコッソリ募集するの。けれどどっちも結局ハムハムの運営に筒抜けになるから、機密性の高い依頼やガッツリ犯罪な依頼の募集は難しいわ。」


既に有名な傭兵旅団ならこれで十分。どうしても秘密の依頼があるなら事務所まで来い。そんな感じ。でも、無名な傭兵達はこのやり方でお仕事にありつくのが難しい。


『にゃはは、そもそもですね。開拓者をやらずに傭兵をやる時点で大概臭いモン抱えている連中です。今のワタシ達のように。そんな連中が陰でコソコソ仕事を依頼し合うのなら、公権力の届かない日陰に限ります。』


ブランさんの案内から察していたけど、やっぱり行き着いた場所は路地裏のバー。大きなビルと団地に挟まれた細い道。一部分が地下へ伸びた狭い階段になっていて、その奥に錆びたドアがあった。


昼間から開店しているのに当然ランチなんてやってないし、看板もない。公式サイトも当然無いし、傭兵達の口コミだけで場所が緩やかに共有されたお仕事斡旋所。

ヤマノテシティ中層にもこういうバーがあったな。怪しいお仕事を請け負ったグミさんの追跡がてら乗り込んだんだっけ。


錆びたドアがある場所は少しだけ開けていて、そこに強化外装に立たされた大男が立っていた。


「ハーイ、やってるかしら?ここはオムライスが美味しいんだって?グルメ番組でやってたわよ〜。」


おどけた口調のタマさんは慣れた態度、大男もそんな気配に少しだけ肩の力を抜く。


『まぁ、偶に好奇心旺盛で無警戒なパンピーが降りて来ちゃうんでしょう。下手な対応で騒がれちゃ面倒臭いですし、ストレス溜まる仕事でしょうね!』


大男はボク達3人を見回して、傭兵証の提示を求めて来た。パッと照会アプリへ送信すれば直ぐにドア前から退く。


「紹介も無い一見さんはお断り‥‥だが、オーツクの野郎の知り合いか。通れ。」


オーツクさんはセツナさんの知り合いの傭兵さん。流石にセツナさんがボク達を直接紹介するとそこから勘繰られちゃいそうだけど、知り合いのオーツクさんなら大丈夫。セツナさんのお知り合いはこの業界に沢山いるそうだから。


『当機はオーツクと直接会って話した事が御座いますが、まぁ大物ではありません。しかし業界10年のベテランではあります。傭兵には開拓者のようなランク付けが無い分、その実力は不透明になりがちで御座いますね。』


大男は小さなボクを値踏むように見る。


(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)


黒い顔に浮かんだ顔文字が見つめ返した。


「一応助言だ。あんま顔を隠してると信用されないぞ。不審者みてぇだ。」


「ハイハイ、この子は顔に火傷の痕があるのよ。アタシは花粉症。この可愛い顔は時期が終わったら見せたげる。」


返ってくる失笑。


「この時期にか?愉快な御一行さんだな。エルフまでいるなんて、どんな数奇な縁があったんだか。」


オウルさんはぺこりと会釈して通り過ぎる。緊張は無いけど目が好奇心に満ちていた。


「こういう空気感は何百年ぶりだろうか。酒場で乱闘するドワーフとリザードマンを吟遊詩人のハーピィが宥めたあの夜を思い出す。」


店内はあまり広くなく、カウンターに数人の男が並んでいた。メニューがホロウインドウに大きく投影されてる。どれも何十万円もするお酒ばっかり。


「フィー、一応言っとくけどお酒の値段じゃ無いわよ。酒の名前がざっくり依頼の方向性を示して、金額が報酬額になってるの。似た名前の酒ばっかりでしょ?にしても安い依頼ばっかね。カウンターの連中も受けずに酒びたりして良いもん来ないか張ってるわ。」


「そうなんだ。良い依頼が来たら皆で取り合うんですね。でも、一日中ここにいるのかな?」


「旅団の末端の新顔のお仕事よ。何日も依頼を取れないと理不尽にど突かれるの。」


うわぁ‥‥でもいつ緊急のお仕事が来るかも分からないから、カウンターの席をお尻で温めるしかない。誰もの目が死んでいた。


バーのマスターさんはしわしわなお婆さん。厚化粧した唇に無煙タバコが咥えられていた。その目はホロウインドウを見上げていて、遠慮もなく腰掛けたままでいる。カウンターを一瞥もしていなかった。


メニューに並んだお酒は“獣狩り”50万円〜80万円。値段違いのそれが6つ並ぶ。もう一つは“飛脚”40万円。


『獣とは亜人の事で御座います。まぁ亜人のチンピラをぶっ殺せって内容でしょう。ここらなら間違いなくグエルブ、ユターニ絡み。恨まれたら面倒臭い連中です。特にユターニ案件は何処までも粘着して嫌がらせをされかねません。』


飛脚はグミさんも受けていた運び屋のお仕事。グミさんもそうだったけど、奪おうとする襲撃者に命を狙われたりするのにたったの40万円。誰もやらないよね。


けれどボク達はお金稼ぎの為に来た訳じゃないし‥‥


「マスター、獣狩りを全品貰えるかしら。ああ、聞くけど“そのまま”で良いわよね?折り紙を送るわ。」


『ラフィさま。殺し無し、痛め付けた証拠画像を送るっていう意味です。』


フィクサーさんありがとう!そのまま‥‥蓋を開けるかどうかかな?ニュアンス的に蓋は多分首の事。首を獲るかどうか的な。折り紙はそのまま骨を‥‥折る的な?


