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615、コエナシ町は混沌とした田舎街

ヤマノテシティ、下層区。摩天楼が太陽を隠し日照権を奪われた人々が住まう、輝かしいヤマノテシティの影。


ヤマノテシティの中層はニホンコクの第二の首都なんて言われるぐらい栄えていて、どんな娯楽もあるし有名な大学だって何個もある。ニホンコク有数の巨大繁華街を幾つも抱えていて、富を象徴するかのようにメガコーポの本社ビルがズラリ。立ち並ぶ。


そんな中層を支えるのが広大な下層区域。土台が3つ積み重なったヤマノテシティ。その1番下の世界へボク達は潜入しに行く。


中層区から、そのまま下層区へタクポで降りられる空域にピュア・クラウンが入り込む。既に光学迷彩を発動していて、周囲のタクポを不自然に1個分押し退けながら動きを合わせて下降して行った。


「下層区にはあまり来ないです。いつも中層でお仕事を受けますから。」


「そうね。本来ラフィのような成功した開拓者には無縁な場所よ。どう?灰皿みたいな街でしょ?」


「全体的に灰色っぽいです。でも下層区にも繁華街があるんですよね。特に駅前は栄えてるって聞いています。」


YR下層環状線オオタ生産センター前駅。ここからでも見えるオオタ生産センターへ接続する為の駅はとっても大きい。空を漫画キャラクターのARが動き回り、無数のタクポが飛び交う様子が見下ろせた。


「下層区は栄えている場所とそうでない場所の差が激しい場所で御座います。環状線の駅前を中心にぐるりと一周、繁華街が続いているのです。逆に環状線から分岐した各私鉄線の駅前は寂しく、大抵私鉄の行き先は大型生産区の入り口です。労働者を輸送する為だけの地下鉄で御座いますね。」


だからヤマノテで他の都市へ移動するヒト達は、割高なお金を払ってでも環状線付近に住みたがる。栄えている分治安も良いし、流石に繁華街のすぐ側となれば警察の目も鋭い。


「繁華街とホテル街のサンドイッチで一周してるようなもんよ。でも、潜入先は殺人事件があって犯人が駆け込んだスラムの近く。湖栄成‥‥コエナシ町ね。ガッツリ私鉄沿線、治安最悪の肥溜め町。良い旅になりそうね。」


タクポが映す景色がどんどん寂しい風景に。建物も背が低い建物ばっかりになって、ARの一つも見かけない治外街のような街並み。


『郊外に本社を構える低資産な会社が建てたしょぼいビル群ですねぇ。安っぽい支社の営業所から近隣住民を多少満足させるカフェにバー。おやビックリ。カラオケすらこの辺りには一軒もありません。』


ヤマノテシティとは思えない光景を見て、改めてお金が渦巻くこの都市の残酷さのようなものを感じていた。


「今迷彩を解いたら凄い目立ちそうだね。ピュア・クラウンが飛んで良い空域には思えない。」


オウルさんも興味津々ながらにそんな感想を抱いていた。


ヤマノテシティと言えば何処までも続く摩天楼なのに、ここは完全に田舎街だった。


「私鉄沿線なんて基本団地みたいな住宅街とそれに付随する最低限の施設で出来た町ね。そこに亜人のスラムがあちこちに出来てるのよ。ほら、あそこの倉庫。亜人が出入りしてるでしょ?内部に所狭しと布団代わりの布が敷かれた雑魚寝部屋とか、お手製のバーとか、胡散臭い商店が詰め込まれてるの。」


そんな街並みを見下ろしながら作戦会議。ブランさんが事前にこの地の組織を色々調べてくれていた。


「この地の主要な組織ですが、1番目立つのはマフィア系自警団・ガラパゴスで御座います。かなりガラが悪く、他の自警団との衝突もしばしば起きているようです。」


ガラパゴス。元から下層区全域に根付いていたマフィア組織が、昨今の自警団ブームに乗っかって自警団を自称するようになったもの。警察もガラパゴスには関わらず、違法な活動の多くを黙認するかのように目を瞑る。人手不足だけでは無く、現地の警察の多くが個人的な弱みを握られている‥‥そんな噂が囁かれていた。


「半グレ系自警団、カーディナル。カーディナルは元々不法な自警団組織として活動していました。この手の組織では稀に見るレディースで御座います。構成員は殆ど女性、意図的に男性を排除して活動するタイプなのです。」


カーディナル。現地人で構成された女性メインの半グレ達。特に亜人排斥の活動が活発で、亜人がらみの凶悪な傷害事件を度々起こしている。その分亜人のスラムとも仲が悪く、路地裏で顔を合わせれば必ず殴り合いの喧嘩になるらしい。


「レディースねぇ。異性のやり取りのゴタゴタで内部崩壊ってパターン多いから、意図的に男を排除する組織が偶にあるのよね。逆に男が女性を排斥した半グレ組織を作った話は聞かないけど。」


タマさんもそういう組織を見た事があるようだった。そっか。胡蝶之夢も言われてみればレディース系組織だったのかも。


「亜人連合支部、グエルブ。強く地面を蹴る‥‥異界地の言葉でそのような意味合いの組織名です。この地のスラムは全てグエルブが関わっております。多種多様な亜人が住まうスラムを運営するものの、1枚岩という訳でも無く内部でも細かい派閥が多いようです。特に最近はカルト宗教でもあるユターニが流行っていますので。」