店内の空気感が変わった。皆がボク達をジロリと睨んで、殺気を滲ませる。欲しく無い依頼でも持ってかれるのは心情的にもムカつく。どうしても仕事が無かったら妥協して受ける気でいたのに何だこの新参は。R.A.F.I.S.Sに想いが流れて来ていた。


タマさんは気にせずヘラヘラしながらお婆さんと話を付けてしまう。


「何だいアンタらは。ま、こっちとしちゃ詰まってたモンがはけて助かるけどね。このクズどもは150万超えなきゃピクリともしねぇでよ。全部纏めて受けりゃ300、400は行くってのに楽したがる。オレが若い頃は何でも受けてたってのによ。」


「ハッ、惨めよねー。ほら、行くわよ。今日中に全部終わらせてやろうじゃない。フラウリリム。」


「分かってる。」


殺気だったバーが急に静かになってしまう。カウンターに突っ伏す男達をお婆さんは不審そうに見た。誰もがスヤスヤと寝息を上げている。


「お酒が入っていたりすると成功しやすいんだ。乱闘なんて不毛だからね。」


去って行くボク達を、お婆さんは面白そうに手を振って見送ってくれた。





『依頼内容はどれもユターニのやんちゃ坊主共を痛め付けてやれって内容で御座います。数件の傷害沙汰の事件を起こすも警察に手配もされず、キレた被害者が依頼を出したって所ですね。ターゲットの詳細を送ります。』


ブランさんから降りて来た情報と、ターゲットが普段居る区域の情報が。依頼者の執念がそのまま報酬額とターゲットの詳細に反映される。高額な物ほど詳細で、中にはターゲットの住所と家族構成まであったり。


『(⸝⸝o̴̶̷ ̫ o̴̶̷⸝⸝)ミニフィーを使って捜索します。』


ボクの姿はピュア・クラウンの中へ転移。ユリシスを開いて、光学迷彩機能付きの強化外装に身を包んだミニフィー30体を呼び出す。バレないように狭い範囲で捜索するよ。


次々とピュア・クラウンから飛び出して、そのまま街中へ散って行った。直ぐにボクはタマさんの隣へ戻って行く。


「こういう依頼の1番怠い所って、どこをほっつき歩いてるのかも分からないターゲットを探し回る所よね。やっと見つけても繁華街の中じゃ襲えないし、尾行してチャンスを待つしか無い。場合によっては丸々1日掛かるわ。それでたったの50万円前後。個人ならともかく、旅団単位でこんな依頼受けてちゃ干上がっちゃう。」


上手くやらないと警察に目を付けられるし、ヤマノテシティだから逃げ場も少ない。本当に割に合わないお仕事。


「私も風に訊こう。近場に5人グループが居たね。」


オウルさんが短い詠唱をして集中しながら目を瞑る。ボク達は通りのベンチに腰掛けたまま、ボク達を尾行する数人の傭兵達に気付かないフリしてのんびり過ごす。


「早速身元不明な新顔傭兵を探る連中が出たわ。バーで目立ったお陰で目を付けられるのが早くて光栄ね。」


敵意は無い。向こうもボク達に気付かれてる事に気付いていると思う。その上でどう出るかを試している。業界人として常識があるタイプか、お薬に振り回されて適当に動くタイプか、信用出来る仕事をするタイプか、ターゲットを買収して依頼達成を誤魔化すタイプか。


何よりもその実力と手の内の情報はお金になりそうだし。


ミニフィーの1体がすぐ頭上から見下ろしている事には全く気付く気配が無かった。一応こっちも監視しておかなきゃね。


「見つけた。フィーよりも早かった。」


オウルさんが一番乗り。ターゲットの脳波情報があればあっという間でも、無いと少し時間が掛かる。周辺のヒトをR.A.F.I.S.Sに繋いで、情報を辿って行かなきゃいけないから。


「凄いです。頼りになります!」


「んふ。いっぱい頼って欲しい。」


タマさんもオウルさんの肩を叩いてやるじゃない、と褒めてくれた。ベンチを立って直ぐに動き出す。一直線に通りの向こうへ。場所は小汚いゲームセンター、昼間から入り浸って腐っていた。


犬耳の生えた5人組は見るからにガラが悪くて、顔にタトゥーを入れていた。真っ直ぐに。タマさんが気安く声を掛ける。


「ハーイ、お兄ちゃん達。遊んでいかないかしら。」


ギロリと向いた10の瞳。敵意に満ちていて、苛立ちを隠せそうに無かった。


「同胞か。でもよ、聞いたぞ。オレ達をしばく依頼を受けたバカな傭兵が居たってヨォ。テメェだろ。」


バレてる。あっという間にターゲットに情報が売られていた。だから誰も手を付けずにそのままにされていたんだ。


「話が早くて助かるわ。で、買う?」


依頼の達成を誤魔化すか。彼らはユターニの聖戦と称して3度の集団暴行事件を起こし、5度の強姦に関わっていた。強化外装は無し、生命保険未加入者。プラスチックライフルを全員が所持、質量兵器は無くてもナイフ類を持っていた。


犯された女性の家族が80万円の額を掛けて依頼を投げていた。警察の捜査で1度目の事件の時に全員逮捕されたものの、曖昧な理由で数日後に釈放。それからは被害届を出しても動く気配無しだった。

事件の捜査もされずに、被害者は居ても犯罪の証拠は無い。


ターゲットは皆似たような経歴を持っていた。ボクは絶対に許せないと思う。でも‥‥そんなボクの様子にタマさんは安心しなさいよ、と小声で返した。


1分ぐらい皆がコソコソ話し合い、堂々とするボク達の実力を推し量る。強化外装を着ているか‥‥業界人でもない限り見た目じゃただのファッションかどうか分からない。分かりやすい装甲が付いてるタイプじゃないから。


傭兵と言ってもピンキリ、お金が無ければ強化外装もプラスチックライフルで貫通出来ちゃう安物しか買えない。つまり彼らでも勝てる見込みは十分あった。


新顔でその実力も装備も分からない‥‥ただ、


「悪いがタイプじゃ無い。女2人と子供が俺らを買うって?ははっ、面白れぇ。」


あっという間にボク達を囲んで、そのまま店の奥へグイグイと連れて行く。店主は見て見ぬふり、監視カメラも無い奥の部屋へボク達を押し込めてドアを閉めた。


「傭兵ってのは辛いよな?なぁ、脱いでご奉仕してくれるのなら許してやる。装備は全部置いていけよ。それとこの口座に全額金を振り込んでおけ。このガキは‥‥おい、お前はニホンコク人か?フードを取って顔を見せろよ。“耳”が無かったらナイフを飲み込ませてやる。」


収納からヒョイと三節棍を取り出した。ボクの背丈からするとあまりに大きな三節棍。そのサイズは2m程、タマさんの身長よりも大きい。


咄嗟に目前の男が棍を蹴り飛ばそうとするけど‥‥強化外装の出力で握られた棍はびくともせず。代わりに男の足首が嫌な感じに曲がった。


「あっ?」


タマさんとオウルさんはパッと飛び上がる。同時にボクはその場で1回転!


三節棍はクラスD規格の質量兵器。鳳凰刀よりもずっと軽いけど、対人戦なら並大抵のバリア装甲を叩き壊せる火力が出る。B規格の強化外装で振り回せば凶悪な威力になった。


勿論出力を最低出力で、男達の脛を狙って大きく薙ぐ。一瞬で狭い室内に連鎖して響いた骨の折れる音。悲鳴が上がって倒れ込む。誰もが起き上がれずにビックリした顔でボクを見上げていた。


「フィーはアンタらみたいな悪党に容赦ないわよ。」


「大丈夫、音も通信も外に漏れない。」


消音のマギアーツとジャミングでこの部屋は外界と完全に断たれている。ドア前に立ったタマさんが塞いで、天井に立ったまま見下ろすオウルさんが室内に旋風を巻き起こした。


強化外装でないと踏み止まれない猛風に、誰もが奇声を上げて転がって壁に打ち付けられる。更に骨が折れる音が連鎖して、完全に起き上がる事も出来ないようだった。


「オプションサービスとしてアキレス腱の切断と、性器の完全切除、獣耳の切除を求められてるのよね。悪いわね。恨みはないけど、お金の為よ。大丈夫、止血して闇医者を呼んであげるから。医療費は自腹でお願いね。」


「やめてくれ!!払うから!!200万‥‥!!300でどうだ?!傭兵だろ?!ユターニを敵に回したくないだろ?!」


「3000万でどう?」


「はぁ?!」


「今後アンタらが歩けるか、人生を買うのよ?生産性のないクズでも妥当な金額じゃない?」


そんなお金はある訳も無く。


タマさんが施術をする間、ボクは目を背けていた。


自力救済。


警察は役に立たないからって、自分達の手で犯罪者を勝手に裁く。その刑量は目分量で決められて、憂さ晴らしや復讐心を根拠に何処までも割り増しされた。


アングルスでも似たような光景は目にしたけど‥‥嫌だなって。そう感じていた。

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