グエルブ。亜人連合と言えばサキュバスクイーン、フレア・ローズさんが率いる大世帯。そのヤマノテシティ支部の一つがグエルブ。元々は犯罪組織って感じじゃなく、現地のマフィア達に脅かされる立場だった。だけどトウキョウシティから流入した犯罪者達や、流行ったカルト宗教ユターニが原因でかなり荒れているらしい。


ユターニ‥‥ハムハムでもしょっちゅう話題になって炎上している酷い宗教。亜人の救済を掲げた宗教だけど、その内容はニホンコク人へのあらゆる犯罪行為を推奨するもの。

ニホンコク人への全ての攻撃は聖戦‥‥征伐戦争の延長戦に基づくものであり、敬虔な信徒はゲオルグの丘へ至る事が出来るんだって。強盗殺人強姦、思い付く全ての悪虐は宗教活動の一環。


不干渉権を盾に散々虐められて来た亜人達の間で、最近になって凄い勢いで流行っていた。


「なーにが宗教よ。犯罪の言い訳にしてるだけじゃない。言っとくけど宗教活動だろうが何だろうが、犯罪は犯罪よ。アイツらが期待する程司法も味方してくれないわ。」


「一部の犯罪者のせいで、真面目に生きている亜人のヒト達が可哀想な目に遭うのは嫌です。どうにかしたいな。」


この潜入ミッションの合間に何か光明が見えると良いな。


「公式に存在するコエナシ自治会。彼らは自警団ですが、基本的に皆で犯罪者に抵抗しようと集まった非力な羊達で御座います。非武装ですが横の繋がりと連携を活かして何とか生き延びていますね。基本貧困層ですので、本人達が思う以上に他の組織に興味を持たれてもいません。」


コエナシ自治会。現地の市民が集まって治安の悪さへ対処しようとしているみたい。でも武器も無いし、警察は頼りにならないしで不安な毎日を過ごしている。けれどお金を持っている訳でも無いから、襲う理由も乏しく近寄って来なければ相手をしないって感じに無視されていた。


「そしてチャンスを狙う開拓者に傭兵が、両組織に金で雇われて戦っているのです。勿論企業戦争絡みの案件も多いでしょう。この地の治安を最悪にしている元凶は、結局の所コーポなので御座います。」


コエナシ再開発計画が動き出していた。大規模な土地の売買が行われていて、再開発に伴い色んな権利が水面下で動き回っている。どの組織からしても頭痛の種になっていた。


「コーポに自分達の縄張りを勝手に再開発されるのよ?黙って大人しく退くと思う?工事現場は荒らされ放題、どこも居住権にしがみ付いて徹底抗戦の構えを見せているわ。逆に住民から買い叩いた土地をガラパゴスが超高値を付けて転売したりね。」


そんな混沌とした町、それがコエナシ町だった。


『ヤマノテシティじゃ良くある事ですよ!にゃはは、コーポは寂れた街を再開発して生産区を建てたいですし、ここを故郷に感じている現地住民が抗議します。しかし取り壊すだけ取り壊して、物価の上昇を理由に採算合わずに工事計画凍結!更地だけ残されてさぁ大変!なんてのも良くある話です。意地でも更地の権利を手放さないクソコーポvs土地を買い叩きたい別のコーポで企業戦争!にゃはははは!』


再開発って何年も掛かるから、その間物価が安定していないと危ない。でもメガコーポが大規模な工事を行うとどうしても建材の物価が上がっちゃう。タイミング悪く時期が重なっちゃうと、工事を強行しても予算が何倍にも膨れ上がって採算取れずに大赤字。


だから更地のまま工事計画を泣く泣く凍結、掛かり続ける土地代と物価の変動に揉まれながら眠れない夜を過ごし続ける‥‥そんな話をモモコさんからも聞かされていた。


‥‥虹渦島の工事の件と言い、シャーリアの件と言い。特に最近はスクエア連盟が大規模工事を連続して行っていた影響で、かなり建材の値段が釣り上がってしまったらしい。


コエナシ町を再開発しようと手を伸ばすコーポ達も苛立っていた。


そんな町へボク達は降り立つ。


ボクとタマさんとオウルさんの3人で。ブランさんは付近を飛ぶピュア・クラウン内でサポートを、フィクサーさんがボクのスマイル内で支えてくれた。カテンさんは‥‥その。流石に目立ち過ぎて潜入は無理だから。ごめんなさい。


ボクの姿はタマさんがいつも着ているような黒パーカー。顔をフードで隠してアプリで更に隠し込む。浮かんだ顔文字がボクの表情を作っていた。オシャレな赤いマフラーをリボン結びに首に巻く。夏のEXPOからもう3ヶ月、もう寒い時期だからね。


タマさんはサングラスと立て襟で顔を隠した、オシャレでカッコいいパンクなロングコート。白と青を基調とした衣装はボクみたいで似合っている。声を変声機で変えていた。


オウルさんはだいぶ寒くなって来たこの季節に合う可愛いコート姿。ブランさんがコーディネートしたゆるふわカジュアルファッションのエルフさん。声は変えずにそのまま。オウルさんの声を知っているヒトは居ないだろうし、全員生声じゃないのは流石に怪し過ぎるから。


「じゃ、早速行くわよ。適当に仕事を探して先ずは目立たないとね。カーディナルに接触するのが1番だけど、場合によってはガラパゴスでも良いわ。グエルブに直接取り入るのは厳しいわね。アイツらは流れ者の傭兵を信用しないでしょうから。」


既に初冬、ヤマノテシティの空気もだいぶ冷えて来ていて。冷たい地面を蹴ったボク達の姿は路地裏へ。潜入ミッションが始まった。

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